どこまでも玩具

片桐瑠衣

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放たれた憎悪

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「なぁ、アカ。なんかあったんじ」
「明日なんだ」
「……は?」
 アカは上着のポケットを指で弾く。
「完全犯罪?」
 首筋に冷たいものが落ちてきた。
 そう錯覚してしまう寒気がした。
「何する気だよ」
「みぃずきを助けるの」
 それ以外にある、そんな口振りだ。
 このジャケットさ、特別仕様でね。
 七つ道具が入ってるんだ。
 ここにはカミソリでしょ。
 あとテープ。
 ここには……
 愉しげな紅乃木の言葉が頭に入ってこない。
 出来の悪いサイレンス映画をみている気分だ。
 自分の口も動いたって音は出さない。
 使えない体。
「みぃずき、待っててね。もう苦しまなくて良いんだよ」
 狂気。
「手が使えなければ、仕事出来なくなるだろうし」
 狂気の目。
 アカが、変わった。
「みぃずきには話しとこうと思ってさ……」
「何がだ?」
 紅乃木はナイフの柄を回す。
 風を切る音が妙に鳴る。
 彼は唇をすぼめて囁いた。
「金原を救えなかった理由?」





 オレはどう切り出せば良いかよくわからなかった。
 有紗を前に、ただ耳を傾けるしかまだ出来ない。
 瑞希は聞いてはいけない気がした。
 それが良心からかも定かじゃない。
「だって本人の口から聞いたんだよ! 僕は女の子に興味ないの……って。それなのにうちのクラスの女子なんか全員、ぜんっいん虜になっちゃってるんだから信じやしない……嘘つきってばっかり言うの」
「まずさ」
 二人は足を止める。
「……有紗は信じてるのか?」
 彼女は目を見開いて、叫ぼうとした口を無理やり閉じた。
 それから目線を泳がせ思案する。
 髪を弄るのは癖だ。
 久しぶりの有紗の仕草を、ただ眺めていた。
「しん……じてないって言ったら嘘になる。でも、一番は周りが信じることなの! そしたらアイツなんか、類沢せんせーなんか誰も相手にしないんだから」
 やっぱりか。
 瑞希に聞かせなくて良かった。
 有紗はショックを受けただけじゃない。
 目的は類沢への復讐。
 大方、冷たくフられでもしたんだろう。腹いせって奴だ。
 真っ赤になる元カノを見下ろす。
 これも、類沢の計算のうちだ。
 たとえ不利になる噂だって、広がらなければ意味がない。
 広がらなければ、広げようとした本人は疎外される。
 自然と口封じになるわけだ。
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