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立たされた境地
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しおりを挟む―お揃いですね。俺と先生の名前―
ギシリ。
起き上がり、隣に眠る瑞希に目を向ける。
静かに寝ている。
頭痛がする。
先日からの、やまない頭痛。
原因をやっと知れた。
今日を予感していたんだろう。
ベッドから降り、寝室を出る。
まだ日付も変わらない時刻。
今日、瑞希を連れて来たのは間違いだったかもしれない。
いつもの様に、家に降ろしてくれば、あの青年に見られずに済んだのに。
抱きたくなった。
それだけの理由。
篠田が朝の職員会議で言った言葉に触発されて。
ソファーに座り、煙草を取り出す。
―先生が煙草を吸うとこ、好きですよ。格好良くて―
目頭を押さえる。
味がしなくて、すぐに灰皿に押し付けた。
雅樹に邪魔をされた気がする。
西雅樹。
何を企んで今更現れる。
二本目に手を伸ばし、やめる。
月明かりが灰皿に反射する。
壁に光が模様を描いている。
この光。
雅樹と見たことがある。
海が好きな彼が、好きだった光。
目を閉じる。
眠気はない。
闇の中に引き摺り込もうとしてくるのは、自分の過去。
学園に赴任する前の。
前の、学校の。
雅樹の学校の。
「先生! 怪我しました、もうすぐ死にます!」
勢い良く飛び込んできたジャージ姿の生徒に、類沢はつい笑ってしまった。
「大丈夫。それだけ意識がハッキリしてれば死なないよ」
生徒は息を切らしながら、ヨロヨロと歩いてくる。
「そこに座って。消毒するから」
「このガーゼで拭けばいいんですか?」
「勝手にやらないの」
四月に新任し、もうすぐ三カ月。
六月の鬱陶しい湿気が満ちている。
毎日来る女生徒達を追い返すのも慣れた時期だった。
腕から流れる血を丁寧に拭う。
死ぬと云った割には、随分平気そうだ。
耐えているだけかもしれないが。
包帯を巻き、固定する。
「何で怪我したの」
「え……喧嘩?」
「僕に訊かないでよ」
「喧嘩です」
生徒はバツが悪そうにした。
喧嘩か。
自分もよくした。
孤児院育ちというだけで、因縁つけてくる馬鹿が多かったから。
おかげで体は鍛えられたが。
感謝はしていない。
「勝ったの?」
「勿論」
誇らしげに胸を張る。
類沢は記録表を取り出した。
「名前とクラスは?」
「三年五組、西雅樹です」
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