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最終話 あなたといつまでも
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~ ノーランド視点 ~
シャティーは泣き疲れてしまったのか、抱き締めていたら腕の中から寝息が聞こえてきた。
少し驚いたが、いろいろ張り詰めていた気持ちが緩んでしまったのだろう。
「おやすみ、シャティー」
彼女をベットに移動させて、寝顔を堪能したのち部屋を出た。
扉を閉めて、また扉にもたれ掛かった。
危なかった。
シャティーが寝落ちしなかったら、そのままーーー。
片腕で目元を隠す。
彼女の柔らかい感触がまだ全身に残っている。シャティーが欲しくて堪らない。
月明かりに照らされながら、涙に濡れる瞳も、震える肩も愛しくて堪らない。今すぐ自分のものにしたかった。
しかし、自分の欲情に任せて彼女を貪るなど騎士道に反するし、こんな幽閉された場所で彼女を奪う事は疎われた。
「ふぅ~…」
呼吸を整え、一歩踏み出そうとしたときーーー。
「落ち着いた?」
またも、気配を察知出来なかった。
階段上で、メリダ王女はあの日と同じように座りながらこちらを見ていた。
「またお話しましょう」
無害そうに見える笑顔だが、底知れない恐ろしさを感じる。
戦場の英雄と称される俺でも、話しかけられるまで気付かないなんて、8歳の少女の成せる事ではない。
着いて行くか再度迷ったが、敵意らしいものは感じられないので、一先ず着いて行くことにした。
×××
あの日と同じように、ベッド脇の椅子を勧められ、そこに腰を下ろした。
「式は一年後の南の孤島で挙げた方が、いろいろな雑音にシャティーがさらされないから安心よ」
無邪気な顔で話すから、なんとも言えない気持ちになる。
『先見の姫』の力なのか?
「貴女の目的は何だ」
「え?」
「その力があれば、旧カルヴァン王国は滅亡せずに済んだはずだ。しかし貴女は何もしなかった。何故だ?」
未来がわかるなら、あの戦争も回避出来たはずだ。それこそ世界を手に入れることだってできる。なのに、彼女は大人しく幽閉されている。
その目的は何なのか…。
「目的…。目的か…。最終的に自由になりたいって事かしら?」
彼女の話では、戦争回避の為の努力は出来る範囲で頑張ったが、第一王子が想像以上にバカすぎて、回避出来なかったそうだ。
また、彼女はカルヴァン国王が酔って手をつけたメイドの娘で、王族の血が入っているが、立場は無いに等しかったそうだ。
『先見の姫』であることを明かせば、一生幽閉されて、良いように使い潰される未来が見えていたので、それはしなかったらしい。
シャティーを専属侍女に抜擢することで、この戦争で生き残るルートを見つけることが出来たそうだ。
また、俺とシャティーが結婚することが出来れば、自分はシャティーと家族になって平和な人生を歩む事が出来ると見たらしい。
「世界を手に入れる?何の意味があるのかしら。面倒なだけよ。大きな城で素敵なドレスや宝石に囲まれて、世界中の男性にかしずかれて、毎日パーティーをする?そんなモノ要らないわ。愛する人と自分の足で歩いて行きたい。共に苦労して、共に喜びを分かち合いたい。私が望むものは、そんな普通の幸せよ」
清々しい顔で彼女は言い切った。
8歳の少女の考えとは到底思えない思考だ。
だが、嫌いじゃない。
「私、結婚式には出たいんだけど、どうにかならないかしら?お義父様」
「…まだお義父様じゃない」
「フフフ」
8歳なのに油断ならない娘だ。
はぁ~。面倒くさい…。
×××
一年後。
メリダ王女の予言通り、南の孤島にある教会で挙式を行う事になった。
本来であれば王都の大聖堂で行うべきだが、大司教の引退やら、聖職者の粛正やら、汚職に関わった貴族の粛正やらで王都はかなりピリピリしている。
また、俺を結婚相手に狙っていた令嬢からの嫉妬の視線もあり、のんびりできるこの教会になった。
この孤島はリックベルト殿下の納める領地で、王族の避暑地として整備されているので、とにかく美しい。
「ノーランド様」
シャティーの美しさには敵わないがな!
控え室で窓の外を眺めていた俺に、彼女はゆっくりと近づいて来た。
純白のドレスを纏う彼女はまるで女神のように美しい。
「キレイだよ。シャティー」
「ノーランド様も素敵です」
可愛すぎるよ…。
はにかんだ笑顔に心が鷲掴みにされる。誰にも見せたくない…。
思わず抱き締めて腕の中に隠してしまった。
「誰にも見せたくない…」
「フフフ、ダメですよ。もうすぐ時間ですから」
「キレイすぎるよ。誰かに拐われないか心配」
「大丈夫ですよ。例え誰かに連れ去られても、必ずノーランド様の元に帰ってきますわ。私の居場所はこの腕の中ですから」
彼女の手が背中に回って、俺を優しい力で抱き締めてくれた。
あぁ、愛しいシャティー。
君をこの腕で抱き締めることが出来て神に感謝しているよ。
ずいぶん遠回りをしたが、やっと君を俺のものに出来るんだ。
それがとても嬉しい。
「愛してるよ、シャティー」
「私も愛しております」
《fin》
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
あとがき
最後まで読んでいただきありがとうございました。
初心者のフワフワ設定で、見苦しい部分もあったと思いますが、最後までお付き合い頂いた事に感謝いたします。
余談ですが、メリダ王女はノーランドの養女となりました。
そして、シャティアナとノーランドはたくさんの子宝に恵まれ、長男とメリダ王女は恋仲になり結婚しました。
まぁ、それはまた別の物語でお会いできれば嬉しいです。
続編として
『【R18】愛しい人へ~愛しているから怖がらないで』
を投稿致しました。
全話【R18】なのでご注意下さい。
次回作も読んで頂けたら幸いです。
シャティーは泣き疲れてしまったのか、抱き締めていたら腕の中から寝息が聞こえてきた。
少し驚いたが、いろいろ張り詰めていた気持ちが緩んでしまったのだろう。
「おやすみ、シャティー」
彼女をベットに移動させて、寝顔を堪能したのち部屋を出た。
扉を閉めて、また扉にもたれ掛かった。
危なかった。
シャティーが寝落ちしなかったら、そのままーーー。
片腕で目元を隠す。
彼女の柔らかい感触がまだ全身に残っている。シャティーが欲しくて堪らない。
月明かりに照らされながら、涙に濡れる瞳も、震える肩も愛しくて堪らない。今すぐ自分のものにしたかった。
しかし、自分の欲情に任せて彼女を貪るなど騎士道に反するし、こんな幽閉された場所で彼女を奪う事は疎われた。
「ふぅ~…」
呼吸を整え、一歩踏み出そうとしたときーーー。
「落ち着いた?」
またも、気配を察知出来なかった。
階段上で、メリダ王女はあの日と同じように座りながらこちらを見ていた。
「またお話しましょう」
無害そうに見える笑顔だが、底知れない恐ろしさを感じる。
戦場の英雄と称される俺でも、話しかけられるまで気付かないなんて、8歳の少女の成せる事ではない。
着いて行くか再度迷ったが、敵意らしいものは感じられないので、一先ず着いて行くことにした。
×××
あの日と同じように、ベッド脇の椅子を勧められ、そこに腰を下ろした。
「式は一年後の南の孤島で挙げた方が、いろいろな雑音にシャティーがさらされないから安心よ」
無邪気な顔で話すから、なんとも言えない気持ちになる。
『先見の姫』の力なのか?
「貴女の目的は何だ」
「え?」
「その力があれば、旧カルヴァン王国は滅亡せずに済んだはずだ。しかし貴女は何もしなかった。何故だ?」
未来がわかるなら、あの戦争も回避出来たはずだ。それこそ世界を手に入れることだってできる。なのに、彼女は大人しく幽閉されている。
その目的は何なのか…。
「目的…。目的か…。最終的に自由になりたいって事かしら?」
彼女の話では、戦争回避の為の努力は出来る範囲で頑張ったが、第一王子が想像以上にバカすぎて、回避出来なかったそうだ。
また、彼女はカルヴァン国王が酔って手をつけたメイドの娘で、王族の血が入っているが、立場は無いに等しかったそうだ。
『先見の姫』であることを明かせば、一生幽閉されて、良いように使い潰される未来が見えていたので、それはしなかったらしい。
シャティーを専属侍女に抜擢することで、この戦争で生き残るルートを見つけることが出来たそうだ。
また、俺とシャティーが結婚することが出来れば、自分はシャティーと家族になって平和な人生を歩む事が出来ると見たらしい。
「世界を手に入れる?何の意味があるのかしら。面倒なだけよ。大きな城で素敵なドレスや宝石に囲まれて、世界中の男性にかしずかれて、毎日パーティーをする?そんなモノ要らないわ。愛する人と自分の足で歩いて行きたい。共に苦労して、共に喜びを分かち合いたい。私が望むものは、そんな普通の幸せよ」
清々しい顔で彼女は言い切った。
8歳の少女の考えとは到底思えない思考だ。
だが、嫌いじゃない。
「私、結婚式には出たいんだけど、どうにかならないかしら?お義父様」
「…まだお義父様じゃない」
「フフフ」
8歳なのに油断ならない娘だ。
はぁ~。面倒くさい…。
×××
一年後。
メリダ王女の予言通り、南の孤島にある教会で挙式を行う事になった。
本来であれば王都の大聖堂で行うべきだが、大司教の引退やら、聖職者の粛正やら、汚職に関わった貴族の粛正やらで王都はかなりピリピリしている。
また、俺を結婚相手に狙っていた令嬢からの嫉妬の視線もあり、のんびりできるこの教会になった。
この孤島はリックベルト殿下の納める領地で、王族の避暑地として整備されているので、とにかく美しい。
「ノーランド様」
シャティーの美しさには敵わないがな!
控え室で窓の外を眺めていた俺に、彼女はゆっくりと近づいて来た。
純白のドレスを纏う彼女はまるで女神のように美しい。
「キレイだよ。シャティー」
「ノーランド様も素敵です」
可愛すぎるよ…。
はにかんだ笑顔に心が鷲掴みにされる。誰にも見せたくない…。
思わず抱き締めて腕の中に隠してしまった。
「誰にも見せたくない…」
「フフフ、ダメですよ。もうすぐ時間ですから」
「キレイすぎるよ。誰かに拐われないか心配」
「大丈夫ですよ。例え誰かに連れ去られても、必ずノーランド様の元に帰ってきますわ。私の居場所はこの腕の中ですから」
彼女の手が背中に回って、俺を優しい力で抱き締めてくれた。
あぁ、愛しいシャティー。
君をこの腕で抱き締めることが出来て神に感謝しているよ。
ずいぶん遠回りをしたが、やっと君を俺のものに出来るんだ。
それがとても嬉しい。
「愛してるよ、シャティー」
「私も愛しております」
《fin》
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
あとがき
最後まで読んでいただきありがとうございました。
初心者のフワフワ設定で、見苦しい部分もあったと思いますが、最後までお付き合い頂いた事に感謝いたします。
余談ですが、メリダ王女はノーランドの養女となりました。
そして、シャティアナとノーランドはたくさんの子宝に恵まれ、長男とメリダ王女は恋仲になり結婚しました。
まぁ、それはまた別の物語でお会いできれば嬉しいです。
続編として
『【R18】愛しい人へ~愛しているから怖がらないで』
を投稿致しました。
全話【R18】なのでご注意下さい。
次回作も読んで頂けたら幸いです。
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