どこまでも玩具

片桐瑠衣

文字の大きさ
上 下
107 / 206
任された事件

14

しおりを挟む
 ホテルから出て、指定場所に戻る。
 掌には一万円が握られている。
 ネオンの中を虚ろな目でふらつく。
 全身が痛み、ビルの壁にもたれた。
 皺ついた札を見下し、指をかける。
 ビリ。
「いらない……」
 ビリビリ。
 粉々になった紙片を道に落とす。
 吹かれて散れ。
 証拠を消すように。
「瑞希?」
 類沢が俺の顔を見るやすぐにコートを脱ぎ、被せてくれた。
 冷たい腕に触れ、眉を潜める。
「なんでそんな格好で」
「……俺の服、破かれちゃったんで」
 嘘じゃない。
 昨日の行為に皮肉を込める。
「あんたの服ならどうなっちゃってもいいかなって」
「あのさ、瑞希」
 俺の肩を掴み目線を合わさせようとする。
 俯いたままの頬に手を添えて。
 それでも顔を上げたくなくて。
「なにかあった?」
 あぁ、なんで。
 こんな時にだけ教師の仮面をつけてしまうのだろうか。

 喫茶店に入り、類沢がホットコーヒーを二つ注文した。
 ウェイターが来るまで沈黙が続く。
 シャワーは浴びたが、まだ臭いが残っている。
 そう感じて、また俯いてしまう。
 こんなことをしていれば、何か隠してるなんてすぐにバレてしまうだろう。
 コーヒーが来た。
 その器を指で触れても、熱さを感じない。
 さっきまで、冬の寒さを感じなかったように。
 色々なものが麻痺し始めている。
 以前の俺なら、こんな格好で男に捕まったりなんかしない。
 会話だって普通に出来る。
 理由なんてわかってる。
 だから、見返してやりたかったのかもしれない。
 ほら。
 俺はあんたのものじゃない。
 簡単に逃げられるんだって。
「……瑞希」
 あぁ、呼ぶな。
 呼ばれたらブレてしまう。
 後悔してしまう。
 なんて馬鹿なことをしたんだって。
 理性が気づいてしまう。
 類沢は煙草を取り出そうとして、途中でやめた。
 じっと視線を感じる。
「あの人誰かな?」
 ビクッ。
 つい反応してしまった。
「瑞希と一緒にいた人」
 見てたのか。
 いや、ホテルを出る時周りに人はいなかった。
 狭い路地だったし。
 しかし、心臓は早鐘を打つ。
 バレた。
 そんなわけはない。
 目線が泳ぐ。
 コン。
 類沢が音を立ててカップを置いた。
 黒の液体が不穏に揺れる。
「瑞希は嘘もつけないんだね」
 誰かに同じことを言われた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

騙されて快楽地獄

てけてとん
BL
友人におすすめされたマッサージ店で快楽地獄に落とされる話です。長すぎたので2話に分けています。

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

真・身体検査

RIKUTO
BL
とある男子高校生の身体検査。 特別に選出されたS君は保健室でどんな検査を受けるのだろうか?

放課後教室

Kokonuca.
BL
ある放課後の教室で彼に起こった凶事からすべて始まる

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

寮生活のイジメ【社会人版】

ポコたん
BL
田舎から出てきた真面目な社会人が先輩社員に性的イジメされそのあと仕返しをする創作BL小説 【この小説は性行為・同性愛・SM・イジメ的要素が含まれます。理解のある方のみこの先にお進みください。】 全四話 毎週日曜日の正午に一話ずつ公開

学園の支配者

白鳩 唯斗
BL
主人公の性格に難ありです。

助けの来ない状況で少年は壊れるまで嬲られる

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

処理中です...