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13話 真心をあなたに(後編)
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教会の紋章が刻印された紙には
『大司教の名において、異母兄妹の婚姻を認める』
と印字されていた。
「の、ノーランド様!?こ、これって!」
「大司教様に直談判してきた」
「えぇ!!」
爽やかな顔をしながら、さらって言いのけるが、大変な事だ。
まず、大司教様に会うにはものすごい手続きやら、お清めやらを受けて、祈りの合間にお会いできるだけだ。
とてもご多忙で、個人で会うなど考えもつかない。
しかも教会で禁忌とされている『近親者との婚姻を許す』など、無謀とも思える訴えに、許可をもらうなど。
「何故兄妹で結婚出来ないか調べたんだ。そこでこの国の古い文献を見つけたよ。王国設立時は、王族の血を汚さないために、近親の家族と婚姻していたそうだ」
「ええ?!」
「しかし、何代か続くと子供が産まれなくなったり、極端に体が弱い子が産まれるようになった為、近親者との婚姻を禁止したそうだ。それが『近い血縁同士は結婚してはいけない』という教えの本質だったんだ」
教会の書類と、侯爵様の調査報告書を手に、私の思考は停止寸前だ。
状況についていけない…。
兄妹かどうかは明確に判断が出来ない。確率的にお父様の娘である事が高い。それなら、ノーランド様と何の障害もなく結婚できる。
さらに、神の代弁者である大司教様が『異母兄妹の婚姻を認める』と書面で宣言されている。たとえ兄妹でも、異母兄妹なら結婚できる。
ノーランド様と結婚できる?
「シャティー。戸惑うのはわかるよ。知らなかった事が多すぎて、何が何だかわからないよね」
思考停止寸前の私の手をノーランド様が握ってくれた。
大きくて暖かい手。
この手を突き放さなくていいの?
この温もりを感じてもいいの?
「兄妹だと知っても、気持ちは変わらなかった。君が手に入るなら、世界だろうが神だろうが喜んで戦うよ。そして、君を諦めるくらいなら、一緒に死んで、全てを俺のものにするよ」
彼と目が合う。
「君が好きだ。愛してる」
涙が頬を伝っていく。
5年前、頑なに彼を拒み傷つけた。
彼に何も相談せず、理不尽に突き放した私なのに…。
戻れるの?
戻って良いの?
「わっ、私…」
戻りたい。
彼が許してくれるなら、その腕の中に戻りたい。
頬を伝う涙を優しく手で拭ってくれる彼の手に、自分の手を重ねた。
「私も好きです。ずっとお慕いしておりました。五年間離れていても、貴方を思い出さない日はありませんでした。貴方の手が好きです。剣ダコが潰れても、ずっと鍛練されていた事を知っています」
彼の目が少し見開かれた。
驚いているようだ。
「貴方の匂いが好きです。干し草の匂いも、お日様の匂いのように感じていました」
女性から抱きつくのは、ふしだらな行為と言われているが、どうしても彼の胸の中に入りたい気持ちになった。
「この腕の中に居るのが、一番好きです。とても安心します」
少し苦しいと感じてしまったが、彼は腕の力を少し強めて、しっかりと抱き締めてくれた。
それがとてもうれしい…。
あの日。
お母様から二人は兄妹だと告げられて、彼の腕から逃げ出した。
離したくない。離れなくては。
愛してる。でも言えない。
彼を思い出さない日はなかった。
いつだって、この腕の中に帰りたいと心が叫んでいたわ。
やっと、帰ることができた…。
愛しています。
私を捨てないでくれてありがとう。
諦めないでくれてありがとう。
これからの生涯は全て貴方に捧げます。
それがとても嬉しい。
『大司教の名において、異母兄妹の婚姻を認める』
と印字されていた。
「の、ノーランド様!?こ、これって!」
「大司教様に直談判してきた」
「えぇ!!」
爽やかな顔をしながら、さらって言いのけるが、大変な事だ。
まず、大司教様に会うにはものすごい手続きやら、お清めやらを受けて、祈りの合間にお会いできるだけだ。
とてもご多忙で、個人で会うなど考えもつかない。
しかも教会で禁忌とされている『近親者との婚姻を許す』など、無謀とも思える訴えに、許可をもらうなど。
「何故兄妹で結婚出来ないか調べたんだ。そこでこの国の古い文献を見つけたよ。王国設立時は、王族の血を汚さないために、近親の家族と婚姻していたそうだ」
「ええ?!」
「しかし、何代か続くと子供が産まれなくなったり、極端に体が弱い子が産まれるようになった為、近親者との婚姻を禁止したそうだ。それが『近い血縁同士は結婚してはいけない』という教えの本質だったんだ」
教会の書類と、侯爵様の調査報告書を手に、私の思考は停止寸前だ。
状況についていけない…。
兄妹かどうかは明確に判断が出来ない。確率的にお父様の娘である事が高い。それなら、ノーランド様と何の障害もなく結婚できる。
さらに、神の代弁者である大司教様が『異母兄妹の婚姻を認める』と書面で宣言されている。たとえ兄妹でも、異母兄妹なら結婚できる。
ノーランド様と結婚できる?
「シャティー。戸惑うのはわかるよ。知らなかった事が多すぎて、何が何だかわからないよね」
思考停止寸前の私の手をノーランド様が握ってくれた。
大きくて暖かい手。
この手を突き放さなくていいの?
この温もりを感じてもいいの?
「兄妹だと知っても、気持ちは変わらなかった。君が手に入るなら、世界だろうが神だろうが喜んで戦うよ。そして、君を諦めるくらいなら、一緒に死んで、全てを俺のものにするよ」
彼と目が合う。
「君が好きだ。愛してる」
涙が頬を伝っていく。
5年前、頑なに彼を拒み傷つけた。
彼に何も相談せず、理不尽に突き放した私なのに…。
戻れるの?
戻って良いの?
「わっ、私…」
戻りたい。
彼が許してくれるなら、その腕の中に戻りたい。
頬を伝う涙を優しく手で拭ってくれる彼の手に、自分の手を重ねた。
「私も好きです。ずっとお慕いしておりました。五年間離れていても、貴方を思い出さない日はありませんでした。貴方の手が好きです。剣ダコが潰れても、ずっと鍛練されていた事を知っています」
彼の目が少し見開かれた。
驚いているようだ。
「貴方の匂いが好きです。干し草の匂いも、お日様の匂いのように感じていました」
女性から抱きつくのは、ふしだらな行為と言われているが、どうしても彼の胸の中に入りたい気持ちになった。
「この腕の中に居るのが、一番好きです。とても安心します」
少し苦しいと感じてしまったが、彼は腕の力を少し強めて、しっかりと抱き締めてくれた。
それがとてもうれしい…。
あの日。
お母様から二人は兄妹だと告げられて、彼の腕から逃げ出した。
離したくない。離れなくては。
愛してる。でも言えない。
彼を思い出さない日はなかった。
いつだって、この腕の中に帰りたいと心が叫んでいたわ。
やっと、帰ることができた…。
愛しています。
私を捨てないでくれてありがとう。
諦めないでくれてありがとう。
これからの生涯は全て貴方に捧げます。
それがとても嬉しい。
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