どこまでも玩具

片桐瑠衣

文字の大きさ
上 下
169 / 206
立たされた境地

18

しおりを挟む
 コートと鞄を抱えたまま座る。
「西雅樹って知ってる?」
 椅子から落ちそうになった。
 なぜ、雛谷の口からその名前が。
「知ってるんだ」
 あぁ、バレた。
 いや、バレても何もないんだが。
 いや待て。
 本当に何もないのか。
 とにかく落ち着け。
 俺。
 雛谷は脚を組んだ。
「そっか……実は先日その男が学園に来て、雅先生に会わせろの一点張りでさ。たまたま対応していたんだけど、特に気になるような感じじゃなかった」
「はぁ」
「で、今回の類沢先生の欠席。裁判。それを聞いて思い出したのはさ、彼が裁判の話がしたいって言ってたことなんだよねぇ」
 愕然とする。
 西雅樹は、学園に来てまで、申し込んできたのか。
 類沢は知ってるんだろうか。
 だから、家に来た。
 雛谷が髪をクルクル弄る。
「あっ。何か知ってる顔だね」
 いきなり身を乗り出し、顔を近づけてきた。
 椅子の背に押し付けられるように圧倒されてしまう。
「瑞希も関係してるー? その裁判にさ」
「か、関係してても、雛谷先生には関係ないです」
「あるよ」
 そこで大仰に腕を広げてみせる。
「だって類沢先生がいなくなっちゃえば、遠慮なく瑞希を」
 わざと言葉を切り、にっと笑う。
 恐ろしい人だ。
「……そんなことになったら雛谷先生は俺と法廷で闘いますね」
「楽しみだねー」
 時計が五時を告げる。
「類沢先生って瑞希のなんなのかな?」
 核心を突かれた気がした。
「……先生です」
「違うよ、違う。そういう類の答えは期待していない」
 黙るしかない。
 わかんないから。
 俺にとって、なにか。
 逆に教えて欲しい。
「西雅樹って男の子も……瑞希みたいな生徒だったのかね」
 俺は目を見開いて立ち上がった。
「失礼します」
 なんだ。
 きっと、聞きたくなかったんだ。
 それだけは。
「やっぱりねぇ」
 雛谷は扉を見つめて笑った。

 携帯。
 鞄のチャック。
 電話。
 電話帳。
 指が上手く動かない。
 校門を出て、すぐに電話を掛けようとする。
 しかし、手が止まった。
 何を訊きたいんだ。
 雛谷の言葉が蘇る。
 西雅樹と俺は、同じ?
 同じなんですか。
 訊きたい。
 でも、訊きたくない。
「くそっ……雛谷め」
 わざわざ言われたくないことを。
 タイミングが悪いんだ。
 本当に。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

アルバイトで実験台

夏向りん
BL
給料いいバイトあるよ、と教えてもらったバイト先は大人用玩具実験台だった! ローター、オナホ、フェラ、玩具責め、放置、等々の要素有り

壁乳

リリーブルー
BL
俺は後輩に「壁乳」に行こうと誘われた。 (作者の挿絵付きです。)

騙されて快楽地獄

てけてとん
BL
友人におすすめされたマッサージ店で快楽地獄に落とされる話です。長すぎたので2話に分けています。

放課後教室

Kokonuca.
BL
ある放課後の教室で彼に起こった凶事からすべて始まる

男子寮のベットの軋む音

なる
BL
ある大学に男子寮が存在した。 そこでは、思春期の男達が住んでおり先輩と後輩からなる相部屋制度。 ある一室からは夜な夜なベットの軋む音が聞こえる。 女子禁制の禁断の場所。

天国地獄闇鍋番外編集

田原摩耶
BL
自創作BL小説『天国か地獄』の番外編短編集になります。 ネタバレ、if、地雷、ジャンルごちゃ混ぜになってるので本編読んだ方向けです。 本編よりも平和でわちゃわちゃしてちゃんとラブしてたりしてなかったりします。

寮生活のイジメ【社会人版】

ポコたん
BL
田舎から出てきた真面目な社会人が先輩社員に性的イジメされそのあと仕返しをする創作BL小説 【この小説は性行為・同性愛・SM・イジメ的要素が含まれます。理解のある方のみこの先にお進みください。】 全四話 毎週日曜日の正午に一話ずつ公開

処理中です...