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中編
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「ラーディミル…?」
鳩が豆鉄砲をくらったように、ルーカス殿下は美しい顔を間抜けな表情で台無しにしていた。まぁ、彼女?彼に心酔していた男子生徒達は似たような顔をしていた。
「その汚い手を離せ」
殿下の手を振り払うと、優雅な所作で壇上からゆっくりと降りてくる。
「とんだ馬鹿者共だ。上辺の利益しか見えない狭量で愚鈍な者ばかりが、次代の王国の幹部とはな。心中お察しするぞ、陛下」
壇上の奥の方のドアが開いた。
そこには国王陛下夫妻が、いたたまれない表情で入場した。
「ルーカス…」
「父上!これは、どういうことですか?!ラーディミル様が、声を、いや、男?!」
陛下の登場で思考が浮上したのだろう、この状況を理解しようと、普段使わない頭を回転させているようだ。
私も何が何だか…。
「改めて自己紹介をしておこう」
彼女?彼は私の目の前に来た。
以前は私より少し小さかった身長は、今は同じくらいになっていた。
今までの可愛らしい雰囲気は影を潜め、妖艶な微笑みを浮かべ、支配者の面持ちをしている。
目線を合わせるだけで、心臓が早鐘を打つようにドキドキが止まらない。こんな感覚はルーカス殿下と見つめあっても感じたことはない。
「我が名はラーテル・ミィジュ・アクアマリーナ。アクアマリーナ帝国第一皇子であり、アクアマリーナの皇太子である」
皇太子殿下?!?!
「「皇太子?!?!」」
会場がどよめく。
「驚かせてすまない。今回の留学は帝国と王国の友好関係を継続してもいいか、査定にやって来ていたんだ。次代を担う者達をこの目で見て、私が帝位を引き継いだとき、友好な関係を築ける器を持っているかの査定だったが…。残念だ」
アクアマリンの瞳に陰りが見えた。
これは、これはーーー。
「アクアマリーナ帝国皇太子殿下!わっ、我が王国の伝統工芸品や、優美な食器、硝子細工を覚えていらっしゃいますか?その技術は卓越しており、この王国に培われた歴史であり、財産であります。刺繍の図案も古来の物から、洗練されたデザイナーの最新作も素晴らしいものです!王国にはまだお伝え出来ていない魅力が」
口早に、捲し立てるように、私はいい募った。
無礼だ、図々しいと罵られようと、帝国の関心を惹かなければ、王国に未来はない!
帝国との友好関係が崩れた場合、王国は窮地に立たされる。アクアマリーナ帝国皇太子殿下がその気になれば、王国に攻め込み王家を排斥して属国にすることも可能。もしくは、第三国から介入が入り、王国が食い物にされてしまう。
「マクミラン侯爵令嬢」
アクアマリーナ帝国皇太子殿下の人差し指が私の唇に触れた。
私は言葉を紡ぐことが出来ない。
「私のことはラーテルと呼びなさい。私もリリィ嬢と呼んでもよろしいか?」
吸い込まれてしまいそうな瞳に見つめられて、私は小さくうなずいた。
「貴女はとても聡明で、愛国心が誰よりも強い。私はいつも尊敬していた。この危機的状況を理解しているのは貴女と陛下達くらいでしょう。大丈夫、悪いようにはしない」
見惚れてしまう笑顔。
女性の装いをしているのに、男の色香を醸し出している。目が離せない…。
「殿下」
ラーテル殿下の背後に二人の人影があった。
一人はラーテル殿下の従者。
もう一人は、
「ティファナ姫様…」
ルーカス殿下の妹姫で、12歳の美少女だ。
金髪青眼でルーカス殿下によく似ているが、彼女は陛下が酔った勢いでメイドに孕ませてしまった庶子だ。
城にあまり居場所がないので、よくマクミラン侯爵家に遊びに来ていた妹のような存在だ。
あぁ、そう言えば、ティファナ姫様と親しくしているのもルーカス殿下は疎んでいたわ。汚らわしいって。
女児にも王位継承権があれば、ルーカス殿下を必死に支えなくても良かったのにと何度も思った。ティファナ姫様は聡明で豪胆な、素晴らしい方だ。王の器を生まれながらもっているような方。おそらくルーカス殿下は心の底では恐れていたのではないかと思う。
「リリィお姉様。今まで無能な兄の子守りをさせてしまい、本当に申し訳ありませんでした」
ティファナ姫様の手にある書簡には見覚えがあった。それは
「君達の婚約証明書だ」
ティファナ姫様から書簡をラーテル殿下は受け取ると、目の前で破り始めた。
「えぇ!!」
思わずすっとんきょうな声を出してしまった。
「先ほど、婚約破棄の宣言を受け、君は承諾しただろう?陛下と侯爵の許可を得て、この婚約を白紙となった。これは正式な事だよ」
でも、目の前で破かなくても…。
「これで貴女は自由だ。そう言えば、愚か者に国外追放を言い渡されていたな。アクアマリーナ帝国に一緒に行きましょう。そこで今後の事を考えればいい」
ラーテル殿下は自然な所作で私の腰に手をあて、会場から抜け出そうと歩き出した。
「まっ、待て!!」
会場にルーカス殿下の声が響いた。
「ラーディミル、俺を騙していたのか!」
今まで微笑んでいた顔が、一気に冷たく、鋭くなった。思わずゾクっと背中に冷たい汗が出る。
彼はゆっくりと振り反った。
「騙したなど人聞きの悪い。勝手に勘違いして、のぼせ上がったのはお前だろ。顔しか価値のないつまらない男。王国の特産品の事、伝統工芸品の成り立ち、製造方法も何も知らない。女を口説く口上ばかり達者だったな。しかも、たくさんの女と火遊びが大好きなクズ」
ラーテル殿下の視線が一部の令嬢達の集団に向いた。その中心にいたのは、何かと突っ掛かってきていたロクサーヌ侯爵家のローズ嬢だ。
真っ赤なドレスをまとっても、ヤボったくならない華やかな女性だ。金髪で紫の瞳が特徴的。
苦々しそうにラーテル殿下の視線から目を反らしている。
「お前にリリィ嬢も王太子の座ももったいない」
「なんだと!」
「お兄様」
ティファナ姫様の声が響いた。
「先程、わたくしが王太女の座を賜りましたの」
「はぁ!!?何を馬鹿な事を言っている!王権は代々男児にのみ継承権がある。女の、平民の母を持つ穢れた血のお前に、王太女の座など片腹痛いわ!!」
「フフフ、それは過去の話ですわ。貴族院と陛下の承認を得て、女王を認める法案が可決されました。また、それにともなって王太子の選定をやり直し、わたくしが適任となりましたのよ」
「なっ、なんだと!いつそんな会議があったのだ!俺は出席してないぞ。でたらめを言うな!」
「お兄様が婚約破棄を目論んだ頃ですね。確か…数名の女性を連れて離宮にバカンスしに行くとおっしゃっていた時期ですわ。陛下を始め、王国を取りまとめる重鎮が集まり、今後の王国の未来について忌憚ない意見を出し合いましたのよ」
ティファナ姫様は一枚の紙を取り出した。
「ここ数ヵ月の支払い請求書です。宝石にドレス、郊外の城の購入費にリフォーム費、最高級のインテリア、豪華な船の製造、最新式の馬車の発注。全部合わせれば、国の財源の1/3に値する金額です。お兄様、財源は国の防衛や医療、教育支援はもちろん、国の経済を回していくためにあります。貴方の趣味や娯楽、女へ貢ぐためにあるわけではありません!」
なっ、なにそれ!?
私にその報告はなかったわ。
決算や財源の管理は、財務省長をしているローズ様のお父様が…。
あぁ…。
そう言うことね。
ロクサーヌ侯爵家が今回の騒動の黒幕か。
「黙れ!庶子の分際で生意気な!貴様が王太女?笑わせる。小賢しい女のお前に貴族たちが従うものか!」
「そうですわね、わたくしだけの力では無理でしょう。しかし、帝国の皇太子殿下が味方してくれたらどうなりますか?」
皆の視線がラーテル殿下に注がれた。
「私は優秀な者が好きだ。留学する際、国王陛下夫妻には事情を話していたが、一週間も経たない内に私の正体を見破り、脅しと交渉をしてきた豪胆な女は嫌いじゃない。私が帝位を引き継ぐまでに、王国を取りまとめできたら友好関係は継続する。出来なければ攻め落として属国にするまで。ちなみに、愚か者がそのまま王太子の座に居座るなら、今回の査定を皇帝に話し、攻め込む日が早まるだけだ」
「帝国の介入を許すのか?!」
「帝国が攻め込んで来ないように、これからの王国を建て直さなければいけないんです」
「こんなの、認められるか!!」
「こうなったのは、全てお兄様の責任です」
ティファナ姫様の鋭い視線にたじろぐルーカス殿下。年下の女の子に気圧されるなど、情けない…。
「リリィ!!」
突然ルーカス殿下が叫んだ。
「俺を助けろ!可愛げのないお前を婚約者にしてやってたんだ、今こそ役に立て!こののろま!」
この暴言に会場の温度が急に下がったように感じた。
「可愛げがない…のろま…だと」
地獄の底からの呻きのような低い声が、ラーテル殿下の口から出てきた。
「あぁ、そうだ!頭でっかちで、事ある毎に文句ばかり言ってくる可愛げのない女。その無駄な頭を使って、俺を王太子に戻すんだ。そうすれば少しは愛してやるし、屈辱だが俺の妃にしてやる。愛した男の手を取れるんだ、有難がって今こそ役に立て!」
「貴様…」
まずい…。
ラーテル殿下の変化を感じ、本能的に彼の手を握った。すると、冷え冷えとした気配が一瞬和らいだ。彼は私のために怒ってくれているのだ。
なんだろう…。
胸がポカポカするし、ドキドキもする。
「リリィ嬢…」
「ラーテル殿下、ありがとうございます。わたくしの為にお心を使っていただき、大変嬉しく思います。最後は、わたくしにお任せ下さい」
「…君の強さに尊敬する」
この方は素晴らしい方だわ。
この方の信頼に答えましょう。
鳩が豆鉄砲をくらったように、ルーカス殿下は美しい顔を間抜けな表情で台無しにしていた。まぁ、彼女?彼に心酔していた男子生徒達は似たような顔をしていた。
「その汚い手を離せ」
殿下の手を振り払うと、優雅な所作で壇上からゆっくりと降りてくる。
「とんだ馬鹿者共だ。上辺の利益しか見えない狭量で愚鈍な者ばかりが、次代の王国の幹部とはな。心中お察しするぞ、陛下」
壇上の奥の方のドアが開いた。
そこには国王陛下夫妻が、いたたまれない表情で入場した。
「ルーカス…」
「父上!これは、どういうことですか?!ラーディミル様が、声を、いや、男?!」
陛下の登場で思考が浮上したのだろう、この状況を理解しようと、普段使わない頭を回転させているようだ。
私も何が何だか…。
「改めて自己紹介をしておこう」
彼女?彼は私の目の前に来た。
以前は私より少し小さかった身長は、今は同じくらいになっていた。
今までの可愛らしい雰囲気は影を潜め、妖艶な微笑みを浮かべ、支配者の面持ちをしている。
目線を合わせるだけで、心臓が早鐘を打つようにドキドキが止まらない。こんな感覚はルーカス殿下と見つめあっても感じたことはない。
「我が名はラーテル・ミィジュ・アクアマリーナ。アクアマリーナ帝国第一皇子であり、アクアマリーナの皇太子である」
皇太子殿下?!?!
「「皇太子?!?!」」
会場がどよめく。
「驚かせてすまない。今回の留学は帝国と王国の友好関係を継続してもいいか、査定にやって来ていたんだ。次代を担う者達をこの目で見て、私が帝位を引き継いだとき、友好な関係を築ける器を持っているかの査定だったが…。残念だ」
アクアマリンの瞳に陰りが見えた。
これは、これはーーー。
「アクアマリーナ帝国皇太子殿下!わっ、我が王国の伝統工芸品や、優美な食器、硝子細工を覚えていらっしゃいますか?その技術は卓越しており、この王国に培われた歴史であり、財産であります。刺繍の図案も古来の物から、洗練されたデザイナーの最新作も素晴らしいものです!王国にはまだお伝え出来ていない魅力が」
口早に、捲し立てるように、私はいい募った。
無礼だ、図々しいと罵られようと、帝国の関心を惹かなければ、王国に未来はない!
帝国との友好関係が崩れた場合、王国は窮地に立たされる。アクアマリーナ帝国皇太子殿下がその気になれば、王国に攻め込み王家を排斥して属国にすることも可能。もしくは、第三国から介入が入り、王国が食い物にされてしまう。
「マクミラン侯爵令嬢」
アクアマリーナ帝国皇太子殿下の人差し指が私の唇に触れた。
私は言葉を紡ぐことが出来ない。
「私のことはラーテルと呼びなさい。私もリリィ嬢と呼んでもよろしいか?」
吸い込まれてしまいそうな瞳に見つめられて、私は小さくうなずいた。
「貴女はとても聡明で、愛国心が誰よりも強い。私はいつも尊敬していた。この危機的状況を理解しているのは貴女と陛下達くらいでしょう。大丈夫、悪いようにはしない」
見惚れてしまう笑顔。
女性の装いをしているのに、男の色香を醸し出している。目が離せない…。
「殿下」
ラーテル殿下の背後に二人の人影があった。
一人はラーテル殿下の従者。
もう一人は、
「ティファナ姫様…」
ルーカス殿下の妹姫で、12歳の美少女だ。
金髪青眼でルーカス殿下によく似ているが、彼女は陛下が酔った勢いでメイドに孕ませてしまった庶子だ。
城にあまり居場所がないので、よくマクミラン侯爵家に遊びに来ていた妹のような存在だ。
あぁ、そう言えば、ティファナ姫様と親しくしているのもルーカス殿下は疎んでいたわ。汚らわしいって。
女児にも王位継承権があれば、ルーカス殿下を必死に支えなくても良かったのにと何度も思った。ティファナ姫様は聡明で豪胆な、素晴らしい方だ。王の器を生まれながらもっているような方。おそらくルーカス殿下は心の底では恐れていたのではないかと思う。
「リリィお姉様。今まで無能な兄の子守りをさせてしまい、本当に申し訳ありませんでした」
ティファナ姫様の手にある書簡には見覚えがあった。それは
「君達の婚約証明書だ」
ティファナ姫様から書簡をラーテル殿下は受け取ると、目の前で破り始めた。
「えぇ!!」
思わずすっとんきょうな声を出してしまった。
「先ほど、婚約破棄の宣言を受け、君は承諾しただろう?陛下と侯爵の許可を得て、この婚約を白紙となった。これは正式な事だよ」
でも、目の前で破かなくても…。
「これで貴女は自由だ。そう言えば、愚か者に国外追放を言い渡されていたな。アクアマリーナ帝国に一緒に行きましょう。そこで今後の事を考えればいい」
ラーテル殿下は自然な所作で私の腰に手をあて、会場から抜け出そうと歩き出した。
「まっ、待て!!」
会場にルーカス殿下の声が響いた。
「ラーディミル、俺を騙していたのか!」
今まで微笑んでいた顔が、一気に冷たく、鋭くなった。思わずゾクっと背中に冷たい汗が出る。
彼はゆっくりと振り反った。
「騙したなど人聞きの悪い。勝手に勘違いして、のぼせ上がったのはお前だろ。顔しか価値のないつまらない男。王国の特産品の事、伝統工芸品の成り立ち、製造方法も何も知らない。女を口説く口上ばかり達者だったな。しかも、たくさんの女と火遊びが大好きなクズ」
ラーテル殿下の視線が一部の令嬢達の集団に向いた。その中心にいたのは、何かと突っ掛かってきていたロクサーヌ侯爵家のローズ嬢だ。
真っ赤なドレスをまとっても、ヤボったくならない華やかな女性だ。金髪で紫の瞳が特徴的。
苦々しそうにラーテル殿下の視線から目を反らしている。
「お前にリリィ嬢も王太子の座ももったいない」
「なんだと!」
「お兄様」
ティファナ姫様の声が響いた。
「先程、わたくしが王太女の座を賜りましたの」
「はぁ!!?何を馬鹿な事を言っている!王権は代々男児にのみ継承権がある。女の、平民の母を持つ穢れた血のお前に、王太女の座など片腹痛いわ!!」
「フフフ、それは過去の話ですわ。貴族院と陛下の承認を得て、女王を認める法案が可決されました。また、それにともなって王太子の選定をやり直し、わたくしが適任となりましたのよ」
「なっ、なんだと!いつそんな会議があったのだ!俺は出席してないぞ。でたらめを言うな!」
「お兄様が婚約破棄を目論んだ頃ですね。確か…数名の女性を連れて離宮にバカンスしに行くとおっしゃっていた時期ですわ。陛下を始め、王国を取りまとめる重鎮が集まり、今後の王国の未来について忌憚ない意見を出し合いましたのよ」
ティファナ姫様は一枚の紙を取り出した。
「ここ数ヵ月の支払い請求書です。宝石にドレス、郊外の城の購入費にリフォーム費、最高級のインテリア、豪華な船の製造、最新式の馬車の発注。全部合わせれば、国の財源の1/3に値する金額です。お兄様、財源は国の防衛や医療、教育支援はもちろん、国の経済を回していくためにあります。貴方の趣味や娯楽、女へ貢ぐためにあるわけではありません!」
なっ、なにそれ!?
私にその報告はなかったわ。
決算や財源の管理は、財務省長をしているローズ様のお父様が…。
あぁ…。
そう言うことね。
ロクサーヌ侯爵家が今回の騒動の黒幕か。
「黙れ!庶子の分際で生意気な!貴様が王太女?笑わせる。小賢しい女のお前に貴族たちが従うものか!」
「そうですわね、わたくしだけの力では無理でしょう。しかし、帝国の皇太子殿下が味方してくれたらどうなりますか?」
皆の視線がラーテル殿下に注がれた。
「私は優秀な者が好きだ。留学する際、国王陛下夫妻には事情を話していたが、一週間も経たない内に私の正体を見破り、脅しと交渉をしてきた豪胆な女は嫌いじゃない。私が帝位を引き継ぐまでに、王国を取りまとめできたら友好関係は継続する。出来なければ攻め落として属国にするまで。ちなみに、愚か者がそのまま王太子の座に居座るなら、今回の査定を皇帝に話し、攻め込む日が早まるだけだ」
「帝国の介入を許すのか?!」
「帝国が攻め込んで来ないように、これからの王国を建て直さなければいけないんです」
「こんなの、認められるか!!」
「こうなったのは、全てお兄様の責任です」
ティファナ姫様の鋭い視線にたじろぐルーカス殿下。年下の女の子に気圧されるなど、情けない…。
「リリィ!!」
突然ルーカス殿下が叫んだ。
「俺を助けろ!可愛げのないお前を婚約者にしてやってたんだ、今こそ役に立て!こののろま!」
この暴言に会場の温度が急に下がったように感じた。
「可愛げがない…のろま…だと」
地獄の底からの呻きのような低い声が、ラーテル殿下の口から出てきた。
「あぁ、そうだ!頭でっかちで、事ある毎に文句ばかり言ってくる可愛げのない女。その無駄な頭を使って、俺を王太子に戻すんだ。そうすれば少しは愛してやるし、屈辱だが俺の妃にしてやる。愛した男の手を取れるんだ、有難がって今こそ役に立て!」
「貴様…」
まずい…。
ラーテル殿下の変化を感じ、本能的に彼の手を握った。すると、冷え冷えとした気配が一瞬和らいだ。彼は私のために怒ってくれているのだ。
なんだろう…。
胸がポカポカするし、ドキドキもする。
「リリィ嬢…」
「ラーテル殿下、ありがとうございます。わたくしの為にお心を使っていただき、大変嬉しく思います。最後は、わたくしにお任せ下さい」
「…君の強さに尊敬する」
この方は素晴らしい方だわ。
この方の信頼に答えましょう。
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