どこまでも玩具

片桐瑠衣

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質された前科

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「一回だけ、病院で紅乃木って呼ばれてたおっさんを見かけたんだ。本人かはわからないけど」
「顔は覚えてる?」
「一応は」
「はい」
 類沢が紙とペンを渡す。
 受け取って、首を振る。
「いやいや、ムリだから」
「覚えてる限りでいいから」
「絵とか下手だからっ」
「誰が絵って云ったの? 特徴を箇条書きで書きなよ」
 あ、そういう。
 オレはほっとしてペンを握る。
 そうだ。
 彫りは深かった。
 目の下は角張ってて、髭はない。
 眉にかかる程度の髪の毛。
 背は真っ直ぐだった。
 年齢は五十前半。
 あとは、なんだ。
 類沢は観察するようにメモを眺めている。
「異常な癖とか無かった?」
「癖?」
「なにかあった?」
 記憶を手繰る。
 どこか独特だった。
 なんでだっけ。
 仕草、とか。
 雰囲気とか。
「そうだ、なにかとほっぺをトントン指で叩いてた」
「いつも?」
「まさか。苛々したとき決まって、そうやってた」
「苛々、ね」
 類沢はタバコに火を付けた。
 灰皿を寄せる。
 まだ、少し灰が残ってる皿を。
 今は亡き、瑞希の父親のだ。
 同じ父親で、なんて違う。
 切なくなる。
 子は生まれる家を選べない。
「類沢せんせ、さ」
 煙草の煙を追うように視線を泳がせてから、類沢がこちらを向く。
「瑞希のことどう思ってんだ?」
「恋人」
「からかうな」
「じゃあ、可愛い弟」
「はあ?」
 類沢は転がるような笑い声を上げる。
 冗談かどうかもわからない。
「なら……」
 間をおく。
 眉をクッと上げ、折り曲げた人差し指を軽く噛む。
 何か、迷うような、試すような曖昧な表情をして。
「玩具って言えば納得する?」
 光ったのは蒼い瞳。
 オレは口を開けなかった。
 それこそ息も忘れるくらいに。
 だって、その時の類沢は余りに穏やかで、切ない眼をしていたから。
 なにを言うべきか。
 なにを云ったらこの雰囲気を壊さずに済むのか。
 そんなことを考えてしまう程に。
「なんてね」
 スッと目線が外れる。
 オレは大きく息を吸い、吐いた。
 頭がぼーっとしている。
 なんていう感覚だっけ。
 たった数秒が一時間に感じられた。
 そしてその数秒にオレは気づいてしまったんだ。
 多分、瑞希はまだであろうこと。
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