どこまでも玩具

片桐瑠衣

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質された前科

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「瑞希!」
「金原、どした?」
 放課後の面談時間だ。
 ほとんどの生徒は帰っている。
「……アカの奴、今日休んでるだろ? 何回か連絡入れたんだけど出ねぇんだ」
 すぐに、家に行くことを決めた。
 ピンポーン。
 インターフォンからの反応はない。
「留守?」
「朝から?」
 新聞がそのままだった。
 タンタン。
 階段を上がってくる音がする。
 タイツを履いた細い足が現れる。
「こんばんは」
 アカの部屋の隣人だろうか。
 共同アパートにそぐわない澄んだ声。
 優しそうな女性が挨拶をしてきた。
 ストレートの黒髪が揺れる。
 シャンプーのCMにでも現れそうだ。
「あ……ども」
 買い物袋を置いて、鍵を探る。
 若い。
 二十代後半だろうか。
「哲くんのお友達?」
「そうっスけど」
 金原がぶっきらぼうに答える。
 相手は笑顔を崩さない。
「昨日から帰ってないの」
「嘘だろ?」
 つい声を荒げてしまった。
 女性は少しびっくりしたように眉を上げた。
「行方……不明なの?」
「あ、いや」
 まだそうと決まった訳じゃない。
 そう言う前に相手は、駆け寄ってアカの部屋の鍵を開けた。
 手には四本程、鍵が握られている。
「えっ、お姉さん……」
「大家よ」
 まじかよ。
 金原が口パクで言った。
 少し躊躇ったが、中に入る。
「……いないわね」
 部屋はアカと話した時のままだ。
 カーテンは閉じられたまま。
 荒らされた形跡もない。
 旅支度もした跡はない。
「あ、遅くなったわね。私は栗鷹鏡子よ。ここの大家なの」
 髪を整え、思い出したかのように自己紹介をした。
「ども。アカの友人の宮内瑞希です」
「……金原圭吾です」
「警察に連絡するわ」
「え?」
 栗鷹はすぐに部屋を出て行った。
「ちょっ……待って鏡子さん!」
 急すぎる。
 余りの目まぐるしさについて行けない。
 隣の部屋に向かうと、受話器を持つ栗鷹がいた。
 金原が走って電源ボタンを押す。
「……なにするの?」
「警察は待ってくれ」
「理由がないわ」
 大人だ。
 冷静で、強気。
 こっちは子供だ。
 金原がアイコンタクトをする。
 伝えてくることは一つ。
 アカの父親。
 もし彼が関わっていたとすれば、警察を呼んだところで解決しない。
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