どこまでも玩具

片桐瑠衣

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阻まれた関係

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「……どう致しまして」
「一つ、訊きたいことがあります」
 瑞希が低い声で呟いた。
 下手をすれば、聞き逃してしまう程の小さな声。
 しかし、確かにそう言った。
「……いいよ」
 煙草を取り出そうとするが、箱は空だった。
 頭痛がまた来ている。
 吸い過ぎかもしれない。
 軽く頭を押さえ、瑞希に近づく。
「正直に答えて欲しいんです」
 肩が震えている。
 声も。
 首が回り、両眼がこちらを向く。
 随分と滑らかな動作で、人間味を感じないほどだった。
「類沢、先生」
 目を見つめ合う。
 乾いた唇が動いた。
「……雛谷先生に、バラしたんですね?」
 なにを。
 そんな質問など存在価値もない。
 バラした。
 あの保健室の日のこと。
 その後のこと。
「僕の口からは何も告げてない」
 瑞希は片眉上げた。
「雛谷は知ってたんだ」

 月明かりが二人を照らす。
「宮内瑞希ですよね? かわいい生徒を目につけたじゃないですかぁ」
「……なんのことです?」
 顎に力を入れる。
 そうすれば、表情を崩さない。
 雛谷は歪んだ笑みを浮かべ、小さなカメラを取り出した。
 嫌な予感しかしない。
「二週間前のことです」
 カメラを操作し、写真を探す。
「仕事帰りに、こんな光景を見てしまったんですよ」
 光る画面を突きつけられる。
 それは、ホテル前の写真。
 二人の人影。
「これ、類沢先生ですよね?」
 確かに自分の横顔だ。
「隣は宮内瑞希ですね?」
 言葉が出ない。
 不覚だった。
 勿論可能性は踏まえていたが、まさかこの男に見られるとは。
 生徒から噂は聞いていた。
「随分犯罪紛いのことを……くく」
「それが何だって云うんです?」
 雛谷はカメラをフラフラ揺らす。
「いえね、早く瑞希を救ってあげたいと思いましてねぇ」
 チラッと目線を送ると、雛谷はカメラをしまった。
「その予告です」

「……知ってた?」
 静かに頷く。
「雛谷先生が?」
「そうだ」
「あんたが云ったんじゃないのかよっ!」
 突然の大声に鼓膜が震える。
 類沢は腕を組んだ。
「だって……雛谷先生、は……あんたに聞いたって!」
「彼の嘘だよ」
「どっちが信じられる!」
 呼吸が止まる。
 瑞希は荒い息のまま、寝室に駆け込んだ。
「どっち……が?」
 類沢は頬に触れて立ち尽くした。

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