「俺の子じゃない」と言われました

ともどーも

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二十六話 審議会 反論2

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「ローゼンタール伯爵夫人の行動だと?」
「えぇ。お茶会が始まったのは14時。お茶会の招待状にも記載があります」
 ソフィアは7/13のお茶会の招待状をテーブルに置いた。
「はじめに聞いておきますが、14時にお茶会が始まったと、ベクター弁護士も調べていますよね?当然」
 挑発的な口調だ。
「もちろんだ」
 ソフィアは満足気な顔をした。

「ローゼンタール伯爵夫人はお茶会参加の準備のために、朝からお風呂やマッサージなどを受け、屋敷を出発したのは13時半頃だと言っていますが、そちらの主張は如何ですか?」
「それは……」
 ベクター弁護士がイモージェンを見た。
 イモージェンは小さくため息をついて話し始めた。

「お話し中、失礼致します。私はローゼンタール伯爵家に仕える、イモージェン・ウエストと申します。ローゼンタール伯爵夫人が屋敷から居なくなるまで、専属侍女としてお仕えしていました。僭越ながら、私からお伝え致します」
 イモージェンは一瞬、嫌味な笑みを浮かべたが、すぐに無表情となり、淡々と話し出した。

「あの日、伯爵夫人は『お茶会に参加する令嬢は全員友人だから、そこまで準備しなくても良い』と、お風呂やマッサージをしませんでした。何時に屋敷を出発したかは覚えていませんが、午前中だったと思います。お帰りになったとき、お髪が乱れていました。お茶会でお髪が乱れることはありませんのに、不思議に思っていましたが、まさか護衛騎士と如何わしいことをしていたなんて……」
「ウエスト様。より詳しく話していただきたいので、こちらから質問しても?」
「構いません」
 ソフィアの申し出に、イモージェンは快く承諾した。

「では、貴女の朝一番の仕事は何でしょう?」
「伯爵夫人の朝の身支度の為、厨房からお湯をもらい、夫人を起こしに行くことです」
「それは何時ですか?」
「7時です」
「7/13も7時に起こしに?」
「はい」
「起こしたあとは何を?」
「朝食を召し上がるためにお着替えを手伝い、旦那様がいらっしゃるダイニングルームへご案内します」
「着替えはどんな服ですか?」
「ゆったりとしたマタニティドレスです」
「コルセットは?」
「朝はしません」
「朝食は何時ですか?」
「8時です。お二人は朝食を共にします」
「朝食をとったあとは?」
「旦那様が仕事のため9時に屋敷を出発するので、その見送りをします」
「伯爵夫人も一緒に?」
「はい。一緒でした。ですが、すぐに着替えてお出掛けになりました」
「すぐとは?」
「すぐです」 
「では、伯爵を9時に見送り、その足で部屋に戻り、洋服を脱ぎ、お茶会のドレスに着替え、化粧をし、髪を整え、馬車に乗ったと?」
「そうです」
「夫人はどんなドレスを着てましたか?」
「どんなって……一般的なマタニティドレスです」
「コルセットは」
「着けます」
 ソフィアがニヤリと笑った。
「マタニティコルセットは装着するのに時間がかかりますよね。夫人の体調やお腹のはり具合で細かな調整を必要とします。また、マタニティドレスは背中が開いていて、体型に応じて背中にある、交差するヒモでボディラインを美しく整えます。コルセットとマタニティドレスを美しく着るのに、四十分以上はかかるでしょう。どうですか?」
 イモージェンは少し考えて「そうです」と答えた。
「着替え、化粧、髪のセットアップ。一時間はかかるでしょう。そして、その後すぐに出発したと言うのであれば、伯爵夫人が屋敷を出発したのが10時前後ということになります。それから、商店街エリアに到着した。ベクター弁護士、夫人は宝石店とホテル、どちらを先に訪ねたのでしょうか?」
 ソフィアは急にベクター弁護士に話しかけた。
「宝石店でしょう。お茶会があるのに、衣類が乱れるホテルに行くとは思えません。少し考えればわかるでしょう。そんなこともわからないとは、やれやれ」
 いちいちバカにしないと話せないのかしら?

「リリーシア、大丈夫よ。気遣ってくれてありがとう」
 私の苛立ちに気がつき、ソフィアがフォローしてくれた。感情的になった方が敗けよね。
 平常心、平常心。

「伯爵夫人は宝石店でペアネックレスを買い、その足でお茶会に顔を出して、ホテルに向かい三時間、男と密室にいた。その後帰宅した。ウエスト様。伯爵夫人は何時に帰って来ましたか?」
「さぁ、そこまでは……」
「では、伯爵は何時に帰って来られましたか?」「18時です」
「……即答ですか」
「当然です。旦那様のスケジュールは頭に入っております。仕事は17時が定時です。優秀な旦那様は定時で仕事を終わらせ、一時間程でお戻りになられます。お帰り後は執務室で領地の経営資料を読み、19時にディナーをお召し上がりになります。ディナーを楽しんだあとは、お煙草と軽いお酒、チーズを嗜まれ、その後入浴。就寝前まで領地の報告書をお読みになり、深夜三時を過ぎることもあります。私はお夜食や飲み物など旦那様にお届けし、それから……」
 イモージェンは意味深長な目線をエドワードに送ったが、彼は無視している。むしろ不機嫌な顔になっている。
 公共の場で不倫関係を暴露されたくないってことかしら?
「ウエスト様。こちらが聞きたいのは、ローゼンタール伯爵が帰宅時、夫人が一緒に出迎えたかどうかです。如何ですか?」
「さぁ、どうだったかしら」
 話の腰を折ったからか、途端に話さなくなってしまった。イモージェンって、ずいぶん子供っぽい性格をしていたのね。

「フィート弁護士。それについては私が話しても」
 エドワードが話に割り込んだ。
「もちろんです」
「彼女は結婚後、毎日出迎えてくれた。つわりで辛いだろうに、私の顔が見たいからと……」
 切な気な顔を見て、イラっとした。
 イモージェンと浮気して、私に濡れ衣を着せて、屋敷から追い出した張本人が、何故そんな顔をするのか理解出来ない。
 視線を逸らすと負けた気がするから、無表情を維持し、視線は下げなかった。
「ありがとうございます。では、7/13も18時に伯爵夫人は屋敷に居た。そういうことになりますね。どうですか?ベクター弁護士」
「ローゼンタール様が言うのだから、間違いないだろう。旦那が仕事中に遊び呆けて、男と密会して、何食わぬ顔で現れる。厚かましいにも程があるだろう」
 ベクター弁護士が私を睨んできた。
 ムカつくので、涼しい顔をして見返した。

「フフフフフ」
 突然ソフィアが笑いだした。 
「こんな初歩的なことに気がつかないんですね。準備不足が過ぎるのではありませんか?」
「何だと!」
 ベクター弁護士が額に青筋を立てて怒鳴った。
「現場検証、しました?不可能なんですよ。あなた方が言っていることは」
 ソフィアは鋭い視線をベクター弁護士に向けた。
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