どこまでも玩具

片桐瑠衣

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質された前科

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 金原と別れて、一時間が過ぎた。
 ひとまず、アカの母親を探すことにした。
 金原が今色々やってるだろう。
 市役所に行って。
 母親の住所を調べて。
 なら、俺は?
 部屋で、携帯を何度も開けたり閉じたり。
 それから電話帳を開く。
 閉じる。
 受信記録からある番号に発信しようとする。
 やめる。
 その繰り返し。
 そろそろ前に進まなくては。
 今だってアカは苦しんでいる。
 助けに行かなくちゃ。
 ナイフまで手にして助けようとしてくれた恩返しのためにも。
 親友を救うためにも。
 携帯を耳に当てる。
 今は午後八時。
 多分、出てくれる。
 ドクドクと血が巡る。
 緊張していた。
 だって、三日ぶりだ。
 話し方も忘れた。
 ルルルル……
 取るな。
 取ってくれ。
 相反する想い。
 ガチャ。
 ヒュッと息を飲む。
「なにかあった……? 瑞希」
「え……」
 想像と違う。
 いや、想像通りなのかもしれない。
「あんなに避けてた癖に、電話が来たらそう思うよ」
「類沢、先生」
「ナニ?」
 あぁ。
 本当にこの人は。
 目頭が熱くなる。
 変わんないな。
 会った日から。
 動揺も、怒りもない。
 淡々と。
 それが落ち着く。
 どこまでも落ち着く。
「あの……アカが、攫われ、て」
 口が上手く動かない。
 いや、今更事実が渦のように頭を侵し始めたんだ。
「多分、父親なんです……あいつ、父親に……性的虐待受け、てて……っ、一度刺して、入院してたのに……出て来ちゃって、家に来て」
 伝わってるかな。
 いつの間にか涙が零れる。
 攫われた。
 親友が。
 そんな事実がどんなに残酷か。
 今更だ。
 栗鷹さんの前では泣かなかったのに。
 泣けなかったのに。
「瑞希、続けて」
 嗚咽を堪える。
 類沢の声の後ろで、エンジン音が聞こえる。
 まさか、運転中だったのか。
 急いで言葉を紡ぐ。
「昨日、父親が来たみたいで……っ。アパートの大家さんに確認したんで、す。うっ……で、アカが俺らに相談してきたのと同じ人っぽくて……」
「誘拐されたのは確実ってこと?」
 そうだ。
「はい…」
 キキッ。
 ブレーキ音が両方の耳に響く。
 両方の耳?
 ドアの開閉が聞こえる。
「詳しく聞かせてくれる?」
 玄関からノックが鳴る。
「直に」
 走った。
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