どこまでも玩具

片桐瑠衣

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剥がされた家庭

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 有紗は予想通り保健室に行ったらしい。
 というより、保健室に行く以外に反省室に入れられる理由が見つからない。
「ねえっヒナヤン! 早く出してよ、もういいでしょ!」
「もういいでしょも何も、キミが入ってまだ三十分と経ってないよ仁野さん」
 雛谷は、さも可笑しそうに口に手を当てて笑う。
「類沢に会って何があったんだよ」
「類沢先生でしょ?」
 冷たく訂正され、金原は声を落とす。
「出してよ」
「話せよ」
 元カップルが睨み合ってるのを傍観しながら、紅乃木は反省室の壁を手でなぞる。
「出してくれるのが先っ」
 金原は怪訝そうに首を回すと、雛谷に向かい合った。

「で? 雛谷に解放してもらった?」
「違うんだよ、瑞希。あの先生の怖さ知らないだろ?」
 俺は一年の時の授業を思い返す。
 白衣に童顔の雛谷。
 カールしたボサボサな髪。
 なんだろう。
 あまり関わりたくなかった気がする。
 なんでだっけ。
「あれ。あの、前に問題起こした先生って雛谷だっけ?」
 金原とアカは同時に目をそらした。
 そうだ。
 思い出した。
 雛谷は、ヒナヤンなんて名前とはかけ離れた性格の持ち主だったんだ。

「ダメだよー。ここを管理してるのは誰だっけ?」
 たった今下げた頭に突き刺す拒絶。
 金原は鍵の束を一瞥し、再度頼み込む。
 紅乃木は隣で雛谷の姿を見ていた。
 金原の言葉を聞きながら恍惚な笑みを浮かべている教師を。
「ふふ……ふふふ。かわいいなぁ」
 奇怪な笑い声が響く。
 有紗は怯えて部屋の奥に引っ込んだ。
「ダメだって、言ってるよね?」
 雛谷の目の色が変わった。

「ストップ。それ以上聞きたくない」
 俺は嫌な予感がしつつ、麦茶を注ぐ。
 思い出したのだ。
 雛谷が起こした事件を。
「まぁ、逃げるよね。雛谷の覚醒状態には付き合っちゃいけないからね」
 アカが遠い目時計を見つめる。
「誰だったっけ? 運悪かった奴」
「二組の三島。化学部が遅くなって、二人きりになったんじゃなかった?」
 三人は揃って溜め息を吐く。
 いたな。
 類沢が来る前にも、危ない教師はいたんだな。
 それを言えば、類沢に付き合ってる篠田もか。
 俺は頭を支える。
「あの変人……よくあれで飛ばされないよな」
「だって理事長の甥だろ」
「みぃずきは見なくて良かったよ」
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