愛しい人へ~愛しているから私を捨てて下さい~

ともどーも

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2話 再開

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 祖国を離れて5年がたった。

 私も20歳になり、現在は第三王女メリダ様の専属侍女を勤めている。
 メリダ様は8歳なのに、とても落ち着いていて、物腰が柔らかくて使用人達にも優しい。もちろん人前では適切な距離を持って対応しているが、二人っきりになると、まるで妹のように甘えてくるのが可愛くて仕方がない。
 ストレートに伸ばされたハニーピンクの御髪や、サファイアブルーを嵌め込んだような美しく大きな瞳は、天使や女神様の様に神々しい。

 今は勉学の間の休憩時間だ。
 メリダ様の好きなアップルティーで疲れを癒していただこうと、机に差し出した。
「ありがとう。うん、美味しい。そういえば、シャティーの祖国はどんな所なの?」
「そうですね…。とても緑豊な所もありますが、魔道具や車の生産も盛んな国ですね」
 祖国ヴィラン王国に居た頃は、お父様と侯爵様の共同事業が何なのか教えてもらえなかったが、最近になってようやく形になり、教えて貰うことが出来た。
 お父様達は『魔動車(まどうしゃ)』という馬を使わずに、魔法力を原動力にした乗り物を作っていたそうだ。

 お母様が亡くなり、自暴自棄になっていたお父様を侯爵様が支えて下さったそうだ。魔動車を立派な物にし、天国のお母様にまで、この偉業を伝わらせようと躍起になったと手紙に書いてあった。
 側で支えてあげられなかったのが心残りではあったが、お父様も元気に過ごしていると手紙には書いてあったので、一先ず心配はしないでいる。

「帰りたいとは思わないの?国に恋人が居るのでしょ?」
 城で働いていると、それなりにお付き合いの申し込みがある。他国に恋人が居ると言えば大抵の方は引き下がってくれるので、断りの常套句として使っている。

 婚約白紙された傷物令嬢でも、他国では関係無いのだ。もちろん、私の後ろ楯がディディエ侯爵家だからと言うのもある。
 ディディエ侯爵夫人はマッケンジー侯爵様の妹だ。
 
「メリダ様のお世話が楽しくて、しばらく帰る予定はありませんよ」
「まぁ、私のせいなの?それなら責任を取って、一生貴女の側を離れないわ。恋人が迎えに来ても離してあげないんだから」
 コロコロ笑う笑顔はとても可愛らしい。
 メリダ様の笑顔にいつも救われる。
 もし彼女が他国に嫁がれる日が来たら、私も一緒に行くと決めている。
 生涯誰かと一緒になることはない。
 私の心にはあの方がずっといる。
 きっと、憎まれ、恨まれている。
 もしもまた会える日が来ても、あの頃のように優しい目を見ることは出来ないだろう。
 これは自分が望んだ事だ。
 後悔はない。
 でも、ふとした瞬間に思い出しては、彼が幸せでありますようにと願わずにはいられなかった。
 
 今日も空は快晴。
 王城は平和な時を刻んでいた。



×××



 あの平和な時間を堪能していた次の日、事態は急展開を迎えた。

 視察でヴィラン王国に行っていた第一王子様が、王太子の婚約者で公爵令嬢のレティーナ様を酔った勢いで襲ったそうだ。未遂ですんだが、怒った王太子様が第一王子を手打ちにして殺害してしまったと報告が入った。
 平和だったのが一変、カルヴァン王国とヴィラン王国の戦争に発展してしまった。

 カルヴァン王国はそれほど大きな国ではなく、軍事力もヴィラン王国に比べれば微々たるものだった。
 戦争に発展してから半年で、カルヴァンの城は攻め落とされることになった。



×××



「メリダ様!お早く!!」
 城に攻め入られるとき、私はメリダ様を連れて、秘密の脱出道を必死に歩いていた。
 持てるだけの宝石に金貨をバックに積めて、メリダ様には申し訳ないが、町娘の質素な服に身を包んでもらった。私も似たような町娘の格好をし、3人の護衛騎士を連れてひた歩いた。
「シャティー。ごめんなさい、足が…」
 履き慣れない靴のせいで、メリダ様は足を痛めてしまったようだ。
「気付かず申し訳ありません。私の背にお乗り下さい」
「それでは貴女が疲れてしまうわ。少し休めば痛みも引くはずよ。少し休みましょう。ねっ」
 気丈に振る舞われているが、彼女は8歳の女の子だ。体は小刻みに震えていた。
「必ず私がお守りします。大丈夫です。メリダ様の為にいつも鍛えてましたから、メリダ様の体重など鳥の羽のように軽いですわ」
 彼女を胸に抱く。
 小さな肩が震えるのに胸が傷んだ。
 必ず守ると心に誓う。
「さぁ、背に乗って下さい。少しでも遠くに逃げますよ」

 脱出道の出口が見えて来た。
 確か城下町の外れにある礼拝堂に繋がっているはずだ。
 護衛の騎士が辺りを警戒しながら外に続く扉を開けた。
「誰もいない」
 騎士の合図で恐る恐る外の扉を開けた。
 静まり返る辺りが不気味に思えた。
 そう、静かすぎる。

「馬を調達してきます。ここから動かないで下さい」
 騎士が私達の近くを離れようとした瞬間、草影に隠れていた兵士が一斉に飛び出してきた。
「待ち伏せされた?!」
「くっ、姫を守れ!」
 騎士達が兵士達と剣を付き合わせる。
 多勢に無勢、こちらを取り囲む程の人数対私と護衛を合わせても4人しかいない。
 戦うのは得策ではない。

「剣を引きなさい!私はシャティアナ・ベンズブロー。魔動車を開発したベンズブロー伯爵の娘です。同じ祖国の者を殺すのがヴィラン王国のやり方ですか!」
 辺りに動揺が走るのがわかった。
 逃げられないのなら、せめて待遇よく捕まるしかない。
 お父様の名前を使うのは気が引けるが、この場では仕方がない。
「私達は抵抗しません。指揮者の所に連れていってください。みんな、剣を捨てなさい」
 私の言葉に騎士達は剣を捨てた。
「シャティー…」
 不安そうな声が背中から聞こえたので、優しい声色を心がけた。
「大丈夫です。私がお守りします」

「ずいぶん勇ましくなったじゃないか。シャティアナ・ベンズブロー伯爵令嬢」
 兵士達が道を開ける。
 そこから現れたのはーーー
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