どこまでも玩具

片桐瑠衣

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晴らされた執念

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「ここに哲を閉じ込めて? 昔みたいにメチャクチャにして、自分よがりな愛情で縛り付けて苦しめる! そんなあなたには何も言われたくないし、なにも云う権利もないわ!」
「哲を忘れて幸せにすがる女に言われたくないな」
 ドスッ。
 襟梛が横振りで壁を刺した。
 柄まで刺さっている。
 壁には小さく亀裂が走った。
「……お腹の子に障るよ」
 金原が呟く。
 襟梛はハッとしたように、包丁から手を離した。
「わた……し…」
「図星じゃないか」
 男の手首が蒼白になっている。
 類沢はクイと捻り、素早くナイフを奪った。
 だが、痛がる様子はない。
 ナイフにすら目を向けない。
「否定もしないのか、襟梛」
 名前を呼ばれてびくりとする。
 拒絶するように。
 今まで張っていたものが切れたように。
「やっぱりおれだけだ」
 男の表情が和らぐ。
「哲を愛してるのは、おれだけなんだよ」
「いいえ」
 全員がドアに目を向けた。
「それは違いますよ」
 類沢の口が開く。
「……瑞希」

 痛い。
 そんな言葉で片付けようとした時には倒れていた。
 全身に等値の痛みが駆け巡る。
 指先が、心臓が、脳が、焼ける。
「瑞希!」
 金原の声がして、類沢の声もした。
 それから意識を失った。
 アカの家から暗闇に落ちていく。
 でも、落ちる訳にはいかなかった。
 ガシッと、頭上のロープを掴みスピードを殺す。
 摩擦で手が焦げていく。
 離すものか。
 意識のロープをしっかり握る。
 離すものか。
 ガクンと衝撃と共に虚空にぶら下がった。
 それから両手でロープを掴み、上に上っていく。
 急げ。
 急ぐんだ。
 パチッと何かが接続された音と同時に目が覚めた。
 手がジンジンしている。
 頭痛が眩暈を引き起こす。
 立ち上がるのに三分はかかった。
 クラクラする。
 壁にもたれながら、足をしっかりと地につける。
 二階から声が聞こえる。
 早く、行かなきゃ。
 足を踏み出す。
 すぐに倒れた。
 階段の手すりを掴んで起き上がる。
 もう一回。
 一段ずつ慎重に登る。
 類沢の声だ。
 少し、勇気が湧く。
 雰囲気は重い。
 階段を登りきり、絶句した。
 さっきあった扉がない。
 それから、部屋に近づいた。
 アカの両親の会話。
 愛してる。
 愛してる。
 よく言える。
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