どこまでも玩具

片桐瑠衣

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明かされた記憶

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 それから後は覚えていない。
 記憶ってのは便利に出来ていて、最悪なことは忘れさせてくれる。
 しかし、あの行為が中学まで続いたのは知っている。
 ビデオに撮られたこともある。
 その使い道は聞いてない。
 旅行先のホテルで襲われたこともある。 
 中学二年で母は離婚した。
 原因は一つ。
 目撃したから。
 母が留守の間だけでは我慢仕切れなくなった父は、夜中に部屋を訪ねるのが習慣化していた。
 きっかけ一つで暴かれる。
 母はショックで家では一切口をきかなくなり、数日後離婚届を持ってきた。
「哲、教えてちょうだい」
 荷物をまとめて、玄関でそう言った。
「父さんのせいよね。あなたは、悪くないわよね」
 カタカタ震えていた。
 涙を浮かべていた。
 そんな母が可哀想だった。
 父に裏切られ、子供は変わり果ててしまったのだ。
 頷きたい。
 だって、真実だから。
 だが、父の視線が背中に突き刺さった。
 息が詰まる。
「哲……!」
「母さん、ありがとう」
 そして一歩下がった。
 肩に置かれていた母の手が離れる。
「哲?」
「おれにも責任あるんだ」
 沈黙。
 これは、別れの挨拶。
 父の笑い声が聞こえた気がした。
 ほら。見ろ。
 哲はお前を選ばなかった。
「そう……そうなの。じゃあ、母さん行くね」
 裁判にだって出来た。
 母を味方につければ。
 でも、それじゃ解決しない。
 玄関が閉まる。
 ばいばい、母さん。
「哲、こっちおいで」
 少年の足は台所へ向かう。
 ばいばい、父さん。

 紅乃木は類沢に組み伏せられながら、全てを思い返した。
「担任呼んだから。そのナイフだけでも退学決定だね」
 なんで今なんだ。
 類沢を見上げる。
 父みたいに笑ってるんじゃないかって。
 違った。
 彼は、凄く切なそうに顔を歪めてる。
「……殺されなくて悪いね」
 ああ、そうか。
 類沢は父とは異なるタイプだ。
 簡単に人を壊さないし、
 簡単に壊れない。
 ズルい人間だ。
 紅乃木は声なく笑った。
「なに?」
「いや……先生って思った以上にまともなんですね」
 類沢の力が緩む。
 今なら逃げられるかも。
「そんなことないね」
「アカ!」
 入り口から声が響いた。
「みぃずき?」
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