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ダレン外伝 祖国①

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 祖国を出て約三年が経った。
 大魔法聖域結界の恩恵により、人々の生活はとても豊かになっていた。
 魔物被害が無くなることで王国内の貿易は盛んになり、王都に住む人々の顔は晴れやかだった。

 王都の端ではあるが、冒険者用の魔物が出現するダンジョンも建設中と聞く。
 聖域結界内に魔物が存在出来るように、聖域結界無効化結界を開発するなど、『大聖女クローヴィア』『大魔法使いライオネル』の活躍は目まぐるしい。

 だが、ダンジョンの建設は聖域結界が発動した後に着手した為、完成の目処は立っていない。
 その為、魔物によって生計を経てていた者は、軒並み落ちぶれているようだ。
 魔物駆除を生業とする冒険者はおらず、柄の悪い男達が酒場に入り浸っていた。

 皮肉なものだ。
 魔物という絶対的悪を排除したら、魔物素材を用いる産業は大打撃。職を失った者が盗賊に転向する。
 今度は人間同士で争うことになるんだな。

 運搬用の馬車には軽装の騎士が同行しているのが見受けられる。
 おそらく、今まで冒険者がやっていた『要人警護』の役割を担っているのだろう。
 自分が居たときには考えられない事だ。
 さぞ不満顔だろうと見ると、満更でもないような顔だ。貴族出の騎士にしてみれば、商人の護衛は最下位の仕事だ。
 何故だ?

「平民の騎士?」

 自分がいた騎士団は貴族の子息子女が在籍する第一騎士団だった。
 平民から騎士になる者は第二騎士団在籍になる。おそらく馬車の警護をしている者は第二騎士団の者だろう。

 なるほど。

 魔物討伐で駆り出されなくなった騎士団を要人警護に当てているのか。平民騎士なら冒険者の代わりをすることに抵抗を感じにくいからな。
 
 何はともあれ、王都は平和な空気が流れていた。


×××


 俺は平民街にやって来た。
 ミアに会う為だ。
 平民の家は平屋が主流だが、俺達の住居は二階建ての小綺麗な佇まいをしていたはず。
 オシャレなカフェを連想させる作りだった。
 庭もあり、整備された芝生や色とりどりの花が花壇に咲き誇っていたはず……。

「マジか……」

 庭は雑草が生い茂り、花壇は荒れ果て見る影もない。庭の入口も壊れており、扉半分が辛うじて付いている。
 玄関ドアの付近には酒瓶が無数に転がっているし、パーティーをして片付けていないのか、ボロボロになったテーブルに、ボロボロのテーブルクロスが幽霊のようにヒラヒラと踊っている。
 どういう原理でテーブルクロスがテーブルに引っ付いてるのかはわからないが、とにかく異様な光景だった。

 正直、ここまで酷いとは思わなかった。
 こんな場所にミアは居るのか……。

 ガシャン!!
 窓ガラスを何かが突き破る音がする。

「離して!触んないでよ!!」
 ミアの声だ。
「文句があるなら、この場で借金全部払ってから言いな!おら、来い!」
「お金ならハーパーとマイクが持ってくるわ!!もう、触らないでよ!」
「はっ!ハーパーもマイクも、うちの店で女とよろしくやってるぜ」
「うっ、嘘よ!今日はどこかの店の手伝いに行くって……。マイクだって、実家からお金を借りるから帰るって、旅費を……」
「本当、バカな女だな。二人ともお前の金で遊びたかったから一緒に居ただけだって、何でわかんねーんだろうな。落ちぶれ貴族のクソ女」
「嘘よ、嘘、嘘、嘘嘘嘘嘘!!」
「うっせーな!」

 ドアを突き破るように、家から投げ出される女を見た。
 艶々していたピンクの長い髪は、肩くらいで切られボサボサで、パサついているようだ。ふっくらした可愛らしかった頬はこけて、愛らしい瞳は荒んで吊り上げっている。
 着ている洋服も、ドレスだがボロボロで破けている部分があった。

 あの女がミアだと認識できるまで、少し時間がかかった。それほどミアは変貌していたのだ。

「女であることを感謝しろよ。少し綺麗にすれば、それなりに客がつく。素直に股を広げれば今よりいい暮らしができるぜ。良かったな」

 家から現れた大柄な男がミアの腕を掴んで立たせた。
 スーツを着ているが、着崩しているため粗暴に見える。まぁ、女性を投げ飛ばす奴だ。最低な男であるのはわかる。

 ミアを連れて男が俺の前に来た。

「おい、見せもんじゃねーんだ。そこをどけよ」
「彼女から手を離せ」
 自分でも驚くほど低く冷たい声が出た。
 俺は怒っているようだ。

「あ??なんだ、お前がこの女を買うのか?」

 買うだと……。

「彼女を離せ」
「こっちも仕事なんだ。この女に相手して欲しいなら、うちの店に来いよ。初回割りで安くしてやるぜ」

 俺はミアの腕を左手で掴み、利き腕の右手で男の顔を殴り飛ばした。
 不意打ちもあるが、男は面白いくらい後ろにぶっ飛んだ。

「何しやがる!!」
「彼女に近づくな、ゲス」
「けっ!こっちは仕事だって言ってんだろ!何か、お前がこの女の借金を払うってのか?!」
「……いくらだ」
「ふん!金貨120枚だ」
 男に近づき、俺は懐から金の入った袋を投げ渡した。
「受け取れ」
 男は中身を確認すると、薄気味悪い顔でこちらを見た。
「へへ、確かに120枚ありますな。ですが、借金には利息があるんですよ。これじゃ足りませんぜ」

 今も昔も借金取りは似たような事を言うな。

「そうか。では借用書を見せろ」
「はっ!そんなもんは店にーー」
 男の胸ぐらを掴む。
「お前知ってるか?借用書無しで借金取り立てに行くのはご法度だ。今から騎士団につき出してやろうか?そうなれば、店は違反を犯したとなって強制捜査されるぞ」
 男は真っ青になって借用書を出した。
 内容を見れば、利息を合わせても金貨102枚程度だ。

「金貨120枚はぼったくりじゃないか?」
「すっ、すいやせん!!」

 男は袋から18枚金貨を出した。
 その金貨を受け取り、手を離した。
 男は脱兎の如く走り去った。

「あっ、ありがとう、ございます」

 そこには、カタカタ体を震わせる、惨めで可哀想な女が立っていた。

『役立たず!私のお金を当てにしないでよね。騎士団も退団しちゃって、どうするのよ。アンタに使うお金なんて無いんだから!』
 そう言っていた、傲慢な女はどこにも居なかった。 
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