どこまでも玩具

片桐瑠衣

文字の大きさ
上 下
41 / 206
放たれた憎悪

4

しおりを挟む


「おはよー」
「瑞希、アカ見てないか?」
「え?」
 荷物を置くと同時に金原が言った。
「まだ休んでんのかな……」
「そうなのかな」
 俺は寒気を感じつつ相づちを打った。
 紅乃木の最後の姿を思い出して。
 カシン。
 ナイフが弾かれ現れる音が蘇る。
「家に行ってみるか」
「そうだな」
 金原はそこで言葉を区切り、俺の耳元に顔を近づける。
「……瑞希は大丈夫か」
 ビクリ。
 自分の背中が恨めしいくらい素直に反応してしまう。
 あれから二日。
 類沢からは校外で呼び出しを受けた。
 ―今から、駅前に来なさい―
 携帯を見て頭が痛くなった。
 多分気を失っているうちに携帯の情報くらい操作したのだろう。
 差出人を見て眩暈が隠せなかった。
 金原まで歯牙にかけたと知り、一層彼への殺意が募る一方、その前に引きずり出されれば逆らえなくなる。

 その夜を思い出して戦慄する。
 見たこともないホテルに連れて行かれると、そういう類なのか、男二人連れというのを店員は全く気にもせずに鍵を渡した。
 エレベーターではお互い無言だった。
 しかし、緊張してるのは俺だけで、類沢はせせら笑うように壁にもたれていた。
 また部屋の悪趣味なこと。
 入った途端甘すぎる匂いが脳をくらませた。
 流石に逃げれない状況だと思い知ってからは震えが止まらなかった。
 学校じゃない。
 誰かにバレることもない。
 時間を気にすることもない。
 そんな空気が満ちていた。
 写真一つの為に、たかがそれのために黙ってついてきた自分を憎んだ。
 類沢が反応を楽しんでるのもわかったから、余計に辛かった。
―悔しい?―
 ベッドに投げ飛ばして、彼は意地悪く尋ねる。
 俺は後ずさりながら、精一杯睨みつけた。
 それ以外に、すべき抵抗も見つからなかったから。
 類沢の手が伸びてきて、服を掴む。

「瑞希って!」
 ハッと現実に戻される。
 金原が厳しい表情で顔を覗き込んでいる。
「……ワリ」
「お前は悪くねぇよ」
 情けなくなって乾いた笑いが零れた。
 俺は、いつまで奴に好き勝手されるんだろうな。
―刺せば効くよね―
 紅乃木の言葉が耳を掠め消える。
 彼は今、どこで何を企んでいるんだろうか。
「授業始まんぞ」
 隣の席の日比谷が忠告して、二人は別れた。
 一限は数学。
 担当は篠田。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

騙されて快楽地獄

てけてとん
BL
友人におすすめされたマッサージ店で快楽地獄に落とされる話です。長すぎたので2話に分けています。

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

放課後教室

Kokonuca.
BL
ある放課後の教室で彼に起こった凶事からすべて始まる

真・身体検査

RIKUTO
BL
とある男子高校生の身体検査。 特別に選出されたS君は保健室でどんな検査を受けるのだろうか?

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

営業活動

むちむちボディ
BL
取引先の社長と秘密の関係になる話です。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

処理中です...