どこまでも玩具

片桐瑠衣

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任された事件

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 消えたい。

 怒りや恥より先に出てきた感情。
 類沢は手を離し、電気を点けた。
 眩しい光は、自分を惨めにする。
 腰が抜けた俺を見下すようにそばを通り過ぎて行ってしまった。
 唇を噛む。
「残念だな、瑞希」
 上着を脱いだ類沢は暗い声で云った。
「……復讐なんて必要無かったね」
「え?」
 クク、と嗤いが聞こえる。
「だって瑞希は誰にでも抱かれたい淫乱だからね。はは、無駄だった」
 胸が締め付けられる。
 彼と雛谷との会話を思い出した。
―あの三人に何をされたか身をもって知って貰いたかったんですよ雛谷先生?―
 そして、昨晩の会話を。
―もうあの三人に怖がる必要はないよ? 連絡も来ないから―
 考えてはいけない。
「……めんなさい」
 俺は座り込んだまま呟く。
「ごめん……なさい」
 馬鹿だ。
 なんて馬鹿だ。
 あんな奴について行って。
 あんなことをされて。
 一人よがりに後悔して。
 類沢が守ってくれた体を簡単に売り払った。
 あぁ、無駄だった。
 あんたがしたこと、親切を全部無駄にした。
 誰が?
 俺が。
「雛谷先生に訂正しておくよ。瑞希はアナタに抱かれて嬉しかったって」
 暗い。
 類沢の声には笑いと共に切なさが含まれていた。
「……違います」
「嬉しいだろうねぇ。ボロ雑巾みたいに捨てられて、他人に輪姦されたって喘いで悦ぶような生徒が手にはいるんだから」
「違う……」
「違わないよ。それが瑞希なんだ」
 声が、氷になる。
 俺のちっぽけな心臓を易々と貫く。
 なんとか保っていた理性すら砕く。

 容赦ないな、あんたは。

 俺は言葉も見つからなかった。
 一番自分を知っていた人を。
 危機から救ってくれた人を。
 辛い時に助けてくれた人を。
 裏切ったんだ。
 でも、聞いてよ先生。
 俺、あんたに先に裏切られたんだよ。
 だから、自分らしくないことしたんだよ。
 だから……
 なんて一人よがりな言い訳。
 こんなになっても、類沢に見捨てられたくない気持ちがあるんだ。
「可哀想だね、瑞希」
 またあんたは言う。
 突き刺すように。
 多分、あの日に予感していたのかもしれない。
 篠田と類沢の二人に犯され、悦んで腰を動かしたあの日に。
 俺の本性を俺より先に見抜いていたのかもしれない。
 こんなこと考えても仕方ないのに。
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