デブだから婚約破棄?!上等だ、お前なんかこっちから願い下げだ!!

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ダレン外伝 祖国⑫

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 ミアの救出はあっけないぐらい簡単に終わった。
 王都からアンバー男爵領に向かう、次の宿場町にアンバー男爵の家紋が印字された馬車が停まっていたのだ。しかも、宿屋の台帳にアンバー男爵の名前が記載されていた。

 本来、『誘拐』する場合は身元がわからないように家紋が印字されてない馬車を用意するものだが……。なんともお粗末な犯行だ。
 部屋に押し入るとミアは手を拘束されお腹を庇うようにソファーで寝ていた。

 誘拐をしたはいいものの、具合が悪くなったミアは馬車で嘔吐してしまい、進むに進めなくなってこの宿で休んでいたそうだ。

「誘拐の現行犯で騎士団につき出すぞ」
 と、脅すとあっさりミアを解放した。
「隠し子の事を聞こうとしただけで傷つけるつもりは無かったんだ!」
 男爵は慌てて弁明してきたが、一睨みすると面白いくらい後ろに後退り股間を湿らせていた。

 夜も遅いのでその日は別の部屋をとって朝を迎えた。もちろん、宿代は男爵もちだ。
 翌朝、ミアの体調を確認し移動した。
 男爵の馬車で帰ろうと思っていたが、ミアが拒否した。馬車の揺れが気持ち悪いそうだ。
 仕方なく一緒に馬に乗りゆっくり常歩で帰ることにした。

 日差しがとても気持ち良い。
 頬を撫でる風も初夏の匂いを漂わせていた。
「大丈夫か?」
「うん……。風が気持ちいい……」
 彼女はずっと左手でお腹を触っていた。

 昨日の晩もミアとはあまり話せていない。
 誘拐されて緊張状態だったからか、救出したあとすぐに彼女は寝てしまったのだ。

 特にお腹の痛みは無いらしいが、無意識なのかお腹をずっと触っている。
「腹が気になるのか?」
「え?」
「ずっと触っているから……」
「……私、触ってた?」
「気づいて無かったのか?」
「……そうね、触ってたかも」
 彼女は前で横乗りしている。俯いているので表情は見えないが、落ち着いた雰囲気だ。

「……誰の子供か……聞かないの?」
 彼女の準備が出来るまで、あまり刺激しないようにするため、子供の父親については聞いてない。
 ただ、予想は出来てる。
 正直……答えを聞くのが怖い。
 自分の倫理観では受け入れがたい……。

「……君の……判断に任せる」
 自分は臆病者だな……。
 責任を取ると言いながら……受け入れがたい現実を知る責任を、彼女に丸投げしてしまった。

「最低ね」
「……すまない」

 俺を軽く嘲笑してから、彼女はゆっくりと息を吐いた。

「『これで全て上手くいく。最愛の娘に残していける最高のプレゼントだよ。プレゼントを受け取ったら、庭の木の下にある箱を掘り起こしなさい。プレゼントの使い方を手紙にしたからその通りにしなさい。決して他の男に体を触らせてはいけない。これは家族にしか許されないことだ』」
 一気に言葉を吐き出す彼女の口調は、愛しさと悲しさを感じさせる声色だった。

 子供の父親は、実の父親だった……。

「本当、バカよね。その行為がどんな事になるのか知らず、ただ言われるまま信用して……。このざまよ」

 かける言葉が見つからない……。

「出産って命がけなんでしょ?医者が言ってたの。死にたくないなら、子供を育てられないなら、堕ろした方が良いって……」

 沈黙……。
 ミアは堕ろす気なのか……?

「ダレン……。三年間、私のこと放ったらかしにしたこと、悪いと思ってる?」
「……あぁ。すまなかった」
「じゃぁ私に何かあったら、この子の事ちゃんと育てて。私が死ななかったら、私に仕事を紹介して」
「は?」

 ミアの言葉が上手く理解出来ない。
 仕事を紹介する?

「あんたの事、信用できない。責任を取るって言いながら子供の父親の事知ろうとしないで逃げたじゃない。責任が出てくる度に逃げ出すんでしょ」
 指摘されて、ドキッとした。
「誰も助けてくれない……。今回のことで思い知ったわ。自分を守れるのは、子供を守れるのは……自分だけだって」

「すぐに助けられなくて……すまなかった」

 彼女は顔を歪めて笑った。
 胸が痛くなるような、痛々しい顔だ。

「謝らないで。結果的に助けてくれたんだから。……さっき、私がお腹を触ってるって指摘したでしょ。思い返すと、私ずっとお腹を触ってた」
 ゆっくりとお腹を擦っている。
 その手つきは優しそうだった。

「ずっと……どうして良いかわからなかった。赤ちゃんなんて未知のものが、私のお腹にいるのよ……怖かった。怖いなら堕ろせばいい……でも、堕ろす決断をするのが怖かった……。酷いお父様。最低なお父様……。とても恨んだわ。妊娠が無かったことになればいいのにって何度も思った」

 今まで溜めていた言葉を吐き出すように、彼女は話続ける。

「でも、誘拐されて、隠し子の事を聞かれて、私はずっとお腹を庇っていた。身籠っているとバレないように、お腹から来る体調不良を装い、体を丸め、ずっとお腹を守っていた。……この子を守りたいんだって、気がついたの」

 彼女がこちらを見た。
 その視線は真剣なものだった。

「産むわ」
「……わかった」
「……いいの?」
「君がそう決めたなら」
「……ありがとう」

 彼女の顔は、何かスッキリしたような、爽やかな顔をしていた。
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