どこまでも玩具

片桐瑠衣

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立たされた境地

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 夢を見た。
 暗い、真っ暗闇。
 何も見えない。
 河南はいない。
 それだけはわかる。
 誰かが見ている。
 背後から。
 ざわざわと。
 血が騒ぐ。
 首筋を舐めるような黒い闇。
 なんだ。
 何がいるんだ。
 俺は足を引きながら、振り返った。
「あんたにそこは似合わないよ」
 笑顔の西雅樹が言い放つ。
 その手には、拳銃。
 よく映画とかに出て来るような。
 黒い、拳銃。
「雅先生?」
 何かが弾ける音が木霊する。
 衝撃が胸を貫く。
 でも、撃たれてはいない。
 ドサリ。
 後ろで、人が倒れた。
「類沢……先生…?」
 振り向けない。
 振り向いちゃいけない。
 雅樹が笑う。
 楽しそうに。
 気怠そうに。
 引き金を引きながら。
 笑う。
 拳を握る。
 殴らなきゃ。
 コイツは危険だ。
 殴らなきゃ。
 止めなきゃ。

「先生は殺させないっ」



 ガクンと、机に突っ伏す。
「どうした、瑞希。グロッキーなのか」
「グロッキーって意味知ってて言ってんのか金原……」
 今朝見た夢が脳裏にこびりついて離れない。
 最近ナイフばっか見ていたからか。
 拳銃まで出て来るとは。
 それはいい。
 最後のセリフはなんだ。
「いや、疲れてんのかなって」
「まぁそりゃ疲れちゃいるけど」
 なんであんなこと叫んだんだ。
 俺、やっぱりおかしいよ。
 頭おかしい。
 夢まで狂ってきたのか。
 大体、あの雅樹って男がなんで出て来るんだよ。
 嫌な空気。
 まだ声も交わしてないのに。
「みぃずきっ! 見てコレ」
「誰……?」
 携帯の画面を突きつけられる。
 まだ幼い髪を結んだ少女。
 クリクリした目で見つめ返す。
「おれの妹だって」
「えっ! あの櫻って子か」
 俺の前に金原が携帯を奪い取る。
「母さんの家に行ったんだ。てか、鏡子さんが協力して待ち伏せてた。可愛いよな?」
「可愛い……」
「圭吾、目が本気ー」
「うわぁ。そうか。良かったな、アカ。向こうの人とは会ったのか?」
「ん? ああ、義父さん? 会ったよ。凄いダンディーなパパって感じだった。スノボの大会優勝暦ある中々タフな人だった」
 チャイムが鳴る。
「教われば?」
「うん。今度来いって」
 講堂に向かう。
「そしたらアカに教われるもんな」
「な!」
「それ目当て?」
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