どこまでも玩具

片桐瑠衣

文字の大きさ
上 下
187 / 206
晒された命

13

しおりを挟む

―雅先生、俺……先生のそばにいると心が休まらないんですよ―

―おやおや。いつの間にか嫌われてた?―

―そうじゃなくて!―

―僕は安まるけどね―

―はい?―

―お前は純粋過ぎるから―

―褒め言葉ですか、それ―

―好きに受け取りなよ―





「類沢先生っ!」

 過去が一瞬にして消える。
「な……んで」
 雅樹の手が揺れ、地に落ちる。
 力が抜けて、凶器が散らばった。
 ガタン。
 座り込んだ青年の腕に、鉄が食い込んでいる。
「瑞希!」
「あ……痛いですから……先生。これ、どうしたらいいんですか、ね」
 類沢は頭が白くなっていくのを感じた。
 腕だけじゃない。
 横から飛び込んで代わりに受けたんだろう。
 脇から斜めに、心臓に向かって突き刺さっている。
「か、ん……覚無い、んで……わかんない…ですけど」
 手が痙攣している。
 薬が切れていなかったんだ。
 だが、今回はそれが幸いしたかもしれない。
 急いで携帯を取り出し救急車を呼び出す。
 雅樹は呆然としたまま、瑞希の前に立ち尽くした。
 その唇が「なんで」「どうして」を繰り返している。
「瑞希、瑞希! 聞こえる?」
 力の無い目。
 瞬きすらせず、瞼が震える。
「錆が入るとまずいから抜くよ? 大きく呼吸して。し続けて」
「は……い」
 類沢は目を背けたい傷をしっかり見極めて、一気に引き抜いた。
 鼓膜を裂くような痛々しい音と悲鳴の後、瑞希は意識を失った。
 すぐに大きめのハンカチを巻き、キツく縛り付けた。
 血は止まらない。
「雅樹!」
 ブツブツと呟いていた雅樹が、青ざめた顔で首を振る。
「殺人犯になりたくなければ早くそのシーツ外して持って来い!」
「え……あ」
 すぐにそれで上半身を締める。
 腕も同様に処理をしなければならない。
 いつも持ち歩いている包帯が今あればと思ってしまう。
「それ、全部拾って」
「え」
「どっかに隠して、捕まらない言い訳を救急車が来るまでに考えておきなよ。庇う気はないし、間に合わなければ裁判に原告じゃなくて被告として立たせるから」
 涙を流す雅樹を置いて、一階に下りる。
 安静が一番だが、この狭い階段を担架で降ろす方が負担が大きい。
「瑞希」
 瞑った目から思いは読み取れない。
「会わせたい人がいるんだ。死なないで」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

騙されて快楽地獄

てけてとん
BL
友人におすすめされたマッサージ店で快楽地獄に落とされる話です。長すぎたので2話に分けています。

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

放課後教室

Kokonuca.
BL
ある放課後の教室で彼に起こった凶事からすべて始まる

真・身体検査

RIKUTO
BL
とある男子高校生の身体検査。 特別に選出されたS君は保健室でどんな検査を受けるのだろうか?

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

営業活動

むちむちボディ
BL
取引先の社長と秘密の関係になる話です。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

処理中です...