愛しい人へ~愛しているから私を捨てて下さい~

ともどーも

文字の大きさ
上 下
15 / 15

最終話 あなたといつまでも

しおりを挟む
~ ノーランド視点 ~

 シャティーは泣き疲れてしまったのか、抱き締めていたら腕の中から寝息が聞こえてきた。
 少し驚いたが、いろいろ張り詰めていた気持ちが緩んでしまったのだろう。
「おやすみ、シャティー」
 彼女をベットに移動させて、寝顔を堪能したのち部屋を出た。

 扉を閉めて、また扉にもたれ掛かった。

 危なかった。
 シャティーが寝落ちしなかったら、そのままーーー。

 片腕で目元を隠す。

 彼女の柔らかい感触がまだ全身に残っている。シャティーが欲しくて堪らない。

 月明かりに照らされながら、涙に濡れる瞳も、震える肩も愛しくて堪らない。今すぐ自分のものにしたかった。
 しかし、自分の欲情に任せて彼女を貪るなど騎士道に反するし、こんな幽閉された場所で彼女を奪う事は疎われた。

「ふぅ~…」
 呼吸を整え、一歩踏み出そうとしたときーーー。
「落ち着いた?」
 またも、気配を察知出来なかった。
 階段上で、メリダ王女はあの日と同じように座りながらこちらを見ていた。
「またお話しましょう」
 無害そうに見える笑顔だが、底知れない恐ろしさを感じる。
 戦場の英雄と称される俺でも、話しかけられるまで気付かないなんて、8歳の少女の成せる事ではない。
 着いて行くか再度迷ったが、敵意らしいものは感じられないので、一先ず着いて行くことにした。


×××


 あの日と同じように、ベッド脇の椅子を勧められ、そこに腰を下ろした。
「式は一年後の南の孤島で挙げた方が、いろいろな雑音にシャティーがさらされないから安心よ」
 無邪気な顔で話すから、なんとも言えない気持ちになる。
 『先見の姫』の力なのか?
「貴女の目的は何だ」
「え?」
「その力があれば、旧カルヴァン王国は滅亡せずに済んだはずだ。しかし貴女は何もしなかった。何故だ?」

 未来がわかるなら、あの戦争も回避出来たはずだ。それこそ世界を手に入れることだってできる。なのに、彼女は大人しく幽閉されている。
 その目的は何なのか…。

「目的…。目的か…。最終的に自由になりたいって事かしら?」

 彼女の話では、戦争回避の為の努力は出来る範囲で頑張ったが、第一王子が想像以上にバカすぎて、回避出来なかったそうだ。
 また、彼女はカルヴァン国王が酔って手をつけたメイドの娘で、王族の血が入っているが、立場は無いに等しかったそうだ。
 『先見の姫』であることを明かせば、一生幽閉されて、良いように使い潰される未来が見えていたので、それはしなかったらしい。

 シャティーを専属侍女に抜擢することで、この戦争で生き残るルートを見つけることが出来たそうだ。
 また、俺とシャティーが結婚することが出来れば、自分はシャティーと家族になって平和な人生を歩む事が出来ると見たらしい。

「世界を手に入れる?何の意味があるのかしら。面倒なだけよ。大きな城で素敵なドレスや宝石に囲まれて、世界中の男性にかしずかれて、毎日パーティーをする?そんなモノ要らないわ。愛する人と自分の足で歩いて行きたい。共に苦労して、共に喜びを分かち合いたい。私が望むものは、そんな普通の幸せよ」

 清々しい顔で彼女は言い切った。
 8歳の少女の考えとは到底思えない思考だ。
 だが、嫌いじゃない。

「私、結婚式には出たいんだけど、どうにかならないかしら?お義父様」
「…まだお義父様じゃない」
「フフフ」
 8歳なのに油断ならない娘だ。
 はぁ~。面倒くさい…。


×××



 一年後。
 メリダ王女の予言通り、南の孤島にある教会で挙式を行う事になった。
 本来であれば王都の大聖堂で行うべきだが、大司教の引退やら、聖職者の粛正やら、汚職に関わった貴族の粛正やらで王都はかなりピリピリしている。
 また、俺を結婚相手に狙っていた令嬢からの嫉妬の視線もあり、のんびりできるこの教会になった。

 この孤島はリックベルト殿下の納める領地で、王族の避暑地として整備されているので、とにかく美しい。
 
「ノーランド様」
 シャティーの美しさには敵わないがな!
 控え室で窓の外を眺めていた俺に、彼女はゆっくりと近づいて来た。
 純白のドレスを纏う彼女はまるで女神のように美しい。
「キレイだよ。シャティー」
「ノーランド様も素敵です」
 可愛すぎるよ…。
 はにかんだ笑顔に心が鷲掴みにされる。誰にも見せたくない…。
 思わず抱き締めて腕の中に隠してしまった。
「誰にも見せたくない…」
「フフフ、ダメですよ。もうすぐ時間ですから」
「キレイすぎるよ。誰かに拐われないか心配」
「大丈夫ですよ。例え誰かに連れ去られても、必ずノーランド様の元に帰ってきますわ。私の居場所はこの腕の中ですから」
 彼女の手が背中に回って、俺を優しい力で抱き締めてくれた。

 あぁ、愛しいシャティー。
 君をこの腕で抱き締めることが出来て神に感謝しているよ。
 ずいぶん遠回りをしたが、やっと君を俺のものに出来るんだ。
 それがとても嬉しい。

「愛してるよ、シャティー」
「私も愛しております」
 
《fin》

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

あとがき

 最後まで読んでいただきありがとうございました。
 初心者のフワフワ設定で、見苦しい部分もあったと思いますが、最後までお付き合い頂いた事に感謝いたします。

 余談ですが、メリダ王女はノーランドの養女となりました。
 そして、シャティアナとノーランドはたくさんの子宝に恵まれ、長男とメリダ王女は恋仲になり結婚しました。
 まぁ、それはまた別の物語でお会いできれば嬉しいです。

 続編として
『【R18】愛しい人へ~愛しているから怖がらないで』
を投稿致しました。
 全話【R18】なのでご注意下さい。

 次回作も読んで頂けたら幸いです。
しおりを挟む

この作品は感想を受け付けておりません。

あなたにおすすめの小説

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

【完結】捨ててください

仲 奈華 (nakanaka)
恋愛
ずっと貴方の側にいた。 でも、あの人と再会してから貴方は私ではなく、あの人を見つめるようになった。 分かっている。 貴方は私の事を愛していない。 私は貴方の側にいるだけで良かったのに。 貴方が、あの人の側へ行きたいと悩んでいる事が私に伝わってくる。 もういいの。 ありがとう貴方。 もう私の事は、、、 捨ててください。 続編投稿しました。 初回完結6月25日 第2回目完結7月18日

寡黙な貴方は今も彼女を想う

MOMO-tank
恋愛
婚約者以外の女性に夢中になり、婚約者を蔑ろにしたうえ婚約破棄した。 ーーそんな過去を持つ私の旦那様は、今もなお後悔し続け、元婚約者を想っている。 シドニーは王宮で側妃付きの侍女として働く18歳の子爵令嬢。見た目が色っぽいシドニーは文官にしつこくされているところを眼光鋭い年上の騎士に助けられる。その男性とは辺境で騎士として12年、数々の武勲をあげ一代限りの男爵位を授かったクライブ・ノックスだった。二人はこの時を境に会えば挨拶を交わすようになり、いつしか婚約話が持ち上がり結婚する。 言葉少ないながらも彼の優しさに幸せを感じていたある日、クライブの元婚約者で現在は未亡人となった美しく儚げなステラ・コンウォール前伯爵夫人と夜会で再会する。 ※設定はゆるいです。 ※溺愛タグ追加しました。

【掌編集】今までお世話になりました旦那様もお元気で〜妻の残していった離婚受理証明書を握りしめイケメン公爵は涙と鼻水を垂らす

まほりろ
恋愛
新婚初夜に「君を愛してないし、これからも愛するつもりはない」と言ってしまった公爵。  彼は今まで、天才、美男子、完璧な貴公子、ポーカーフェイスが似合う氷の公爵などと言われもてはやされてきた。  しかし新婚初夜に暴言を吐いた女性が、初恋の人で、命の恩人で、伝説の聖女で、妖精の愛し子であったことを知り意気消沈している。  彼の手には元妻が置いていった「離婚受理証明書」が握られていた……。  他掌編七作品収録。 ※無断転載を禁止します。 ※朗読動画の無断配信も禁止します 「Copyright(C)2023-まほりろ/若松咲良」  某小説サイトに投稿した掌編八作品をこちらに転載しました。 【収録作品】 ①「今までお世話になりました旦那様もお元気で〜ポーカーフェイスの似合う天才貴公子と称された公爵は、妻の残していった離婚受理証明書を握りしめ涙と鼻水を垂らす」 ②「何をされてもやり返せない臆病な公爵令嬢は、王太子に竜の生贄にされ壊れる。能ある鷹と天才美少女は爪を隠す」 ③「運命的な出会いからの即日プロポーズ。婚約破棄された天才錬金術師は新しい恋に生きる!」 ④「4月1日10時30分喫茶店ルナ、婚約者は遅れてやってきた〜新聞は星座占いを見る為だけにある訳ではない」 ⑤「『お姉様はズルい!』が口癖の双子の弟が現世の婚約者! 前世では弟を立てる事を親に強要され馬鹿の振りをしていましたが、現世では奴とは他人なので天才として実力を充分に発揮したいと思います!」 ⑥「婚約破棄をしたいと彼は言った。契約書とおふだにご用心」 ⑦「伯爵家に半世紀仕えた老メイドは伯爵親子の罠にハマり無一文で追放される。老メイドを助けたのはポーカーフェイスの美女でした」 ⑧「お客様の中に褒め褒めの感想を書ける方はいらっしゃいませんか? 天才美文感想書きVS普通の少女がえんぴつで書いた感想!」

【完結】あなたから、言われるくらいなら。

たまこ
恋愛
 侯爵令嬢アマンダの婚約者ジェレミーは、三か月前編入してきた平民出身のクララとばかり逢瀬を重ねている。アマンダはいつ婚約破棄を言い渡されるのか、恐々していたが、ジェレミーから言われた言葉とは……。 2023.4.25 HOTランキング36位/24hランキング30位 ありがとうございました!

拝啓、許婚様。私は貴方のことが大嫌いでした

結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
【ある日僕の元に許婚から恋文ではなく、婚約破棄の手紙が届けられた】 僕には子供の頃から決められている許婚がいた。けれどお互い特に相手のことが好きと言うわけでもなく、月に2度の『デート』と言う名目の顔合わせをするだけの間柄だった。そんなある日僕の元に許婚から手紙が届いた。そこに記されていた内容は婚約破棄を告げる内容だった。あまりにも理不尽な内容に不服を抱いた僕は、逆に彼女を遣り込める計画を立てて許婚の元へ向かった――。 ※他サイトでも投稿中

さよなら 大好きな人

小夏 礼
恋愛
女神の娘かもしれない紫の瞳を持つアーリアは、第2王子の婚約者だった。 政略結婚だが、それでもアーリアは第2王子のことが好きだった。 彼にふさわしい女性になるために努力するほど。 しかし、アーリアのそんな気持ちは、 ある日、第2王子によって踏み躙られることになる…… ※本編は悲恋です。 ※裏話や番外編を読むと本編のイメージが変わりますので、悲恋のままが良い方はご注意ください。 ※本編2(+0.5)、裏話1、番外編2の計5(+0.5)話です。

【完結】愛していないと王子が言った

miniko
恋愛
王子の婚約者であるリリアナは、大好きな彼が「リリアナの事など愛していない」と言っているのを、偶然立ち聞きしてしまう。 「こんな気持ちになるならば、恋など知りたくはなかったのに・・・」 ショックを受けたリリアナは、王子と距離を置こうとするのだが、なかなか上手くいかず・・・。 ※合わない場合はそっ閉じお願いします。 ※感想欄、ネタバレ有りの振り分けをしていないので、本編未読の方は自己責任で閲覧お願いします。

処理中です...