148 / 206
晴らされた執念
17
しおりを挟む
どうしてあなたは覚えているんだ。
おれがワザと助けたことを。
忘れてしまっていたなら良かったのに。
そしたら、悩むことなく、一昨日の朝に全てを終わらせられたのに。
この家に入った時点で。
鞄から取り出して。
たった数瞬で。
全部終わらせられたのに。
覚えているんじゃ、出来ない。
だって、それは誓いも続いているってことなんだから。
また、あの日に戻ってしまう。
みぃずき達が来なければ、きっと心が壊れるのが先で、二人とも息を絶ったかもしれない。
だから、ありがと。
そして、父さん。
あなたには二回目の貸し。
あなたはおれに二回目の借り。
生かしてあげる。
おれも生きたいから。
「いつか……」
アカは悲しそうに言う。
「いつか、父さんがあの誓いを忘れたら、借りを返してもらいに行く。その時は絶対に躊躇わない。だって、あなたはおれの人生を二回も壊そうとしたんだから」
ナイフを服の中に収める。
まるで、そこが居場所のように。
鎖を邪魔そうによけ、鞄を背負い、父の前に立つ。
「……生かしてあげる、か」
「そう」
父は顔を手で覆った。
「おれは……哲に生かされているのか」
「そうだよ」
「おれが守っていくはずだったのに……哲は」
アカが襟梛の手を握る。
久しぶりに息子に触れられたからか、彼女は涙ぐんだ。
「ちゃんと罪を償ってから、父さんは母さんを守るんだよ。働いて慰謝料でもなんでも払ってさ。おれじゃなくて、母さんを守るんだよ」
アカの目からも涙が溢れた。
「母さん……おれがいなければ、父さんと愛し合えていたはずなんだからさ……おれが二人の生活を傷つけたんだ、から」
襟梛が嗚咽を堪える。
そうだ。
この家族の最悪の結末は、妻だった襟梛が旦那だった父を殺してしまうこと。
窓から見える黒い車。
きっと、アカはそれを感じとっていたんだろう。
その原因も。
「幼稚園まではっ……あんなに幸せそうだったじゃん……母さんも、父さんもさぁっ」
「哲……」
「なんでっ、なんで……こうなってんの……みんなしてナイフ向け合って、言葉も通じなくなって。第三者が入ってくれなきゃまともに会話も出来なくて」
俺達を一瞥して、アカは首を振った。
「……違かったじゃん」
「あなた」
襟梛が涙を拭い、しゃがんで元夫の肩をさする。
おれがワザと助けたことを。
忘れてしまっていたなら良かったのに。
そしたら、悩むことなく、一昨日の朝に全てを終わらせられたのに。
この家に入った時点で。
鞄から取り出して。
たった数瞬で。
全部終わらせられたのに。
覚えているんじゃ、出来ない。
だって、それは誓いも続いているってことなんだから。
また、あの日に戻ってしまう。
みぃずき達が来なければ、きっと心が壊れるのが先で、二人とも息を絶ったかもしれない。
だから、ありがと。
そして、父さん。
あなたには二回目の貸し。
あなたはおれに二回目の借り。
生かしてあげる。
おれも生きたいから。
「いつか……」
アカは悲しそうに言う。
「いつか、父さんがあの誓いを忘れたら、借りを返してもらいに行く。その時は絶対に躊躇わない。だって、あなたはおれの人生を二回も壊そうとしたんだから」
ナイフを服の中に収める。
まるで、そこが居場所のように。
鎖を邪魔そうによけ、鞄を背負い、父の前に立つ。
「……生かしてあげる、か」
「そう」
父は顔を手で覆った。
「おれは……哲に生かされているのか」
「そうだよ」
「おれが守っていくはずだったのに……哲は」
アカが襟梛の手を握る。
久しぶりに息子に触れられたからか、彼女は涙ぐんだ。
「ちゃんと罪を償ってから、父さんは母さんを守るんだよ。働いて慰謝料でもなんでも払ってさ。おれじゃなくて、母さんを守るんだよ」
アカの目からも涙が溢れた。
「母さん……おれがいなければ、父さんと愛し合えていたはずなんだからさ……おれが二人の生活を傷つけたんだ、から」
襟梛が嗚咽を堪える。
そうだ。
この家族の最悪の結末は、妻だった襟梛が旦那だった父を殺してしまうこと。
窓から見える黒い車。
きっと、アカはそれを感じとっていたんだろう。
その原因も。
「幼稚園まではっ……あんなに幸せそうだったじゃん……母さんも、父さんもさぁっ」
「哲……」
「なんでっ、なんで……こうなってんの……みんなしてナイフ向け合って、言葉も通じなくなって。第三者が入ってくれなきゃまともに会話も出来なくて」
俺達を一瞥して、アカは首を振った。
「……違かったじゃん」
「あなた」
襟梛が涙を拭い、しゃがんで元夫の肩をさする。
0
お気に入りに追加
8
あなたにおすすめの小説



男子寮のベットの軋む音
なる
BL
ある大学に男子寮が存在した。
そこでは、思春期の男達が住んでおり先輩と後輩からなる相部屋制度。
ある一室からは夜な夜なベットの軋む音が聞こえる。
女子禁制の禁断の場所。
天国地獄闇鍋番外編集
田原摩耶
BL
自創作BL小説『天国か地獄』の番外編短編集になります。
ネタバレ、if、地雷、ジャンルごちゃ混ぜになってるので本編読んだ方向けです。
本編よりも平和でわちゃわちゃしてちゃんとラブしてたりしてなかったりします。

寮生活のイジメ【社会人版】
ポコたん
BL
田舎から出てきた真面目な社会人が先輩社員に性的イジメされそのあと仕返しをする創作BL小説
【この小説は性行為・同性愛・SM・イジメ的要素が含まれます。理解のある方のみこの先にお進みください。】
全四話
毎週日曜日の正午に一話ずつ公開
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる