どこまでも玩具

片桐瑠衣

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任された事件

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 なんの話だ。
 俺は混乱して耳を澄ませる。
 少なくとも、二人は篠田のような関係は結んでいない。
 むしろ敵対している。
 あんな手段?
 俺は一つ仮説を立てた。
 雛谷は二年前から自分を見ていたと言った。
 つまり、類沢が入ってきた時から俺に近づくのを警戒していた。
 それなのに、あの初日、俺はまんまと類沢に組み伏せられた。
 事実を知って、雛谷は怒りのままに俺を屋上に閉じ込めた。
 こんなに淡々としている自分に寒気がするくらいだ。
 しかし、仮説通りでは恐ろしい展開が待ち受けている。
 弱みを握った雛谷が、類沢同様にホテルに呼びつけてきたら?
 いや、ことはもっと深刻だ。
 あの三人の件もある。
 みんなに弄ばれるのか。
「もっと痛くしようか? その忠告に従わなかったお前が悪い」
「……やめろ」
「まさか瑞希を犯った場所で犯られるなんて考えても無かったよね?」
「黙れ」
「瑞希を手に入れたいとか突っ走って、あんな所に置き去りにするなんて狂ってるよね? あの後どうなったか教えようか? お前と同じ目に遭ったんだよ」
 類沢の声が脳に響く。
 なにを云ってるんだ。
 知らずに胸が熱くなる。
「う……そだ」
「嘘じゃない。なんで僕が自分の手で仕返しをしなかったか? 簡単だよ。あの三人に何をされたか身をもって知って貰いたかったんですよ雛谷先生?」
 腰が抜ける。
 俺は息を潜めて、耳をそばだてる。
「証拠もある。お前がカメラを使ったのを参考にしてね、ビデオを残しておいたんだ」
 類沢は雛谷を壁際に追い込んで、バンと壁を叩いた。
「僕はね、瑞希を汚す奴なんてどうでもいいけど、傷つける奴は許せないんだ」
 涙が溢れる。
 あぁ、なんてこと。
 扉にもたれて声を殺し、泣く。
「……なら、自分のことも許せないんじゃ?」
 雛谷が小さく尋ねる。
 これには何て答えるのだろう。
「あはは、そうだね」
 予想外の明るい反応に戸惑う。
 類沢は雛谷から離れて肩を竦めた。
「今後悔してるところだ」

 走る。
 走る。
 教室に。
 いや、どこに。
 胸の中の感情が荒ぶって、思考を麻痺させる。
 信じられないことが次々に起きている。
 立ち止まり、息を吐く。
 どうしよう。
「類沢先生に……お礼」
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