どこまでも玩具

片桐瑠衣

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晴らされた執念

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 どうしてあなたは覚えているんだ。
 おれがワザと助けたことを。
 忘れてしまっていたなら良かったのに。
 そしたら、悩むことなく、一昨日の朝に全てを終わらせられたのに。
 この家に入った時点で。
 鞄から取り出して。
 たった数瞬で。
 全部終わらせられたのに。
 覚えているんじゃ、出来ない。
 だって、それは誓いも続いているってことなんだから。
 また、あの日に戻ってしまう。
 みぃずき達が来なければ、きっと心が壊れるのが先で、二人とも息を絶ったかもしれない。
 だから、ありがと。
 そして、父さん。
 あなたには二回目の貸し。
 あなたはおれに二回目の借り。
 生かしてあげる。
 おれも生きたいから。

「いつか……」
 アカは悲しそうに言う。
「いつか、父さんがあの誓いを忘れたら、借りを返してもらいに行く。その時は絶対に躊躇わない。だって、あなたはおれの人生を二回も壊そうとしたんだから」
 ナイフを服の中に収める。
 まるで、そこが居場所のように。
 鎖を邪魔そうによけ、鞄を背負い、父の前に立つ。
「……生かしてあげる、か」
「そう」
 父は顔を手で覆った。
「おれは……哲に生かされているのか」
「そうだよ」
「おれが守っていくはずだったのに……哲は」
 アカが襟梛の手を握る。
 久しぶりに息子に触れられたからか、彼女は涙ぐんだ。
「ちゃんと罪を償ってから、父さんは母さんを守るんだよ。働いて慰謝料でもなんでも払ってさ。おれじゃなくて、母さんを守るんだよ」
 アカの目からも涙が溢れた。
「母さん……おれがいなければ、父さんと愛し合えていたはずなんだからさ……おれが二人の生活を傷つけたんだ、から」
 襟梛が嗚咽を堪える。
 そうだ。
 この家族の最悪の結末は、妻だった襟梛が旦那だった父を殺してしまうこと。
 窓から見える黒い車。
 きっと、アカはそれを感じとっていたんだろう。
 その原因も。
「幼稚園まではっ……あんなに幸せそうだったじゃん……母さんも、父さんもさぁっ」
「哲……」
「なんでっ、なんで……こうなってんの……みんなしてナイフ向け合って、言葉も通じなくなって。第三者が入ってくれなきゃまともに会話も出来なくて」
 俺達を一瞥して、アカは首を振った。
「……違かったじゃん」
「あなた」
 襟梛が涙を拭い、しゃがんで元夫の肩をさする。
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