どこまでも玩具

片桐瑠衣

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剥がされた家庭

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 久しぶりに夢を見た。
 昔の夢。
 女の子がいた。
 確か小学生の時。
 好きとかじゃなくて。
 ただ、毎日一緒に遊んだ子。
 西河南。
 二つ結びが似合う子だった。
 美里とも気があって。
 よく三人で遊んだ。
 楽しかった。
 その河南が目の前にいる。
 成長した姿で。
 髪、長さ変わらないな。
 でも顔つきは違う。
 綺麗になった。
 目は大きなまんま。
 茶色がかった髪。
 草むらにいた。
 向かい合って。
「瑞希ちゃん」
 そうだ。
 お互いちゃんて付けて呼び合ってた。
 なに? 河南ちゃん。
「元気?」
 元気。
 そんな一言に涙が溢れる。
「瑞希ちゃん?」
 ううん。
 元気じゃないよ。
 俺、もう限界だよ。
 河南が手を伸ばして俺の手を握る。
 そして、ゆっくり撫でた。
「辛いの?」
 うん。
 辛いよ。
 生きてるのが。
「みんな支えてくれてるのに?」
 みんな?
 みんなって誰。
 河南が指を折りながら数えるように名前を挙げる。
「圭吾くんに哲くんに、一夜くんに千夏くんに三嗣くん。それから……」
 随分いっぱいいるね。
 それから?
 河南はにこりと笑って手を離す。
 河南?
「私と」
 彼女は自分を指したあと、俺の方に指を差した。
 俺の後ろを。
「雅先生だよ」
 サァッと風が吹く。
 背後でクスクス笑い声が聞こえる。
 類沢がいる。
 わかる。
 影も見える。
 振り向きたくない。
 振り向きたい。
 見たくない。
 見たい。
 矛盾がせめぎ合う。
「瑞希」
 やっぱり、この声だ。
 俺はそっと後ろを向いた。
 光を浴びたシルエットがそこにある。
「先生……」
「そこから出られそう?」
「え」
 類沢は草むらの少し上の石段の上に座っていた。
 俺に手を伸ばして。
「手伝わせてくれないかな」
「いきなよ」
 河南の声がする。
 行きなよ。
 生きなよ。
 どちらにもとれた。
 俺は息を吐いて、足を踏み出す。
 同時に景色が消えて、保健室に座っていた。
「今日はどうしたの?」
 初めて会った時の類沢がいる。
 傍らには消毒のボトルも転がってて。
 静かな放課後。
「今日は……疲れました」
「そう…」
 類沢は困ったように顔を緩ませて、立ち上がった。
「そんな日もあるよ」
 僕は沢山経験したよ。
 背中はそう言っていた。
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