どこまでも玩具

片桐瑠衣

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任された事件

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 類沢は暫く黙って、それから立ち上がった。
 俺の肩を掴むと、強引に寝室に連れて行く。
 転ばぬようにするだけで精一杯だ。
 彼の表情は見えない。
 気づけばベッドに組み敷かれていた。
 あっと言う間に。
「なんで?」
 失笑を含んだ問い。
「簡単なことだよ」
 腕を押さえられ、脚も踏みつけられている。
 動けない。
 なのに、震えがない。
 俺はただ、呆然と類沢を見上げた。
 低い嗤いが部屋に響く。
 何度か聞いた声。
「他人に奪われるのが嫌だったから」
 そう告げる唇。
 髪を梳く手。
 俺の眼の奥を覗き込む瞳。
 ギシリ。
 俺は自由な方の脚を曲げた。
 そうしただけで、少し体勢が有利に傾いた気がする。
 それも、類沢に首筋を触れられるだけで無と化す。
「なら俺は……先生のモノなんですか?」
 声が弱い。
 またフラッシュバックがチラつく。
―これ体罰だからさ―
 ギリ。
 歯を食いしばって耐える。
 どうせ逃げられない。
 この人に一度捕まってしまえば。
 涙も押し返す。
「そうだよ。瑞希は大切な――」
 生唾を飲み込む。
 怖い。
 この間聞き取れなかった言葉の先。
 聞いてはいけない気がする。
 でも、進むんだ。
 類沢はフッと笑って唇を重ねる。
 答えを焦らす長いキス。
 舌を甘噛みされ、吸われる。
 唾液は頬を伝い枕を濡らす。
 あれ。
 妙な違和感。
 類沢にされるのが、ひどく久しぶりな感覚がする。
「……ん、ふッッ」
 寝ているせいか息が上手く吸えない。
 すぐに頭がぼーっとしてきた。
 無理やりされているのか。
 望んでしているのか。
 それすらわからなくなる。
 上唇を舐めながら類沢が顔を上げる。
「巧くなってない?」
 笑わずに云われると責められているようだ。
「誰かにテクでも教わった?」
「そんなわけっ」
「否定するんだ」
 ゾワリ。
 彼の目が鋭くなる。
 何も言えなくなってしまう。
 濡れた唇を撫でられる。
「雛谷のキスに似てるんだよね」
 怒りを含んだ語気。
 俺は無意識に怯えていた。
 雛谷の言葉が本当だったという事実なんてどうでもいい。
「誰のものにもなるなよ」
 首が動かない。
 耳も塞げない。

「瑞希は」

「大事な」

「オモチャなんだから」
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