78 / 206
阻まれた関係
3
しおりを挟む
保健室に走る。
云いたいことがある。
もうやめろとか。
なんなんだとか。
いい加減にしろとか。
ありがとうとか。
あぁ、これは云わなくていいや。
考えながら走っていたせいか、階段で教師にぶつかった。
お互いによろける。
急いで謝ると、彼の落としたプリントを拾って渡す。
「走ると危ないよ~」
また目眩がする。
雛谷。
昨日の今日で会うなんて。
なぜか血の気が引いて、俺は走り去った。
その背後で雛谷が「やっぱ瑞希が一番かわいぃ……」なんて呟いていたなど知らずに。
「類沢っ」
保健室に入ると、数人の女子に囲まれている白衣を見つけた。
きゃあきゃあ騒いでいた女子がびっくりして黙る。
「やぁ、瑞希。どうかした?」
どうかしたって。
どうかしたっ……て。
馬鹿なのか。
確信犯なのか。
「ちょっと……呼び捨て?」
「なにあれ? 宮内?」
「類沢センセにしつれーい」
忘れていた。
この男の周りにいるのは女子だということを忘れていた。
俺は扉に手をかけたまま固まる。
「えと、類沢先生お時間よろしいです、か?」
口が痛い。
喋りにくい。
類沢は一瞬目を見開いて、ニヤリと笑った。
見逃すものか。
俺は目を細めて睨みつける。
「じゃあ、後でねみんな」
意外にも類沢は立ち上がった。
「ええ!」
「なんでですかぁ」
「私たちの方が先ですよ!」
「類沢センセ、やだよ」
その波の中を押して、外に彼女達を出す。
まだ叫びが聞こえる中、類沢は溜め息を吐いて俺の背中を押してソファに座らせる。
「助かったよ」
「いつもあんなんなんですか」
俺の方が溜め息つきたい。
今日はポニーテールじゃなくて、上側だけを結んで垂らしている。
思い切り女性の髪型だ。
睫毛も長く見える。
また頭痛してきた。
「で、何の用? そっちから来るの珍しいね」
当たり前だ。
「……なんで教えた?」
カタリと音を立て、類沢が椅子に座る。
カーテンが背後で揺れる。
寒い風が吹いても開けているのがまた、保健教師らしくて苛ただしい。
「メルアド、俺が知ってることですよ。有紗に……仁野に教えましたよね」
云いたいことがある。
もうやめろとか。
なんなんだとか。
いい加減にしろとか。
ありがとうとか。
あぁ、これは云わなくていいや。
考えながら走っていたせいか、階段で教師にぶつかった。
お互いによろける。
急いで謝ると、彼の落としたプリントを拾って渡す。
「走ると危ないよ~」
また目眩がする。
雛谷。
昨日の今日で会うなんて。
なぜか血の気が引いて、俺は走り去った。
その背後で雛谷が「やっぱ瑞希が一番かわいぃ……」なんて呟いていたなど知らずに。
「類沢っ」
保健室に入ると、数人の女子に囲まれている白衣を見つけた。
きゃあきゃあ騒いでいた女子がびっくりして黙る。
「やぁ、瑞希。どうかした?」
どうかしたって。
どうかしたっ……て。
馬鹿なのか。
確信犯なのか。
「ちょっと……呼び捨て?」
「なにあれ? 宮内?」
「類沢センセにしつれーい」
忘れていた。
この男の周りにいるのは女子だということを忘れていた。
俺は扉に手をかけたまま固まる。
「えと、類沢先生お時間よろしいです、か?」
口が痛い。
喋りにくい。
類沢は一瞬目を見開いて、ニヤリと笑った。
見逃すものか。
俺は目を細めて睨みつける。
「じゃあ、後でねみんな」
意外にも類沢は立ち上がった。
「ええ!」
「なんでですかぁ」
「私たちの方が先ですよ!」
「類沢センセ、やだよ」
その波の中を押して、外に彼女達を出す。
まだ叫びが聞こえる中、類沢は溜め息を吐いて俺の背中を押してソファに座らせる。
「助かったよ」
「いつもあんなんなんですか」
俺の方が溜め息つきたい。
今日はポニーテールじゃなくて、上側だけを結んで垂らしている。
思い切り女性の髪型だ。
睫毛も長く見える。
また頭痛してきた。
「で、何の用? そっちから来るの珍しいね」
当たり前だ。
「……なんで教えた?」
カタリと音を立て、類沢が椅子に座る。
カーテンが背後で揺れる。
寒い風が吹いても開けているのがまた、保健教師らしくて苛ただしい。
「メルアド、俺が知ってることですよ。有紗に……仁野に教えましたよね」
0
お気に入りに追加
8
あなたにおすすめの小説


サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる