どこまでも玩具

片桐瑠衣

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立たされた境地

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 いいんだ。
 訊かなきゃ教えてくれない。
 類沢は教えてくれないんだ。
 頭の中で、自分が叫び声を上げた。
 でもそれはすぐに掻き消され、沈んでいった。
 悲鳴の残響が木霊する。
「先生」
「ナニ?」
「教師、辞めたりしませんよね」
 類沢が目を見開く。
 本当に俺から発された言葉なのかと疑うように。
 それから表情をやわらげる。
「辞めたりしないよ」
「裁判は」
「受けるつもりだ」
 声が空気を貫く。
 そうか。
 自信があるんだ。
 確たる自信が。
 安心するような、鳥肌立つような。
「弁護人とか雇うんですか」
「知り合いがいるからね」
 知り合い。
 また胸が疼く。
 自分の知らない類沢によく出会う。
 それが心臓を痒くさせる。
「まさか僕が負けると思って来たの?」
「そんなことは……」
 あれ。
 類沢の笑みが直視出来ない。
「瑞希はさ」
 類沢が月明かりに目を落とす。
「勝って欲しい? 負けて欲しい?」
 唇が乾く。
 舌で舐める。
「瑞希が好きな方を選んでよ。そしたらそれに決めるから」
 何の冗談だろう。
 俺は動けなくなった。
 類沢の目が此方に戻る。
「どっちがいい?」
「……俺は」
 言葉遊び。
 これはただの言葉遊びだ。
 また、からかっているんだ。
「出来たら負けて欲しいですよ」
「あはははっ。素直だね」
「余裕ですね」
「気張るだけ無駄だよ」
 いつもと変わらない。
 変わって見えるのは、俺がおかしいからなんだ。
 紅茶を飲み干す。
 肝心なことは何一つ聞けていない。
 類沢が脚を組み直す。
 この空気を壊したくない。
「明日から冬休みなんですよ」
「へぇ。そうだっけ?」
「だから……」
「構わないよ」
 この人は一から十を読み取る。
「着替えくらい持ってきたら?」

 俺はバカだ。
 着替えを抱えて、チャイムをまた鳴らす。
 バスタオルを肩にかけた類沢が笑いながら扉を開けた。
 午後9時。
 時間は早い。
 端から見たら、俺の家みたいに見えんのかな。
 そんな下らないことを考えて入る。
「向こうでシャワー浴びてくれば良かったのに」
「湯冷めで来るまでに風邪引きますし」
 本当の理由はちがう。
「夕食たべる?」
「先生は?」
「朝から食べてないけど」
「じゃあ、食べましょうよ」
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