どこまでも玩具

片桐瑠衣

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晴らされた執念

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 ガリガリ。
 段々と柱が削られる。
 だが、まだ半分にもいかない。
 ナイフの刃が零れる。
 くそ。
 サバイバルナイフでも買えば良かった。
 苛々しながらも一点に集中して根気よく削り続ける。
 指の付け根が腫れ上がり、爪先は血が滲んだ。
 歯を食いしばった所為で顎も痛い。
 腕はスライドし続け麻痺している。
 だが、それがなんだろう。
 おれは夢中だった。
 これで逃げられる。
 逃げられる。
 柱が軋む。
 あと少し。
 ギシ。
 キシ。
 ガリ。
 ナイフが滑り、勢いのまま床に突き刺さった。
 抜こうとするが、手汗で滑りうまくいかない。
 仕方ない。
 二本目を手に取る。
 これで最後。
 成功させなければ。
 フーッと息を吐いて刃を押し当てる。
 イケる。
 切れ味が違う。
 ガタン。
 ナイフが貫通し、柱がズレた。
 すぐに下の部分を取り外し、鎖を抜き取った。
 ジャラン。
 引きつっていた体が解放された気がした。
 油断も安心もしていられない。
 おれは部屋を横切り、窓から外を見た。
 車庫に車はない。
 父はまだ帰っていない。
 明るい。
 朝か。
 時間の感覚もない。
 時計を探したが、なかった。
 鞄の場所に戻り携帯を取り出す。
 電池はゼロだった。
 それはそうだろう。
 あとは、服だ。
 制服は見る影もなくズタズタになっている。
 クローゼットを開いて、おれは言葉を失った。
 沢山の服が掛かっている。
 どう見ても、父の物には見えない。
 おれの世代の服。
 買い揃えたのか。
 部屋を見渡す。
 気づかなかったが、隅には勉強机もある。
 棚には遊び道具が仕舞われている。
 ゾクッとした。
 まるで、おれのための部屋。
―家族に戻るんだ―
 あれは、そのとおりの言葉だったのだ。
 ここを、おれの居場所にして。
 吐き気がする。
 冗談じゃない。
 ふざけるな。
 おれは適当に服を着ると、赤い髪をなでつけた。
 ここはおれの場所じゃない。
 あのアパートに戻るんだ。
 こんな場所、家じゃない。
 バタンとクローゼットを閉める。
 帰りたい。
 帰るんだ。
 鞄を肩にかけ、また窓を確認する。
 ハッとした。
 丁度車が入ってきたのだ。
 まずい。
 床に刺さったナイフを抜く。
 武器は多いにこしたことはない。
 あれ。
 車が、また来た。
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