127 / 206
質された前科
15
しおりを挟む
「一回だけ、病院で紅乃木って呼ばれてたおっさんを見かけたんだ。本人かはわからないけど」
「顔は覚えてる?」
「一応は」
「はい」
類沢が紙とペンを渡す。
受け取って、首を振る。
「いやいや、ムリだから」
「覚えてる限りでいいから」
「絵とか下手だからっ」
「誰が絵って云ったの? 特徴を箇条書きで書きなよ」
あ、そういう。
オレはほっとしてペンを握る。
そうだ。
彫りは深かった。
目の下は角張ってて、髭はない。
眉にかかる程度の髪の毛。
背は真っ直ぐだった。
年齢は五十前半。
あとは、なんだ。
類沢は観察するようにメモを眺めている。
「異常な癖とか無かった?」
「癖?」
「なにかあった?」
記憶を手繰る。
どこか独特だった。
なんでだっけ。
仕草、とか。
雰囲気とか。
「そうだ、なにかとほっぺをトントン指で叩いてた」
「いつも?」
「まさか。苛々したとき決まって、そうやってた」
「苛々、ね」
類沢はタバコに火を付けた。
灰皿を寄せる。
まだ、少し灰が残ってる皿を。
今は亡き、瑞希の父親のだ。
同じ父親で、なんて違う。
切なくなる。
子は生まれる家を選べない。
「類沢せんせ、さ」
煙草の煙を追うように視線を泳がせてから、類沢がこちらを向く。
「瑞希のことどう思ってんだ?」
「恋人」
「からかうな」
「じゃあ、可愛い弟」
「はあ?」
類沢は転がるような笑い声を上げる。
冗談かどうかもわからない。
「なら……」
間をおく。
眉をクッと上げ、折り曲げた人差し指を軽く噛む。
何か、迷うような、試すような曖昧な表情をして。
「玩具って言えば納得する?」
光ったのは蒼い瞳。
オレは口を開けなかった。
それこそ息も忘れるくらいに。
だって、その時の類沢は余りに穏やかで、切ない眼をしていたから。
なにを言うべきか。
なにを云ったらこの雰囲気を壊さずに済むのか。
そんなことを考えてしまう程に。
「なんてね」
スッと目線が外れる。
オレは大きく息を吸い、吐いた。
頭がぼーっとしている。
なんていう感覚だっけ。
たった数秒が一時間に感じられた。
そしてその数秒にオレは気づいてしまったんだ。
多分、瑞希はまだであろうこと。
「顔は覚えてる?」
「一応は」
「はい」
類沢が紙とペンを渡す。
受け取って、首を振る。
「いやいや、ムリだから」
「覚えてる限りでいいから」
「絵とか下手だからっ」
「誰が絵って云ったの? 特徴を箇条書きで書きなよ」
あ、そういう。
オレはほっとしてペンを握る。
そうだ。
彫りは深かった。
目の下は角張ってて、髭はない。
眉にかかる程度の髪の毛。
背は真っ直ぐだった。
年齢は五十前半。
あとは、なんだ。
類沢は観察するようにメモを眺めている。
「異常な癖とか無かった?」
「癖?」
「なにかあった?」
記憶を手繰る。
どこか独特だった。
なんでだっけ。
仕草、とか。
雰囲気とか。
「そうだ、なにかとほっぺをトントン指で叩いてた」
「いつも?」
「まさか。苛々したとき決まって、そうやってた」
「苛々、ね」
類沢はタバコに火を付けた。
灰皿を寄せる。
まだ、少し灰が残ってる皿を。
今は亡き、瑞希の父親のだ。
同じ父親で、なんて違う。
切なくなる。
子は生まれる家を選べない。
「類沢せんせ、さ」
煙草の煙を追うように視線を泳がせてから、類沢がこちらを向く。
「瑞希のことどう思ってんだ?」
「恋人」
「からかうな」
「じゃあ、可愛い弟」
「はあ?」
類沢は転がるような笑い声を上げる。
冗談かどうかもわからない。
「なら……」
間をおく。
眉をクッと上げ、折り曲げた人差し指を軽く噛む。
何か、迷うような、試すような曖昧な表情をして。
「玩具って言えば納得する?」
光ったのは蒼い瞳。
オレは口を開けなかった。
それこそ息も忘れるくらいに。
だって、その時の類沢は余りに穏やかで、切ない眼をしていたから。
なにを言うべきか。
なにを云ったらこの雰囲気を壊さずに済むのか。
そんなことを考えてしまう程に。
「なんてね」
スッと目線が外れる。
オレは大きく息を吸い、吐いた。
頭がぼーっとしている。
なんていう感覚だっけ。
たった数秒が一時間に感じられた。
そしてその数秒にオレは気づいてしまったんだ。
多分、瑞希はまだであろうこと。
0
お気に入りに追加
8
あなたにおすすめの小説



寮生活のイジメ【社会人版】
ポコたん
BL
田舎から出てきた真面目な社会人が先輩社員に性的イジメされそのあと仕返しをする創作BL小説
【この小説は性行為・同性愛・SM・イジメ的要素が含まれます。理解のある方のみこの先にお進みください。】
全四話
毎週日曜日の正午に一話ずつ公開

天国地獄闇鍋番外編集
田原摩耶
BL
自創作BL小説『天国か地獄』の番外編短編集になります。
ネタバレ、if、地雷、ジャンルごちゃ混ぜになってるので本編読んだ方向けです。
本編よりも平和でわちゃわちゃしてちゃんとラブしてたりしてなかったりします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる