7 / 45
六話 兄として(ブライアン視点)
しおりを挟む
「なんだと!?」
早馬で届いた部下からの知らせに、俺は怒鳴るしかなかった。
俺はブライアン・ブロリーン(25)
リリーシアの兄だ。
現在はサンブラノ王国の隣の国、オンディーヌ王国の植物研究所に短期で所属している。
ブロリーン男爵領で自生しているコルダータ草という薬草の研究の為だ。
繁殖力が高くて、根こそぎ駆除してもいつの間にか育っている雑草だ。しかも、触ると独特の悪臭を放ち、農家にとって厄介者だった。
ただ、ニワトリや山羊など、家畜達が好んで食べていた。更に、馬番達が馬の調子が悪いときにコルダータ草を食べさせていたのを見て、何か領地の特産品になればと研究所に依頼したのがきっかけだった。
調べると、効能が豊富にあることが判明した。今はより詳しく効能の調査をしている。
乾燥させてお茶にしてみたり、アルコールに漬けて虫除け薬にしてみたり、女性化粧品も開発中だ。
開発関係は妻のマディヤ(23)に任せている。
「ブライアン……」
手紙を持ってきてくれたマディヤが困惑した顔で呼んできた。
「何かあったの?」
「……リリーシアが浮気を理由に離婚されるかもしれない」
「え?!リリーちゃんが?!そんな馬鹿な……」
リリーシアとマディヤは、本当の姉妹のように仲が良い。リリーシアの浮気と聞いて信じられないと驚いている。
俺だって信じられない。
「伯爵家に潜り込ませていた部下から連絡だ。伯爵が産まれた子との親子鑑定を秘密裏に行っているそうだ。伯爵はずいぶん前からリリーシアの浮気を疑っていたらしい。黒髪の赤子が産まれたことで確信し、浮気の証拠として鑑定を手配していると報告があった」
リリーシアが結婚する前に、テイラー(50)と言う掃除婦を潜り込ませていた。
スパイをしろとか、そんな命令ではなく、ただ、リリーシアが伯爵家で幸せに暮らしている事を確認する為に潜り込ませた女性だった。
リリーシアとエドワードが婚約したとき、エドワードの母親イザベラ・ローゼンタール前伯爵夫人が、二人の結婚を反対していたので、心配だったのだ。
エドワードにも、俺が前伯爵夫人の事を心配していると伝えていた。
彼は――
『義兄上、心配には及びません。母は領地で休養することになっています。婚約当初は反対してましたが、今は口出ししてきません。それに、何かあれば俺がリリーシアを守ります。安心して下さい』
――そう言って笑っていた。
それなのに……。
俺は拳を握り込んだ。
そんな手を、マディヤはそっと両手で包み、自身の胸に押しあてた。
「迎えに行きましょう」
彼女はまっすぐ俺を見た。
「リリーちゃんが浮気なんて、不義理な事をするはずはないわ。何かの間違いか、誰かにハメられたんだわ」
彼女の言葉に胸が熱くなる。
不甲斐ない自分が情けない。
感傷に浸っている暇はない。
「所長に話してくる。マディヤは急いで荷造りを頼む」
「わかったわ。あと、私の実家にも連絡を入れておくわ。いったい何が起こっているのか調べないと。ブライアン、部下からの手紙、私も読んで良いかしら?」
「もちろん」
マディヤの実家は大きくはないが、名の知れた商会だ。
情報を集めるのも得意としてる。
マディヤも情報処理能力が高く、必要な情報を取りまとめるのが上手い。リリーシアの現状を打開する策が見つかればいいのだが……。
とにかく、王都で何が起こっているのか、把握する必要がある。
「……オーウェン・シャンドリー?」
部屋を出るとき、マディヤの呟きが聞こえたが、俺は祖国に帰る許可を研究所の所長に申請するため、そのまま走り出した。
◇◇◇
所長に事情を話すと、すぐに休暇申請を許可された。
マディヤのいる自分の部屋に戻ると、彼女は荷造りそっちのけで、手紙を見ていた。
「あっ、早かったのね」
「所長に事情を話したら、すぐに休暇許可がおりたんだ。マディヤは何を?」
「気になることがあって、ちょっと頭を整理していたところ」
「気になること?」
「手紙には、伯爵が出産前からリリーちゃんの浮気を疑っていたそうじゃない?」
「あぁ、そうだな」
「何で浮気の疑惑が出たときに、伯爵はリリーちゃんに詰め寄らなかったのかしら?私なら、すぐに問いただしてしまうわ」
「確かに……」
そう言われると、おかしなことだ。
伯爵が離縁を望んでいたのなら、子供が産まれる前に行動していてもいいはずだ。
子供が産まれるまで待っていた?
何故?
「それに、いつの段階で浮気相手が護衛騎士のオーウェン・シャンドリーだと判明したのかが気になるわ。この手紙にはリリーちゃんの出産直後に彼を捕まえて、牢屋で拷問していると書いてあるわ。と言うことは、産まれる前からオーウェン・シャンドリーが浮気相手だと調べがついていたってことよね」
「そういうことになるな……。ん?」
何か引っ掛かるぞ。
「何故、オーウェン・シャンドリーだったのかしら?彼、黒髪でしょ?お腹の子の父親に仕立て上げようとするなら、銀髪の相手を探すのが妥当じゃない?」
「そうだ。そこがおかしいんだ。おばあ様が黒髪だったから、黒髪の赤子が産まれる可能性はあるが、確率としては低いはずだ。むしろ金髪か銀髪の相手を準備するはずだ。それなのに、黒髪のオーウェン・シャンドリーを選んだ。そして、黒髪の赤子が産まれた」
「怪しいわね」
「あぁ。調べる必要がある」
その後、二人で荷造りしていると、父上から緊急魔法メッセージが届いた。費用が高額なわりに短い文字しか送れないが、即座に届く連絡手段の一つだ。
『リリー、カケコミキョウカイ。ミハリキケン。ウゴケナイ。テガミダメ』
「これは……」
「リリーシアは伯爵家を追い出されて、王都の外れにある教会に身を寄せているようだな。父上も見張りがいて動けない。連絡手段の手紙は使えないようだ」
「このまま帰るのは得策じゃないわね」
「……」
このまま馬鹿正直に帰れば、きっと俺達にも見張りを付けられ、調査の妨害をされるだろう。
マディヤの実家に調査をお願いするしか方法がない。しかし、俺達が考えるよりも危険な状況なのかもしれない。下手をすれば商会に被害が及ぶ可能性もある。
友人に助けを……いや、家同士のいざこざに他家が介入するのは良くない。現状はリリーシアが不利だから、こちらの足をすくわれる可能性がある。
こちらの国で人を雇って、サンブラノ王国に送り込むか?いや、外国人がウロウロしていては目立ってしまう。スパイのプロを頼むにも、この国でそこまでのツテはない。
どうすれば……。
「ブライアン」
また握りしめていた手を、マディヤの手が優しく包んだ。
「リリーちゃんの無実の証拠は、ハーバイン商会の名にかけて見つけるわ」
「ダメだ。商会に危険が――」
「大丈夫」
マディヤの力強い声に、言葉を飲み込んだ。
「父さんも、兄さんもそんな柔じゃない。商人にとって情報集めは生命線よ。貴族とは違う情報網だってある。それに、情報戦で危ない目に合うことはよくある話。対処法も抜け道も心得ているわ。だから、安心して任せて」
マディヤの真っ直ぐな瞳を見て
「よろしく頼む」
と、頭を下げた。
持つべきものは、一緒に戦ってくれる、愛しい妻だな。
早馬で届いた部下からの知らせに、俺は怒鳴るしかなかった。
俺はブライアン・ブロリーン(25)
リリーシアの兄だ。
現在はサンブラノ王国の隣の国、オンディーヌ王国の植物研究所に短期で所属している。
ブロリーン男爵領で自生しているコルダータ草という薬草の研究の為だ。
繁殖力が高くて、根こそぎ駆除してもいつの間にか育っている雑草だ。しかも、触ると独特の悪臭を放ち、農家にとって厄介者だった。
ただ、ニワトリや山羊など、家畜達が好んで食べていた。更に、馬番達が馬の調子が悪いときにコルダータ草を食べさせていたのを見て、何か領地の特産品になればと研究所に依頼したのがきっかけだった。
調べると、効能が豊富にあることが判明した。今はより詳しく効能の調査をしている。
乾燥させてお茶にしてみたり、アルコールに漬けて虫除け薬にしてみたり、女性化粧品も開発中だ。
開発関係は妻のマディヤ(23)に任せている。
「ブライアン……」
手紙を持ってきてくれたマディヤが困惑した顔で呼んできた。
「何かあったの?」
「……リリーシアが浮気を理由に離婚されるかもしれない」
「え?!リリーちゃんが?!そんな馬鹿な……」
リリーシアとマディヤは、本当の姉妹のように仲が良い。リリーシアの浮気と聞いて信じられないと驚いている。
俺だって信じられない。
「伯爵家に潜り込ませていた部下から連絡だ。伯爵が産まれた子との親子鑑定を秘密裏に行っているそうだ。伯爵はずいぶん前からリリーシアの浮気を疑っていたらしい。黒髪の赤子が産まれたことで確信し、浮気の証拠として鑑定を手配していると報告があった」
リリーシアが結婚する前に、テイラー(50)と言う掃除婦を潜り込ませていた。
スパイをしろとか、そんな命令ではなく、ただ、リリーシアが伯爵家で幸せに暮らしている事を確認する為に潜り込ませた女性だった。
リリーシアとエドワードが婚約したとき、エドワードの母親イザベラ・ローゼンタール前伯爵夫人が、二人の結婚を反対していたので、心配だったのだ。
エドワードにも、俺が前伯爵夫人の事を心配していると伝えていた。
彼は――
『義兄上、心配には及びません。母は領地で休養することになっています。婚約当初は反対してましたが、今は口出ししてきません。それに、何かあれば俺がリリーシアを守ります。安心して下さい』
――そう言って笑っていた。
それなのに……。
俺は拳を握り込んだ。
そんな手を、マディヤはそっと両手で包み、自身の胸に押しあてた。
「迎えに行きましょう」
彼女はまっすぐ俺を見た。
「リリーちゃんが浮気なんて、不義理な事をするはずはないわ。何かの間違いか、誰かにハメられたんだわ」
彼女の言葉に胸が熱くなる。
不甲斐ない自分が情けない。
感傷に浸っている暇はない。
「所長に話してくる。マディヤは急いで荷造りを頼む」
「わかったわ。あと、私の実家にも連絡を入れておくわ。いったい何が起こっているのか調べないと。ブライアン、部下からの手紙、私も読んで良いかしら?」
「もちろん」
マディヤの実家は大きくはないが、名の知れた商会だ。
情報を集めるのも得意としてる。
マディヤも情報処理能力が高く、必要な情報を取りまとめるのが上手い。リリーシアの現状を打開する策が見つかればいいのだが……。
とにかく、王都で何が起こっているのか、把握する必要がある。
「……オーウェン・シャンドリー?」
部屋を出るとき、マディヤの呟きが聞こえたが、俺は祖国に帰る許可を研究所の所長に申請するため、そのまま走り出した。
◇◇◇
所長に事情を話すと、すぐに休暇申請を許可された。
マディヤのいる自分の部屋に戻ると、彼女は荷造りそっちのけで、手紙を見ていた。
「あっ、早かったのね」
「所長に事情を話したら、すぐに休暇許可がおりたんだ。マディヤは何を?」
「気になることがあって、ちょっと頭を整理していたところ」
「気になること?」
「手紙には、伯爵が出産前からリリーちゃんの浮気を疑っていたそうじゃない?」
「あぁ、そうだな」
「何で浮気の疑惑が出たときに、伯爵はリリーちゃんに詰め寄らなかったのかしら?私なら、すぐに問いただしてしまうわ」
「確かに……」
そう言われると、おかしなことだ。
伯爵が離縁を望んでいたのなら、子供が産まれる前に行動していてもいいはずだ。
子供が産まれるまで待っていた?
何故?
「それに、いつの段階で浮気相手が護衛騎士のオーウェン・シャンドリーだと判明したのかが気になるわ。この手紙にはリリーちゃんの出産直後に彼を捕まえて、牢屋で拷問していると書いてあるわ。と言うことは、産まれる前からオーウェン・シャンドリーが浮気相手だと調べがついていたってことよね」
「そういうことになるな……。ん?」
何か引っ掛かるぞ。
「何故、オーウェン・シャンドリーだったのかしら?彼、黒髪でしょ?お腹の子の父親に仕立て上げようとするなら、銀髪の相手を探すのが妥当じゃない?」
「そうだ。そこがおかしいんだ。おばあ様が黒髪だったから、黒髪の赤子が産まれる可能性はあるが、確率としては低いはずだ。むしろ金髪か銀髪の相手を準備するはずだ。それなのに、黒髪のオーウェン・シャンドリーを選んだ。そして、黒髪の赤子が産まれた」
「怪しいわね」
「あぁ。調べる必要がある」
その後、二人で荷造りしていると、父上から緊急魔法メッセージが届いた。費用が高額なわりに短い文字しか送れないが、即座に届く連絡手段の一つだ。
『リリー、カケコミキョウカイ。ミハリキケン。ウゴケナイ。テガミダメ』
「これは……」
「リリーシアは伯爵家を追い出されて、王都の外れにある教会に身を寄せているようだな。父上も見張りがいて動けない。連絡手段の手紙は使えないようだ」
「このまま帰るのは得策じゃないわね」
「……」
このまま馬鹿正直に帰れば、きっと俺達にも見張りを付けられ、調査の妨害をされるだろう。
マディヤの実家に調査をお願いするしか方法がない。しかし、俺達が考えるよりも危険な状況なのかもしれない。下手をすれば商会に被害が及ぶ可能性もある。
友人に助けを……いや、家同士のいざこざに他家が介入するのは良くない。現状はリリーシアが不利だから、こちらの足をすくわれる可能性がある。
こちらの国で人を雇って、サンブラノ王国に送り込むか?いや、外国人がウロウロしていては目立ってしまう。スパイのプロを頼むにも、この国でそこまでのツテはない。
どうすれば……。
「ブライアン」
また握りしめていた手を、マディヤの手が優しく包んだ。
「リリーちゃんの無実の証拠は、ハーバイン商会の名にかけて見つけるわ」
「ダメだ。商会に危険が――」
「大丈夫」
マディヤの力強い声に、言葉を飲み込んだ。
「父さんも、兄さんもそんな柔じゃない。商人にとって情報集めは生命線よ。貴族とは違う情報網だってある。それに、情報戦で危ない目に合うことはよくある話。対処法も抜け道も心得ているわ。だから、安心して任せて」
マディヤの真っ直ぐな瞳を見て
「よろしく頼む」
と、頭を下げた。
持つべきものは、一緒に戦ってくれる、愛しい妻だな。
2,743
お気に入りに追加
5,521
あなたにおすすめの小説
酷い扱いを受けていたと気付いたので黙って家を出たら、家族が大変なことになったみたいです
柚木ゆず
恋愛
――わたしは、家族に尽くすために生まれてきた存在――。
子爵家の次女ベネディクトは幼い頃から家族にそう思い込まされていて、父と母と姉の幸せのために身を削る日々を送っていました。
ですがひょんなことからベネディクトは『思い込まれている』と気付き、こんな場所に居てはいけないとコッソリお屋敷を去りました。
それによって、ベネディクトは幸せな人生を歩み始めることになり――反対に3人は、不幸に満ちた人生を歩み始めることとなるのでした。
原因不明の病気で苦しむ婚約者を5年間必死に看病していたら、治った途端に捨てられてしまいました
柚木ゆず
恋愛
7月4日本編完結いたしました。後日、番外編の投稿を行わせていただく予定となっております。
突然、顔中にコブができてしまう――。そんな原因不明の異変に襲われた伯爵令息フロリアンは、婚約者マノンの懸命な治療と献身的な看病によって5年後快復しました。
ですがその直後に彼は侯爵令嬢であるエリア―ヌに気に入られ、あっさりとエリア―ヌと交際をすると決めてしまいます。
エリア―ヌはマノンよりも高い地位を持っていること。
長期間の懸命な看病によってマノンはやつれ、かつての美しさを失っていたこと。今はエリア―ヌの方が遥かに綺麗で、おまけに若いこと。
そんな理由でフロリアンは恩人を裏切り、更にはいくつもの暴言を吐いてマノンのもとを去ってしまったのでした。
そのためマノンは傷つき寝込んでしまい、反対にフロリアンは笑顔溢れる幸せな毎日が始まりました。
ですが――。
やがてそんな二人の日常は、それぞれ一変することとなるのでした――。
婚約者様。現在社交界で広まっている噂について、大事なお話があります
柚木ゆず
恋愛
婚約者様へ。
昨夜参加したリーベニア侯爵家主催の夜会で、私に関するとある噂が広まりつつあると知りました。
そちらについて、とても大事なお話がありますので――。これから伺いますね?
幼馴染と婚約者を裏切った2人の末路
柚木ゆず
恋愛
「こういうことなの、メリッサ。だからね、アドン様との関係を解消してもらいたいの」
「今の俺にとって1番は、エステェ。2番目を心から愛することなんてできるはずがなくて、そんな状況は君にとってもマイナスしか生まない。そうだろう?」
大事な話がある。そう言われて幼馴染が暮らすファレナルース伯爵邸を訪れたら、幼馴染エステェの隣にはわたくしの婚約者がいました。
どうやら二人はわたくしが紹介をした際に共に一目惚れをして、内緒で交際をして昨日恋人になっていて――。そのままだと婚約できないから、『別れて』と言っているみたいですわ。
……そう。そうなのね。分かったわ。
わたくし達が結んでいる婚約は、すぐに白紙にしますわ。
でもね、エステェ、アドン様。これで幸せになれると貴方達は喜んでいるけど、そうはならないと思うわ。
だって平然と幼馴染と婚約者を裏切るような人達は、いずれまた――
お父様お母様、お久しぶりです。あの時わたしを捨ててくださりありがとうございます
柚木ゆず
恋愛
ヤニックお父様、ジネットお母様。お久しぶりです。
わたしはアヴァザール伯爵家の長女エマとして生まれ、6歳のころ貴方がたによって隣国に捨てられてしまいましたよね?
当時のわたしにとってお二人は大事な家族で、だからとても辛かった。寂しくて悲しくて、捨てられたわたしは絶望のどん底に落ちていました。
でも。
今は、捨てられてよかったと思っています。
だって、その出来事によってわたしは――。大切な人達と出会い、大好きな人と出逢うことができたのですから。
10年前にわたしを陥れた元家族が、わたしだと気付かずに泣き付いてきました
柚木ゆず
恋愛
今から10年前――わたしが12歳の頃、子爵令嬢のルナだった頃のことです。わたしは双子の姉イヴェットが犯した罪を背負わされ、ルナの名を捨てて隣国にある農園で第二の人生を送ることになりました。
わたしを迎え入れてくれた農園の人達は、優しく温かい人ばかり。わたしは新しい家族や大切な人に囲まれて10年間を楽しく過ごし、現在は副園長として充実した毎日を送っていました。
ですが――。そんなわたしの前に突然、かつて父、母、双子の姉だった人が現れたのです。
「「「お願い致します! どうか、こちらで働かせてください!」」」
元家族たちはわたしに気付いておらず、やけに必死になって『住み込みで働かせて欲しい』と言っています。
貴族だった人達が護衛もつけずに、隣の国でこんなことをしているだなんて。
なにがあったのでしょうか……?
困った時だけ泣き付いてくるのは、やめていただけますか?
柚木ゆず
恋愛
「アン! お前の礼儀がなっていないから夜会で恥をかいたじゃないか! そんな女となんて一緒に居られない! この婚約は破棄する!!」
「アン君、婚約の際にわが家が借りた金は全て返す。速やかにこの屋敷から出ていってくれ」
新興貴族である我がフェリルーザ男爵家は『地位』を求め、多額の借金を抱えるハーニエル伯爵家は『財』を目当てとして、各当主の命により長女であるわたしアンと嫡男であるイブライム様は婚約を交わす。そうしてわたしは両家当主の打算により、婚約後すぐハーニエル邸で暮らすようになりました。
わたしの待遇を良くしていれば、フェリルーザ家は喜んでより好条件で支援をしてくれるかもしれない。
こんな理由でわたしは手厚く迎えられましたが、そんな日常はハーニエル家が投資の成功により大金を手にしたことで一変してしまいます。
イブライム様は男爵令嬢如きと婚約したくはなく、当主様は格下貴族と深い関係を築きたくはなかった。それらの理由で様々な暴言や冷遇を受けることとなり、最終的には根も葉もない非を理由として婚約を破棄されることになってしまったのでした。
ですが――。
やがて不意に、とても不思議なことが起きるのでした。
「アンっ、今まで酷いことをしてごめんっ。心から反省しています! これからは仲良く一緒に暮らしていこうねっ!」
わたしをゴミのように扱っていたイブライム様が、涙ながらに謝罪をしてきたのです。
…………あのような真似を平然する人が、突然反省をするはずはありません。
なにか、裏がありますね。
わたしを追い出した人達が、今更何の御用ですか?
柚木ゆず
恋愛
ランファーズ子爵令嬢、エミリー。彼女は我が儘な妹マリオンとマリオンを溺愛する両親の理不尽な怒りを買い、お屋敷から追い出されてしまいました。
自分の思い通りになってマリオンは喜び、両親はそんなマリオンを見て嬉しそうにしていましたが――。
マリオン達は、まだ知りません。
それから僅か1か月後に、エミリーの追放を激しく後悔する羽目になることを。お屋敷に戻って来て欲しいと、エミリーに懇願しないといけなくなってしまうことを――。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる