上 下
17 / 37

番外編 ライオネルの初恋③

しおりを挟む
 決して兄上に唆されたわけではない!
 断じて違う!
 ただ、ただ……惚れ薬が絶対に作れない物と認識されてるのが嫌で……。
 そう、この論文がおかしい!と証明したいが為に……。

 作ってしまった……。

 魅了魔法を魔法液に付与する方法が論文に書かれていた。固形の腕輪やネックレスに付与することが出来るのなら、液体に付与し、それを意中の相手に飲ませれば良いのではないか……。
 液体に付与するなど面白い発想ではあるが、それは無理だ。

 付与魔法は、その物体の形に合わせて構成されるのが今の常識だ。形を変える水では付与が外れてしまうのだ。

 だから私はまず材料になる薬草を育てる段階から………………。

 ぬあぁぁぁぁあああぁぁぁ!!!

 そんな事は論文にまとめれば良いだけで……。

 治験は出来ていないが、私が考えたのだから間違いはなくて……。材料の効果を考えると『惚れている』時間は一週間程と予想出来て、その間は相手の事しか考えられなくなる。
 効果が切れても、その時に感じた気持ちは、まるでシミのように残り、無意識に相手を意識してしまう。
 さらに、薬の効果が有る時は、相手に命令されればどんなことでも……。

 ガンっ!
 思いっきり頭を自分で机に打ち付けた。

 王城の温室兼研究室で、私はできたばかりの『惚れ薬』が入った小瓶を机に置き、突っ伏したり、頭を掻いたりと一人忙しなくしていた。

 アホすぎる……。

 研究材料があると研究してみたくなるタチは、幼い頃から変わらない……。絶対、兄上に唆された……。

 クローヴィアとダレンは三年経っても婚約を続けている。
 表面的には問題の無い二人だ。
 デートの時、魔法省に迎えに来るダレンを見るが、特に熱のこもった目ではないし、それはクローヴィアも同じだった。
 恋人と言うよりは友人?いや、魔法省の同僚とさして変わらないように見えた。

 ただ、今日はおかしかった。
 いつもデートの時は迎えに来るのに、急用の為自分でレストランに来いって突然連絡があったとクローヴィアから聞いた。
 私も王城に用事があったので、魔法省の馬車でクローヴィアを送ってきた。

 普段は絶対しない。
 もう一度言うが、絶対しない。
 
 私は王位継承権を辞退した者だが、王族である。しかも、兄上はいまだに私を子ども扱いする事がある。
 なので、兄上から『影』を渡されている。
 
 『影』は私を守る事を優先するが、私の命令には従うようにもなっている。
 なので……。

 クローヴィアを守るように命令した。
 胸騒ぎがして……。
 まぁ、命の危険が無い限り『影』は姿を表さない。

 そして、案の定『影』から魔法通信が飛んできた。

 『対象者、婚約破棄、地面に倒れた』

 体の温度が上昇するのを感じた。
 怒りで、我を忘れそうだ……。
 私は瞬時に馬車に乗り込み、レストランに向かった。
 魔力消費が激しく、馬車までしか瞬間移動出来ない自分が歯がゆかった。

 いやいや、馬車がないとクローヴィアを連れて帰れないだろ。これで良かったんだ。
 冷静にならなければと思うのに、頭はグツグツ煮えるようだ。

『浮気相手登場、対象者を侮辱』

 私を煽っているのかと思いたくなる内容だ。
 『影』は事実しか連絡してこない。
 わかっている。
 暴走しないように、体を押さえ込む。

『元婚約者退出』

 その報告の数分後にレストランについた。
 ドアを蹴破りそうになったが、クローヴィアが怯えたら不味いと、思いとどまった。
 ドアを開けると、頭からケーキをぶつけられたのか、髪に顔、洋服にまでクリームがついている。よく見たら濡れてもいる。

「お客様、どうぞ御使い下さい」
 レストランの従業員がクローヴィアにタオルを渡している。他にも、女性スタッフが彼女の腕を拭いているのが見えた。

 ここのスタッフは素晴らしい人材だな。
 それに比べて、周りの客は最低だ。

 クスクスとクローヴィアを笑っている。

「デブって本当、醜いわよね」
「婚約されていた方も、可哀想ね」

「政略結婚でも、あの巨体はない」
「萎えるな」
「むしろ、押し潰されて不能になる」

『客の顔と名前を記録しろ』
 影にそう伝えた。
 クローヴィアをバカにしたことを、後で存分に後悔させてやる。
 
「クローヴィア嬢。迎えに来た」
「え?ライオネル様?どうしてここに?」
「えっ……」

 影から連絡を受けたとは言えないし……。

『レストラン、魔法省、連絡済み』
 ナイス!

「レストランから連絡を受けたんだ。立てるか?」
「はい、ありがとうございます。皆さんも本当にありがとうございました。また、お騒がせしてしまい申し訳ありません。後日謝罪に伺いますわ」
 まだクリームで汚れている顔で、彼女は従業員達にお礼と謝罪を伝えた。
 その顔はうっすらと笑っている。

 ひどい目にあったのに、泣くのではなく、周りへの感謝と謝罪ができる彼女を、本当に強いなと改めて思ってしまう。

「謝罪など必要ありません!その……どうか、お気を付けてお帰り下さい。是非、またのご来店をお待ちしております」
 彼女の汚れを落としていた従業員二人は、少し涙目であった。決して怯えてる訳ではなく……憧れ?のような目だな。

「ありがとう。ご迷惑でないのなら、また近いうちにランチで伺いますわ。お名前を伺ってもよろしいかしら?」
「聖女様にお名前を聞いていただけるなんて……。自分はヤンです」
「わっ、私はライラでしゅ……」
 あっ、噛んだ。
「ヤン、ライラ。ありがとう。また予約を取ってから来ますね」
「「はい!」」

 後で知った余談だが、ヤンはその日のフロアー責任者で、ライラはクローヴィアの座っていた席担当だったらしい。
 また、二人とも教会でクローヴィアが付与した『お守り』によって助けられたことがあったらしい。他のお守りよりも強力で、守られているとき、とても温かい気持ちが流れ込んで来たそうだ。
 それから二人は『聖女フォーリー伯爵令嬢』の大ファンだと言っていた。

 貴族平民問わず、一部でクローヴィアは大人気なんだよな。

 その彼女を蔑ろにし、侮辱し、嘲笑った奴らをみんなまとめて地獄に叩き落としてやる。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

殿下、あなたが借金のカタに売った女が本物の聖女みたいですよ?

星ふくろう
恋愛
 聖女認定の儀式をするから王宮に来いと招聘された、クルード女公爵ハーミア。  数人の聖女候補がいる中、次期皇帝のエミリオ皇太子と婚約している彼女。  周囲から最有力候補とみられていたらしい。  未亡人の自分でも役に立てるならば、とその命令を受けたのだった。  そして、聖女認定の日、登城した彼女を待っていたのは借金取りのザイール大公。  女癖の悪い、極悪なヤクザ貴族だ。  その一週間前、ポーカーで負けた殿下は婚約者を賭けの対象にしていて負けていた。  ハーミアは借金のカタにザイール大公に取り押さえられたのだ。  そして、放蕩息子のエミリオ皇太子はハーミアに宣言する。 「残念だよ、ハーミア。  そんな質草になった貴族令嬢なんて奴隷以下だ。  僕はこの可愛い女性、レベン公爵令嬢カーラと婚約するよ。  僕が選んだ女性だ、聖女になることは間違いないだろう。  君は‥‥‥お払い箱だ」  平然と婚約破棄をするエミリオ皇太子とその横でほくそ笑むカーラ。  聖女認定どころではなく、ハーミアは怒り大公とその場を後にする。  そして、聖女は選ばれなかった.  ハーミアはヤクザ大公から債権を回収し、魔王へとそれを売り飛ばす。  魔王とハーミアは共謀して帝国から債権回収をするのだった。

行き遅れ令嬢の婚約者は王子様!?案の定、妹が寄越せと言ってきました。はあ?(゚Д゚)

リオール
恋愛
父の代わりに公爵家の影となって支え続けてるアデラは、恋愛をしてる暇もなかった。その結果、18歳になっても未だ結婚の「け」の字もなく。婚約者さえも居ない日々を送っていた。 そんなある日。参加した夜会にて彼と出会ったのだ。 運命の出会い。初恋。 そんな彼が、実は王子様だと分かって──!? え、私と婚約!?行き遅れ同士仲良くしようって……えええ、本気ですか!? ──と驚いたけど、なんやかんやで溺愛されてます。 そうして幸せな日々を送ってたら、やって来ましたよ妹が。父親に甘やかされ、好き放題我が儘し放題で生きてきた妹は私に言うのだった。 婚約者を譲れ?可愛い自分の方がお似合いだ? ・・・はああああ!?(゚Д゚) =========== 全37話、執筆済み。 五万字越えてしまったのですが、1話1話は短いので短編としておきます。 最初はギャグ多め。だんだんシリアスです。 18歳で行き遅れ?と思われるかも知れませんが、そういう世界観なので。深く考えないでください(^_^;) 感想欄はオープンにしてますが、多忙につきお返事できません。ご容赦ください<(_ _)>

逆行令嬢は聖女を辞退します

仲室日月奈
恋愛
――ああ、神様。もしも生まれ変わるなら、人並みの幸せを。 死ぬ間際に転生後の望みを心の中でつぶやき、倒れた後。目を開けると、三年前の自室にいました。しかも、今日は神殿から一行がやってきて「聖女としてお出迎え」する日ですって? 聖女なんてお断りです!

婚約破棄された悪役令嬢が実は本物の聖女でした。

ゆうゆう
恋愛
貴様とは婚約破棄だ! 追放され馬車で国外れの修道院に送られるはずが…

無能だと言われ続けた聖女は、自らを封印することにしました

天宮有
恋愛
国を守る聖女として城に住んでいた私フィーレは、元平民ということもあり蔑まれていた。 伝統だから城に置いているだけだと、国が平和になったことで国王や王子は私の存在が不愉快らしい。 無能だと何度も言われ続けて……私は本当に不必要なのではないかと思い始める。 そうだ――自らを封印することで、数年ぐらい眠ろう。 無能と蔑まれ、不必要と言われた私は私を封印すると、国に異変が起きようとしていた。

私は王子の婚約者にはなりたくありません。

黒蜜きな粉
恋愛
公爵令嬢との婚約を破棄し、異世界からやってきた聖女と結ばれた王子。 愛を誓い合い仲睦まじく過ごす二人。しかし、そのままハッピーエンドとはならなかった。 いつからか二人はすれ違い、愛はすっかり冷めてしまった。 そんな中、主人公のメリッサは留学先の学校の長期休暇で帰国。 父と共に招かれた夜会に顔を出すと、そこでなぜか王子に見染められてしまった。 しかも、公衆の面前で王子にキスをされ逃げられない状況になってしまう。 なんとしてもメリッサを新たな婚約者にしたい王子。 さっさと留学先に戻りたいメリッサ。 そこへ聖女があらわれて――   婚約破棄のその後に起きる物語

【完結】私を断罪するのが神のお告げですって?なら、本人を呼んでみましょうか

あーもんど
恋愛
聖女のオリアナが神に祈りを捧げている最中、ある女性が現れ、こう言う。 「貴方には、これから裁きを受けてもらうわ!」 突然の宣言に驚きつつも、オリアナはワケを聞く。 すると、出てくるのはただの言い掛かりに過ぎない言い分ばかり。 オリアナは何とか理解してもらおうとするものの、相手は聞く耳持たずで……? 最終的には「神のお告げよ!」とまで言われ、さすがのオリアナも反抗を決意! 「私を断罪するのが神のお告げですって?なら、本人を呼んでみましょうか」 さて、聖女オリアナを怒らせた彼らの末路は? ◆小説家になろう様でも掲載中◆ →短編形式で投稿したため、こちらなら一気に最後まで読めます

舞台装置は壊れました。

ひづき
恋愛
公爵令嬢は予定通り婚約者から破棄を言い渡された。 婚約者の隣に平民上がりの聖女がいることも予定通り。 『お前は未来の国王と王妃を舞台に押し上げるための装置に過ぎん。それをゆめゆめ忘れるな』 全てはセイレーンの父と王妃の書いた台本の筋書き通り─── ※一部過激な単語や設定があるため、R15(保険)とさせて頂きます 2020/10/30 お気に入り登録者数50超え、ありがとうございます(((o(*゚▽゚*)o))) 2020/11/08 舞台装置は壊れました。の続編に当たる『不確定要素は壊れました。』を公開したので、そちらも宜しくお願いします。

処理中です...