どこまでも玩具

片桐瑠衣

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晴らされた執念

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 類沢の冷たい声が空気を貫いた。
「どうもそうは思えませんが」
「な、なにを言うの」
「今の生活は楽しいですか?」
 襟梛はカタカタ震えた。
 まるで、一瞬で心の内を暴かれたように。
「私の意見で恐縮です。ただ、こう見えるんですよ。貴方は今の新しい生活を大切に思っていらっしゃる」
 金原を一瞬見る。
 そうか。
 昨日報告を受けたのか。
 金原が襟梛の家に行ったことは車で聞いた。
「幸せが募るほど、不幸は煩わしい存在になります。だから過去は出来たら忘れたい。私には貴方が過去のしがらみを、ただ断ち切りたいように見えるのです」
「あ……」
「ただの推測ですがね」
 類沢はニコリと笑い、襟梛の前に立つ。
「車の後部座席に、何を敷いているんですか」
「あ……あぁあ」
 俺は眉を潜めて、そちらを見る。
 一瞬早く金原が声を上げた。
「ミラーからも見えましたよ、ブルーシートが」
 襟梛はヨロヨロと車にもたれる。
 キッと俺達を睨んで。
 類沢の声のトーンは変わらない。
「まだ何もしていないんです。何もしなくていいかもしれませんよ」
「よく確証も無いことを」
「よく確証も無く殺す気でいられますね」
 沈黙が走る。
 類沢は避けもせずストレートに尋ねきった。
「……帰って下さい」
 襟梛は玄関に向かう。
 門に伸ばした手を走って止めたのは俺だった。
 彼女も予想外だったようだ。
「瑞希……くん?」
「俺はっ」
 感情を抑える。
「俺は、危うくアカを人殺しにするところでした」
「え?」
「アイツは……親友の為なら院に入るのも厭わない奴です」
 息を吸う。
「その時、庇ってくれたのが其処にいる類沢先生だったんです」
 類沢は突然名前を呼ばれ、片眉を上げた。
「俺と金原はアカの親友です。そして、類沢先生は恩人です。アカを助ける権利は俺達にもあるはずですよね」
「その通りだな」
 カタリ。
 全員が玄関を振り向く。
 低い、透き通った声。
 それでいて脳までこびりつく声。
「あなた…」
 襟梛が殺気立つ。
「あぁ、久しぶりだな。今更何の用だ、襟梛? 娘が出来たみたいじゃないか」
 ビクリ。
 不意打ちを食らったように、彼女は怯んだ。
 男はフッと口元を緩めて笑う。
「櫻だったか? 可愛い娘らしいじゃないか」
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