どこまでも玩具

片桐瑠衣

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任された事件

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 全身が脱力した。
 嘘だよ。
 瑞希は大事な人って言いたかったんだ。
 そう訂正して欲しかった。
 類沢の指が頬をなぞる。
「なんで泣いてるの?」
 涙。
 気づきもしなかった。
「く……ふッッ……ぅ」
 号泣していた。
 なんで。
 そんなのこっちが知りたい。
 類沢の手が顔を包む。
「やだっ……今は、や、んん」
 また唇を奪われる。
 たった今残酷なことを吐き出したその口で。
 俺はギュッと歯を噛み締め、受け入れなかった。
 すると、今度は指を入れられる。
 クチュクチュと掻き回され、拒絶する力も抜けていく。
 嫌だ。
 こんなの嫌だ。
 なんとか手足をバタつかせて抵抗する。
「手足を縛って……」
「痛っ……」
「閉じ込めて」
 シャツのボタンに手をかけられる。
「快楽しか感じさせなくして」
 そのまま衣服を破られる。
 冷たい爪が突起を引っ掻く。
「あ、ぐッッ」
「誰にも触れさせないように」
 鎖骨に顔を寄せる。
 そこに跡が付くくらいキスをする。
「誰か他の人に感じたりなんてしないように」
「…せ…んせ、ぁああッッ」
 起ちそうなそれを握られた。
 囁く声が脳を溶かす。
「僕だけの玩具にしてあげたい」
 怖い。
 涙が止まらない。
「優しい? 優しくなんてないよ。そう言ったはず」
 シャツを捲り上げ、腕を拘束するように結ぶ。
「それを邪魔する奴は消してあげる」
 聞いちゃいけない。
 でも逃げられない。
「もうあの三人に怖がる必要はないよ? 連絡も来ないから」
 安堵するはずの言葉が、冷たく突き刺さる。
「雛谷だって……もう手は出してこれない」
 あの時間の恐怖を、今が勝る。
「だから安心して」
 俺は類沢の手を掴む。
「安心して玩具になれ……って?」
 精一杯の勇気だった。
 俺には尋ねることしかできない。
 確かめることしか。
 鼻をすする。
「正直……っ、あんなことした……されたことより、優しくされたことの方が大きかった……」
 それが、これかよ。
 結局自分は、あの保健室から何一つ、類沢の中で変わってなかったんだ。
「瑞希」
 ギューッと頭と肩を抱かれる。
 今までの言葉が嘘みたいに。
「バカだね」
 ああ。
 その通りみたいだ。
 天井を見上げて、俺は感情を捨てた。
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