63 / 206
剥がされた家庭
2
しおりを挟む伯母さん、泣いてた。
電話を切った後に罪悪感に苛まれる。
またすぐに電話が鳴る。
「……もしもし」
「瑞希! 大丈夫か?」
「金原……」
俺は堪えきれず涙を零した。
壁にもたれて座り込む。
「あれ、本当なのかな」
「瑞希……」
「金原はどう思う?」
母さん達、生きてるかな。
こんな残酷な質問、よくできるな。
俺。
金原が黙る。
「あり得ねーよ……」
俺は息を吐いてもう一度云う。
「あり得ねーよ」
電話は留守にした。
美里の元に戻る。
泣きはらした眼。
美里はまだニュースをぼーっと見ていた。
「――バスは峠より転落して、数百メートル転がったそうです。落下の衝撃で車体は歪み、漏れたガソリンに点火して爆発を起こしました」
「映画……みたい」
そのとおりだ。
「お兄ちゃん、美里たち、孤児になるの?」
胸が締め付けられる。
「まだ、母さん達は生きてるかもしれないだろ」
「生きてる……じゃあ、あの病院に連れて行って」
美里は画面を指差す。
それは、県境の総合病院だった。
今から出れば、八時には着く。
「……あぁ、行こう」
行ったら後悔する。
きっとする。
そう二人とも感じていた。
それでもこのまま眠るなんて不可能だから。
電車に揺られる間、ずっと床を見つめていた。
帰宅ラッシュを回避出来て良かった。
今は座らないと息できない。
電車が止まる。
美里の手を引いて降りた。
携帯のマップを頼りに病院に向かう。
見たことない街。
美里の手を強く握った。
「ご家族の方ですか」
看護師に案内される。
集中治療室かな。
病室かな。
そんな希望が打ち砕かれる。
運ばれたのは、霊安室。
周りにも沢山人がいる。
みんな、見舞いに来たんだ。
きっと。
「どうぞ」
足を踏み出す。
灰色の部屋に、真っ白な布。
俺は美里の手を離さないで、それを捲った。
「…!」
美里が後ずさる。
俺も驚いて身を引いた。
思わず口を塞いだ。
臭いを吸いたくなくて。
―エンジンに点火して爆発―
嫌だ。
こんなの嫌だ。
俺は涙を拭いて、美里を起こした。
「母さん……に、お別れしなきゃ」
「うそだよ……」
「美里」
嘘じゃないよ。
これは現実。
俺たちは、孤児になったんだよ。
0
お気に入りに追加
8
あなたにおすすめの小説



男子寮のベットの軋む音
なる
BL
ある大学に男子寮が存在した。
そこでは、思春期の男達が住んでおり先輩と後輩からなる相部屋制度。
ある一室からは夜な夜なベットの軋む音が聞こえる。
女子禁制の禁断の場所。
天国地獄闇鍋番外編集
田原摩耶
BL
自創作BL小説『天国か地獄』の番外編短編集になります。
ネタバレ、if、地雷、ジャンルごちゃ混ぜになってるので本編読んだ方向けです。
本編よりも平和でわちゃわちゃしてちゃんとラブしてたりしてなかったりします。

寮生活のイジメ【社会人版】
ポコたん
BL
田舎から出てきた真面目な社会人が先輩社員に性的イジメされそのあと仕返しをする創作BL小説
【この小説は性行為・同性愛・SM・イジメ的要素が含まれます。理解のある方のみこの先にお進みください。】
全四話
毎週日曜日の正午に一話ずつ公開
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる