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ダレン外伝⑤
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ザビートはただ、じっと聞いてくれていた。
「ジミーに言われたよ。悪いことをしたら謝ればいい。……子供の頃は何も考えずにすんなり言えた謝罪も……今は……」
「……謝りたいのか?」
「謝り……たい。けど、それは俺の自己満足なんだ。もしも仮に両親が俺に謝ってきたら……ふざけるなって、殴ると思う。それなら彼女だって同じだろう」
沈黙。
「……これは、俺の個人的な意見だ。謝ることで相手が満足するならいくらでも謝ればいい。お前の顔を見て嫌な記憶を思い出させてしまうなら、一生後悔して、一生考えて、それでも生きていくんだ。相手に悪かったと思うだけ、誰かを助けてやるんだ。人間、どこで繋がってるかわからない。自分が助けた誰かが、その人を、その人の大切な人を救ってくれるかもしれない。俺は……そうやって生きてる」
ザビートの瞳が少し陰ったように見えた。
きっと彼も、謝ることのできない何かを抱えているのだろう。だから、見ず知らずの俺に親切にしてくれたんだな……。
なんだが、胸が苦しくなる。
無性に……泣きたくなった。
×××
ザビート達に助けられてから2ヶ月が経った。
俺は今日、この村を出発する。
「世話になった」
「気にするな」
別れの挨拶なのに、ザビートはいつも通りぶっきらぼうだ。なんだか安心する。
「エレンおじさん!近くに来たら寄ってくれよな。約束だぜ」
「エレンさん。今までたくさん勉強を教えて頂き、ありがとうございました」
「そんな、大したことは教えていないよ」
「いいえ。エレンさんのお陰で、俺もジミーも本を読めるようになりました」
「この短期間で読めるようになったのはパリスが努力した結果だ。頑張ったな」
「はい!」
子供らしいキラキラした笑顔に、心が癒される。
「これ、お弁当だよ。冒険者ギルドのある村は遠いからね。気を付けるんだよ。小まめに休憩なり、水分補給なり忘れるんじゃーーー」
「テッサ」
テッサの言葉をザビートが遮った。
世話好きでおしゃべりで、お節介。
ザビートが口を挟まなければ、30分は喋り続けただろう。
「ハハハ!すまないね。じゃ、元気で」
豪快な笑いが、周りを明るくする。
この家族に出会えて良かった。
本当にありがとう。
一家は俺の姿が見えなくなるまで手を振ってくれていた。
×××
冒険者ギルドに顔を出すと幽霊を見たように驚かれた。まぁ、死んだと思ってた奴が帰ってきたのだから仕方ないだろう。
「えっ、エレン……」
俺を見捨てたパーティーのリーダーがちょうどギルドにいたので探す手間が省けた。
「よっ、良かった!サラマンダーに吹っ飛ばされて崖に落ちたから、もうダメだと思ってたんだ。生きて帰ってきてくれて嬉しいよ」
白々しい奴……。
「ちょうど良かったよ」
俺は人の良さそうな顔を心がけながら、リーダーに近付いた。そしてーー
「ギルドマスターに説明するから、お前も来い」
胸ぐらを掴んで受付に引きずって行った。
「はっ、離せよ!この死に損ないが!」
×××
俺はサラマンダー討伐での出来事を詳細に、ギルドマスターに話した。
「出鱈目だ!エレンはサラマンダーの攻撃を受けて崖から落ちたんだ。救出に行きたくても深い崖だったから……死んだと思って……」
あくまでも『見捨てた』とは認めないようだ。
「ダレン、服を脱いでくれ。体の傷が見たい」
ギルマスの指示に従う。
俺は上半身の服を脱いで肌を見せた。
剣の切り傷や右腕に火傷の跡がある。
「崖から落ちたと言うが、どうして落ちた。落ちたのは前からか?」
「しっ、しっぽが腹に入った拍子に吹っ飛んだんだ。背中から落ちて行ったはずだ」
「ふむ……。エレン、ありがとう。服を着てくれ」
そういうと、ギルマスは職員にパーティーメンバーを全員呼ぶように指示を出した。
しばらくしてギルマスの執務室にパーティーメンバー全員が集められた。
「えっ、エレン?!」
みんな幽霊を見るような顔だ。
中には、苦虫を噛み潰したような顔をする奴もいる。
不自然に視線をそらす者も。
「全員、犯罪者の印を押すから手を出せ」
ギルマスの冷たい声が響いた。
「な?!」
「どう言うことよ!」
「何で私達が犯罪者なの?!」
「どう言うことだよ!!」
一様に混乱と抗議をするメンバー達。
「黙れ」
ギルマスの低く威圧感のある声に、一同息を飲んだ。
「テメーらが仲間を見捨てたからだよ」
「だから見捨ててないと説明してるだろ!エレンはサラマンダーのしっぽに弾かれて崖に落ちたんだ。そんなの死んだと思って当然じゃないか!」
リーダーが食い付く。
「その汚ねぇ口を閉じろ。クズ。サラマンダーの背びれのようなトゲは高温で、触れただけで大火傷だ。そのトゲ、しっぽには全面的に生えているんだ。腹をしっぽに弾かれた?エレンの腹に火傷はなかっただろうが!」
あぁ、だから服を脱いで確認したのか。
「わっ、私は反対したのよ!重傷のエレンを置き去りにするなんて。それをリーダーが」
「おい、やめろ!」
「そっ、そうだぜ!リーダーがエレンを前から気に入らないってぼやいていたんだ。だからみんなエレンを煙たがってたんだ!」
「置き去りにしようって言ったのはリーダーよ」
口々に『自分は悪くない』『リーダーが指示した』と責任を擦り付け始めた。
醜いな……。
こんな連中を仲間だと思ってたのか……。
俺の中で怒りよりも呆れと虚しさか広がった。
「ピーピーうるせーな!!仲間を見捨てた時点でテメーらみんな同罪だよ」
ギルマスの一喝でパーティーメンバーは全員諦めたのか、項垂れて何も言わなくなった。
あとは粛々と全員の手の甲に犯罪者の印を押され、各冒険者ギルドに報告が上がった。
『歯牙の祭り』パーティーは仲違いして解散した。
冒険者として致命的な烙印を押されたメンバーは、もう冒険者として活躍するのは難しいだろう。
とぼとぼとメンバー全員が執務室を出たのち、俺も部屋を出た。
「エレンさん」
「!お前は……」
廊下で声をかけてきたのは、俺がパーティーを追い出した奴だった。
「ジミーに言われたよ。悪いことをしたら謝ればいい。……子供の頃は何も考えずにすんなり言えた謝罪も……今は……」
「……謝りたいのか?」
「謝り……たい。けど、それは俺の自己満足なんだ。もしも仮に両親が俺に謝ってきたら……ふざけるなって、殴ると思う。それなら彼女だって同じだろう」
沈黙。
「……これは、俺の個人的な意見だ。謝ることで相手が満足するならいくらでも謝ればいい。お前の顔を見て嫌な記憶を思い出させてしまうなら、一生後悔して、一生考えて、それでも生きていくんだ。相手に悪かったと思うだけ、誰かを助けてやるんだ。人間、どこで繋がってるかわからない。自分が助けた誰かが、その人を、その人の大切な人を救ってくれるかもしれない。俺は……そうやって生きてる」
ザビートの瞳が少し陰ったように見えた。
きっと彼も、謝ることのできない何かを抱えているのだろう。だから、見ず知らずの俺に親切にしてくれたんだな……。
なんだが、胸が苦しくなる。
無性に……泣きたくなった。
×××
ザビート達に助けられてから2ヶ月が経った。
俺は今日、この村を出発する。
「世話になった」
「気にするな」
別れの挨拶なのに、ザビートはいつも通りぶっきらぼうだ。なんだか安心する。
「エレンおじさん!近くに来たら寄ってくれよな。約束だぜ」
「エレンさん。今までたくさん勉強を教えて頂き、ありがとうございました」
「そんな、大したことは教えていないよ」
「いいえ。エレンさんのお陰で、俺もジミーも本を読めるようになりました」
「この短期間で読めるようになったのはパリスが努力した結果だ。頑張ったな」
「はい!」
子供らしいキラキラした笑顔に、心が癒される。
「これ、お弁当だよ。冒険者ギルドのある村は遠いからね。気を付けるんだよ。小まめに休憩なり、水分補給なり忘れるんじゃーーー」
「テッサ」
テッサの言葉をザビートが遮った。
世話好きでおしゃべりで、お節介。
ザビートが口を挟まなければ、30分は喋り続けただろう。
「ハハハ!すまないね。じゃ、元気で」
豪快な笑いが、周りを明るくする。
この家族に出会えて良かった。
本当にありがとう。
一家は俺の姿が見えなくなるまで手を振ってくれていた。
×××
冒険者ギルドに顔を出すと幽霊を見たように驚かれた。まぁ、死んだと思ってた奴が帰ってきたのだから仕方ないだろう。
「えっ、エレン……」
俺を見捨てたパーティーのリーダーがちょうどギルドにいたので探す手間が省けた。
「よっ、良かった!サラマンダーに吹っ飛ばされて崖に落ちたから、もうダメだと思ってたんだ。生きて帰ってきてくれて嬉しいよ」
白々しい奴……。
「ちょうど良かったよ」
俺は人の良さそうな顔を心がけながら、リーダーに近付いた。そしてーー
「ギルドマスターに説明するから、お前も来い」
胸ぐらを掴んで受付に引きずって行った。
「はっ、離せよ!この死に損ないが!」
×××
俺はサラマンダー討伐での出来事を詳細に、ギルドマスターに話した。
「出鱈目だ!エレンはサラマンダーの攻撃を受けて崖から落ちたんだ。救出に行きたくても深い崖だったから……死んだと思って……」
あくまでも『見捨てた』とは認めないようだ。
「ダレン、服を脱いでくれ。体の傷が見たい」
ギルマスの指示に従う。
俺は上半身の服を脱いで肌を見せた。
剣の切り傷や右腕に火傷の跡がある。
「崖から落ちたと言うが、どうして落ちた。落ちたのは前からか?」
「しっ、しっぽが腹に入った拍子に吹っ飛んだんだ。背中から落ちて行ったはずだ」
「ふむ……。エレン、ありがとう。服を着てくれ」
そういうと、ギルマスは職員にパーティーメンバーを全員呼ぶように指示を出した。
しばらくしてギルマスの執務室にパーティーメンバー全員が集められた。
「えっ、エレン?!」
みんな幽霊を見るような顔だ。
中には、苦虫を噛み潰したような顔をする奴もいる。
不自然に視線をそらす者も。
「全員、犯罪者の印を押すから手を出せ」
ギルマスの冷たい声が響いた。
「な?!」
「どう言うことよ!」
「何で私達が犯罪者なの?!」
「どう言うことだよ!!」
一様に混乱と抗議をするメンバー達。
「黙れ」
ギルマスの低く威圧感のある声に、一同息を飲んだ。
「テメーらが仲間を見捨てたからだよ」
「だから見捨ててないと説明してるだろ!エレンはサラマンダーのしっぽに弾かれて崖に落ちたんだ。そんなの死んだと思って当然じゃないか!」
リーダーが食い付く。
「その汚ねぇ口を閉じろ。クズ。サラマンダーの背びれのようなトゲは高温で、触れただけで大火傷だ。そのトゲ、しっぽには全面的に生えているんだ。腹をしっぽに弾かれた?エレンの腹に火傷はなかっただろうが!」
あぁ、だから服を脱いで確認したのか。
「わっ、私は反対したのよ!重傷のエレンを置き去りにするなんて。それをリーダーが」
「おい、やめろ!」
「そっ、そうだぜ!リーダーがエレンを前から気に入らないってぼやいていたんだ。だからみんなエレンを煙たがってたんだ!」
「置き去りにしようって言ったのはリーダーよ」
口々に『自分は悪くない』『リーダーが指示した』と責任を擦り付け始めた。
醜いな……。
こんな連中を仲間だと思ってたのか……。
俺の中で怒りよりも呆れと虚しさか広がった。
「ピーピーうるせーな!!仲間を見捨てた時点でテメーらみんな同罪だよ」
ギルマスの一喝でパーティーメンバーは全員諦めたのか、項垂れて何も言わなくなった。
あとは粛々と全員の手の甲に犯罪者の印を押され、各冒険者ギルドに報告が上がった。
『歯牙の祭り』パーティーは仲違いして解散した。
冒険者として致命的な烙印を押されたメンバーは、もう冒険者として活躍するのは難しいだろう。
とぼとぼとメンバー全員が執務室を出たのち、俺も部屋を出た。
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「!お前は……」
廊下で声をかけてきたのは、俺がパーティーを追い出した奴だった。
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