どこまでも玩具

片桐瑠衣

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立たされた境地

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 シャワーを浴びる。
 大理石調の綺麗なバスルーム。
 シャンプーがまた見たこともないガラスの容器に入っている。
 あの香りは香水じゃなくてこれかもしれない。
 匂いを確かめ、数滴泡立てる。
 浴槽に浸かって、突然バクバクと心臓が騒ぎ始めた。
 そういえば、初めてだ。
 自分から泊まりたいといって、こんなにゆっくり風呂に入るのは。
 家族? 
 恋人? 
 パシャリと顔に水をかける。
 そのまま手をなぞるように下ろしながら自分に呆れた。
 バカみたいだ。
 ドライヤーをかけて、寝間着に身を包む。
 リビングには、良い香りが漂っていた。
「何作ったんですか」
「キノコのリゾット」
「リゾート?」
「……紅茶かコーヒーどっちにする?」
 なんだか無視された気分だが、俺はコーヒーを頼んだ。
 凄い。
 レストランそのものだ。
 色付けのパセリも。
 細長い白皿には、カプレーゼが盛り付けられている。
「類沢先生って……料理師免許持ってますよね」
「そんなの取るのが手間だよ」
 席に着きながら呟いた。
 素人の料理じゃない。
 俺は手を合わせ、いただきますと囁いた。
「今時珍しいね」
「何がですか?」
「いただきます」
「そうですか?」
 スプーンを置いて、類沢が手を見つめる。
「孤児院では毎食やっていたんだけど、高校に上がると誰もしていなかったね」
 俺は赤面する。
 もしかしたら、弁当に手を合わせていたのは俺だけかもしれない。
「されると嬉しいもんだね」
「……ですね」
 留守番の時、美里に作ってあげたことがある。
 側で心配そうにみていた美里が、皿を前にして手を合わせたのは何か感動だった。
 ええ?
 俺、まさかこんだけ類沢に料理ご馳走になっといて、したの今が最初?
 類沢はワインを飲んでいる。
 気にする方が変だ。
「もうすぐクリスマスだね」
 ワインを注ぎながら類沢が言った。
 すっかりその存在を忘れていた俺は、カレンダーを確認してしまう。
「……本当だ」
「瑞希たち受験生には関係ない?」
「まぁ……そうですね」
 今日は二十三日。
 イブイブだ。
 毎年、母さんがツリーを飾ってくれていた。
 今年は倉庫に仕舞ったままだ。
「類沢先生って飾り付けしないんですか?」
「持ってないよ」
 意外だ。
 彼女とかをサプライズで驚かせるのが似合うのに。
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