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17話 エリーゼの決断
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旦那様と二人、ベッド脇で手を繋いでいる。しかし、視線を合わせることが出来ない。
「話を…聞いてほしい」
「…私の話は…聞いて下さらなかったわ…」
彼はうつむき苦しげな顔をしたが、手の力はさらに強まった。
「虫のいい…話なのはわかってる。どんな嘲りも非難も構わない。謝りたいんだ…」
絞り出す声に胸が締め付けられる。
自分でもどうしたら良いかわからない。
怒ってるのか、怒ってないのか…。
許せないのか、許したいのか…。
「今更…ですね」
言葉が勝手に出ていく。
「あぁ、今更だ。愚かにも程がある。でも君にすがりたいんだ」
まっすぐ私を見て話しているのが感じられる。
この一週間何度も考えた。でも、答えが出ない。私はどうしたいのか…。
傷による熱が下がるまで。
彼が目を覚ますまで。
答えを出すのを先伸ばしにした。
何度も投げ出したいと思った。
苦しくて…。
このまま逃げてしまおうか…。
でも『ラウトゥーリオの丘』を子供達に読み聞かせていた自分が逃げていいのか?
懸命に生きなさいと語る私が、逃げて良いはずがない。
彼と向き合う。
以前は目を合わせれば胸が高鳴り、心が踊っていた。しかし今は初夜の事、女性を連れて来た日の事が脳裏に浮かび、恐怖すら感じる。
でも、ミリアリアに襲われたとき、彼は身を呈して守ってくれた。
誤解だったと謝ってくれた。
私がリゼだと気づいてくれた。
愛してると…言ってくれた。
ああ、私は彼を許したいんだ…。
許したい理由をずっと探してる。
でも、怖い…。
そう、どうしようもなく怖い。
「どうか、もう一度チャンスをくれないか?エリーゼとやり直すチャンスを…」
「…それは罪悪感からですか?」
「違う!君を愛してるんだ!」
『愛してる』
彼の声で『その言葉』が紡がれて、ハッキリとわかった。私が怖がっていたモノが何だったのかわかった。
彼の掴む手に両手を添えた。
掴む力が緩んだ。
ほころぶ彼の顔。
私は手をーーーーー
引き抜いた。
「信じられません」
素早く彼との距離を取る。
「エリーゼ?!」
彼の手が追いすがるが、私に触れることは出来なかった。
頬が濡れる。
私は泣いているのか…。
彼を愛してる。
どうしようもなく、愛してる。
彼の隣に、私ではない女性が並び立つのを考えるだけで胸が張り裂けそうだ。
カフェで彼と向かい合って談笑する女。
ブティックの試着室から彼の前に現れる女。
社交界に赴き、ダンスホールで彼と優雅に踊る女。
彼とベッドで横になる女。
自分じゃない事に怒りすら覚えるのに、その女達の居場所に自分が居ることが思い描けない。
その女達のように笑えない。
彼の愛を信じられない。
愛してるのに信じられない。
それが苦しい。
「エリーゼ、行かないで!」
懇願してくる彼が可哀想。
「…離縁して下さい」
血を吐くような言葉が自分から漏れた。
離れたい。
離れたくない。
このジレンマに押し潰されそう。
「いやだ、出来ない!」
「爵位は父から貴方に渡りました。離縁しても、貴方はローベンシュタイン子爵です。何も心配ありません」
「そんなことを言っているんじゃない!」
「貴族の血なら、後妻を迎えれば手に入ります。お金に困っている貴族は多いはずです。今度はその方に愛をお授け下さい」
「愛してるのは君だけだ!」
傷を押して、彼がベッドから降りようとしている。
なんて痛々しいの。
彼は左肩を押さえながら、苦しそうにしている。
そんなことをしては傷が開いてしまう。
止めなければいけないのに、私は部屋のドアノブを触っていた。
彼と初めて目が合った。
「嘘つき」
彼の顔が絶望に歪む。
そんな顔をさせてごめんなさい。
でも、もう戻れない。
ドアノブを使い、部屋の外に出た。
「エリーゼ!」
叫ぶ声がする。
でも振り向かない。
廊下で侍女長とお医者様に会った。
「すいません。旦那様が無理に起き上がってしまいました。傷口が開いているかもしれません…」
私の様子に、お医者様は急いで彼の部屋に向かってくれた。
侍女長はギュっと私を抱き締めてくれた。
その胸は暖かくて、涙が止まらなかった。
「話を…聞いてほしい」
「…私の話は…聞いて下さらなかったわ…」
彼はうつむき苦しげな顔をしたが、手の力はさらに強まった。
「虫のいい…話なのはわかってる。どんな嘲りも非難も構わない。謝りたいんだ…」
絞り出す声に胸が締め付けられる。
自分でもどうしたら良いかわからない。
怒ってるのか、怒ってないのか…。
許せないのか、許したいのか…。
「今更…ですね」
言葉が勝手に出ていく。
「あぁ、今更だ。愚かにも程がある。でも君にすがりたいんだ」
まっすぐ私を見て話しているのが感じられる。
この一週間何度も考えた。でも、答えが出ない。私はどうしたいのか…。
傷による熱が下がるまで。
彼が目を覚ますまで。
答えを出すのを先伸ばしにした。
何度も投げ出したいと思った。
苦しくて…。
このまま逃げてしまおうか…。
でも『ラウトゥーリオの丘』を子供達に読み聞かせていた自分が逃げていいのか?
懸命に生きなさいと語る私が、逃げて良いはずがない。
彼と向き合う。
以前は目を合わせれば胸が高鳴り、心が踊っていた。しかし今は初夜の事、女性を連れて来た日の事が脳裏に浮かび、恐怖すら感じる。
でも、ミリアリアに襲われたとき、彼は身を呈して守ってくれた。
誤解だったと謝ってくれた。
私がリゼだと気づいてくれた。
愛してると…言ってくれた。
ああ、私は彼を許したいんだ…。
許したい理由をずっと探してる。
でも、怖い…。
そう、どうしようもなく怖い。
「どうか、もう一度チャンスをくれないか?エリーゼとやり直すチャンスを…」
「…それは罪悪感からですか?」
「違う!君を愛してるんだ!」
『愛してる』
彼の声で『その言葉』が紡がれて、ハッキリとわかった。私が怖がっていたモノが何だったのかわかった。
彼の掴む手に両手を添えた。
掴む力が緩んだ。
ほころぶ彼の顔。
私は手をーーーーー
引き抜いた。
「信じられません」
素早く彼との距離を取る。
「エリーゼ?!」
彼の手が追いすがるが、私に触れることは出来なかった。
頬が濡れる。
私は泣いているのか…。
彼を愛してる。
どうしようもなく、愛してる。
彼の隣に、私ではない女性が並び立つのを考えるだけで胸が張り裂けそうだ。
カフェで彼と向かい合って談笑する女。
ブティックの試着室から彼の前に現れる女。
社交界に赴き、ダンスホールで彼と優雅に踊る女。
彼とベッドで横になる女。
自分じゃない事に怒りすら覚えるのに、その女達の居場所に自分が居ることが思い描けない。
その女達のように笑えない。
彼の愛を信じられない。
愛してるのに信じられない。
それが苦しい。
「エリーゼ、行かないで!」
懇願してくる彼が可哀想。
「…離縁して下さい」
血を吐くような言葉が自分から漏れた。
離れたい。
離れたくない。
このジレンマに押し潰されそう。
「いやだ、出来ない!」
「爵位は父から貴方に渡りました。離縁しても、貴方はローベンシュタイン子爵です。何も心配ありません」
「そんなことを言っているんじゃない!」
「貴族の血なら、後妻を迎えれば手に入ります。お金に困っている貴族は多いはずです。今度はその方に愛をお授け下さい」
「愛してるのは君だけだ!」
傷を押して、彼がベッドから降りようとしている。
なんて痛々しいの。
彼は左肩を押さえながら、苦しそうにしている。
そんなことをしては傷が開いてしまう。
止めなければいけないのに、私は部屋のドアノブを触っていた。
彼と初めて目が合った。
「嘘つき」
彼の顔が絶望に歪む。
そんな顔をさせてごめんなさい。
でも、もう戻れない。
ドアノブを使い、部屋の外に出た。
「エリーゼ!」
叫ぶ声がする。
でも振り向かない。
廊下で侍女長とお医者様に会った。
「すいません。旦那様が無理に起き上がってしまいました。傷口が開いているかもしれません…」
私の様子に、お医者様は急いで彼の部屋に向かってくれた。
侍女長はギュっと私を抱き締めてくれた。
その胸は暖かくて、涙が止まらなかった。
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