愚かな旦那様~間違えて復讐した人は、初恋の人でした~

ともどーも

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1話 残酷な初夜

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 ここはハイルディー商会の経営するのスイートルームだ。

 私、エリーゼ・ローベンシュタイン(20)は今日、ハイルディー商会取締役のリューベック様(27)と結婚した。

 昼間は盛大な結婚式を執り行い、フラワーシャワーを愛する旦那様と浴びた。
 深い海のような青い髪も、エメラルドグリーンに輝く瞳も、愛しい。

 披露宴では、家族や使用人達から祝福の言葉をたくさんもらった。

 その日の夜。
 一緒にベッドに腰掛け、
「俺を愛しているかい?」
 柔らかな表情で彼に訪ねられ
「はい、心から愛しています」
 と、素直に愛を伝えた。

 私はとても幸せだった。なのにーーー。

「俺は君を心から軽蔑している。本当は顔を見るだけでも吐き気がするよ」
 愛する旦那様は、ひどく冷たい目で私を見た。

 突然どうしたの…。

「リュ」

 信じられなくて、彼の名前を口にしようとした瞬間、彼に首を掴まれた。
 無表情の、それでいて背筋がゾッとするような顔で

「俺の名を二度と口にするな」

 と、言われた。
 彼の豹変した姿に戸惑いと、訳がわからない状況に涙が溢れた。

 涙の滴が頬を伝い、彼の愛用する白い手袋にシミを作った。
 それに気づいた彼は、酷く顔を歪ませて、私の首から手を離した。
 その拍子に、私は床に倒れこんだ。

「汚いな。手袋が台無しだ」

 詰まっていた空気が一気に喉を通ったので、酷くむせてしまった。

 私の姿を見て、彼は立ち上がり距離をとった。
「最悪だ、汚いお前の唾が飛ぶだろ。」

 なんて冷たい目だろう。
 なぜ?
 突然の彼の豹変に、私は戸惑うばかり。

 彼は愛用の白い手袋を、本当に汚ならしそうに外し、床に投げ捨てた。
 そして、ポケットから替えの手袋を出して、着け直した。

「どう…して…」

 戸惑い、涙を流す私に侮蔑のこもった笑い声で彼は答えた。

「俺を愛しているんだろ?心から。これから俺に復讐されるのに、滑稽だな」

 復讐?
 どういうこと?

「ハロルドを覚えているか?いや、最低の売女はオツムも下劣なのだろう。2年前、7番街に住んでいた、俺と同じ髪色をしたハロルド・マイグナー。俺の腹違いの弟だ」

 ハロルド?
 知らない名前だ…。

「お前が殺した男だ」
「違います!わたくしはーー」

 彼は足で私の肩を押し、そのまま床に押し付けた。
 見下ろす目が恐ろしい。

「しゃべるな」

 怖い…。

「お前は純粋なハロルドに近づき、偽りの愛を囁き金を巻き上げた。ハロルドは首が回らなくなるまで借金をさせられ、殺された。平民では買うことが出来ない、貴族御用達のワインに毒を入れられてな!」

 怖い。
 体が小刻みに震えてしまう。
 しかし、言わなければ。
 違うと、私は知らないと。

「ハロルドが付き合っていた女は金髪で紫の瞳をした、高貴な身分の女。結婚適齢期くらいの女だったと隣人が証言している」

 容姿は条件に当てはまる。

「高貴な身分と言っても、女が1人で町に出歩くのだ、そこまで身分は高くない。そして、人を騙してまで金がほしいほど、金に困っている貴族」

 確かに、ローベンシュタイン子爵家は困窮している。
 原因は母と双子の姉ミリアリアが浪費するからだ。

 母は元伯爵令嬢で、ずいぶん甘やかされて育てられたそうだ。
 母が父と結婚するとき、子爵領は宝石が出土する鉱山を保有していたので、かなり裕福だった。
 しかし、近年は堀尽くしてしまったのか、出土しなくなってしまった。

 それなのに、母の浪費は止まらず、それに便乗するミリアリアがいたからだ。

「君か、姉のミリアリア嬢のどちらかがその女だとまでは、調べてわかった。そして、君に初めて会ったとき『《ラウトゥーリオの丘》を知っていますか?』と聞いただろう。そして君は『《ラウトゥーリオの丘》は私が考えた童話です』と答えたな」

 確かにそう答えた。
 《ラウトゥーリオの丘》は私が子供達の為に書いたオリジナルの童話だ。
 どんなに辛いことが合っても、懸命に生きていれば、天国で愛する家族に会えるという話だ。《ラウトゥーリオ》は主人公の名前だ。

「ハロルドの亡骸の胸ポケットに《ラウトゥーリオの丘で君を待ってる》と手紙があった。どんな意味なのかわからない言葉を、君は知っていた」

「そっ、それはーーー」
「君が殺したんだ!」

 私の言葉は彼の怒号でかき消されてしまう。

「あの時、弟の死は愛に溺れた男の自殺と、まともに取り合ってもらえなかった。ハイルディー家が単なるジェントリだから、貴族じゃないから!貴族が絡む事件を、憲兵は敬遠してろくに捜査しなかったんだ!たがな、ハロルドの字ではない、『誰かが』書いたメモは見つかっていた。『ラウトゥーリオ』『丘の上』そんな言葉だった」
 彼の足に力が入る。
 肩が砕けそうに痛い。
 
「お前の字と一致したよ。貴族でないからお前を裁けない。なら、お前と結婚して貴族になったら?」

 肩から足をどけて、彼は私の髪を乱暴に持ち上げて鋭い視線を向けてくる。

「お前がハロルドから巻き上げた金額分、使用人として働いて返せ。貴族の女は着飾ることに生き甲斐を生み出す生き物だ。今後、お茶会や夜会、全ての行事に参加させない。ドレスも装飾品を買うのも禁止だ」

 髪を離され、また床に倒れこんだ。
 彼は立ち上がり、見下ろす。

「貴族の仲間入りを果たしたから、もう俺を邪魔をするものはない。ハロルドの事件を再調査し、お前の罪を白日の下にさらしてやる」

 歪んだ笑顔を浮かべ、彼は嘲笑った。
「国に裁かれるまで、俺がお前を罰してやる。楽しみにしていろ」
と言って彼は出ていった。

 1人残され、その日は足を抱え、恐ろしさと悲しさに震え泣き続けた。
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