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26話 サイラスの回想3(サイラス視点)

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 建国記念祭の前夜祭。
 レオンとマチルダ様から、建国記念祭の為に粉骨砕身で下準備をしてきた私たちにご褒美として、前夜祭でデートが出来るように取り計らってくれた。

 出来る準備は全て終わってる。
 あとは当日の立ち回りで、ミスを犯さなければ問題ないだろう。
 今だけは、仕事を忘れてエスメローラとの楽しい時間を満喫したい。

 町娘風に装っても、エスメローラの可愛さは損なわれない。むしろ、新鮮な感じがして可愛くて仕方がない。
 ただ、やはり壁を感じてしまう。

 遠慮している……。違うな、困ってる?戸惑っている?
 何と表現すれば良いかわからないが、エスメローラと壁?距離を感じる瞬間があった。

 どうにか彼女の心に近づきたい。
 だが、強引な真似は良くない。
 あくまで自然なかたちで……。
 あぁ……どうすれば自然に距離を近づけることが出来るんだ!!

 紳士的なエスコートに徹するが、一向に進展しない……。いや、デートは楽しんでくれていると思うが、もっと……いちゃいちゃしたい……。

 恥ずかしい……。


 ×××



 デートを楽しみつつ、そろそろ花火がうち上がる時間が迫ってきた。
 レオンから『取っておきの穴場を教えてやる。そこは許可された者しか入れないから、二人っきりでゆっくり花火が見れるぞ。指輪を渡すのにも絶好の場所だ』と勧められた場所に移動することになった。

 花火が打ち上がる前だからだろう。人通りが最初より多くなっている。
 このままでははぐれてしまうかも知れない。
 そこで――
 
『エスメローラ、手を』
 手を差し出した。
 内心ドキドキが凄かったが、自分の行動は自然なはずだ。実際、はぐれたら大変だし、彼女の安全を考えてだな!
『はぐれるといけないから、手を繋ごう』 
『はい……』
 エスメローラは恥ずかしそうに手を乗せた。

 可愛い!!
 
 心の中で頭を抱えて悶えた。
 手の柔らかさが心地よい。
 私の手の中にすっぽり入る小さい手が、無性に愛しく思えた。彼女の手はこんなに小さかったんだな。

『小さい手だ……』
『え?』
 思わず口走っていた。
 慌てて誤魔化し、目的地に向かって歩き出した。
 手の感想を言ってしまって、変に思ったり、気持ち悪いって思ったりしてないかな……。
 チラッとエスメローラを見ると、彼女は恥ずかしそうに微笑んだ。

 あぁ……好きだな……。

 
 ×××


 目的地の時計塔に着いた。
 中は薄暗かった。
 無意識だと思うが、エスメローラが私の手を一瞬ギュッと握った。怖かったのだろうか?不安げな顔だ。
 
 不謹慎だが……可愛すぎる……。

 にやけそうな顔を引き締め、階段を見た。最上階までは結構な距離だな。私は問題ないが、女性では辛いだろう。時計塔に来るまでそれなりに歩いたし……。

 嫌がられたらと不安に思ったが、私は思いきって提案をした。

『その……足が辛くなるだろうから……抱き上げて運んでもいいかな?その代わり、このランプで足元を照らしてくれると助かるんだが……どうだろう?もちろん、嫌ならそう言ってくれ』

 彼女は案の定、戸惑った顔をした。
 抱き上げるのは失敗だっただろうか……。
 
『えっ!嫌では……ないのですが……。その……大変では?』

 嫌ではない?!
 ……良かった。
 それに、私を気遣ってくれる彼女は、なんて優しいんだろう。愛しさが溢れて困ってしまう。
 
『問題ない。そんなヤワな鍛え方はしていないよ。嫌ではないなら、抱き上げてもいいかな?はい、このランプを持って。魔石を利用しているから熱くないから安心して』
 
 軽い?!

『ひゃうっ!』
 浮かれていて、突然抱き上げてしまった。
 彼女が軽く悲鳴を上げる。
 怖がらせたかと思ったが、彼女の顔は真っ赤になっていた。恥ずかしいのだろう。
 
『……重くないですか?』
 上目遣いで、可愛らしく聞いてくる。
 
『軽すぎるくらいだよ。最近ちゃんと食べてたのか?忙しいからと食事を抜いてはダメだぞ』
 照れ隠しで『義兄』の時のような物言いをしてしまった。
『それはサイラス様ではありませんか?お付きの方が嘆いていましたよ』
『うっ……』
 彼女からの反撃に、思わず言葉が詰まる。
 だが、こんな会話がとても嬉しく思ってしまう。

『早く上がらないと、花火が始まってしまうな。少し揺れるがしっかり捕まってくれ』
『はい』

 彼女は私の首に腕を回し、ギュッと抱き締めてくる。彼女から甘い匂いがする。
 あぁ……。好きだ……。
 邪な気持ちを払うよう、足早に階段を上ると、あっと言う間に上ってしまった。

『すごい見晴らしですね。素敵……』
 彼女は目を輝かせて、景色に感動している。
『喜んでもらえて良かった』
『連れて来て下さり、ありがとうございます』
 興奮ぎみにお礼を言って来るのが、とにかく可愛い。可愛すぎて思わず――
『……可愛い』
 ――とつぶやいてしまった。
 
 ブワッ!と彼女は顔を赤らめる。
 もう、限界だ。
 ここなら誰もいない。
 
『こんなに可愛いと、心配になるよ』
 彼女の髪を一房取り口づける。

『これからも、ずっと側にいて欲しい。君の笑顔をずっと見ていたい。可能なら独占したいくらいだ。来年も、再来年もずっと、私達の髪が白くなって、年齢と共にシワを増やして死ぬまで、ずっと側で笑っていて欲しい。私と一緒に歳を取っていこう。愛してる、エスメローラ』

 私は懐から小さな箱を出した。
 中には2つの指輪が並んでいる。
 エスメローラの瞳の色に合わせた、空色のブルーダイヤモンドが輝く指輪だ。

『受け取ってくれるか?』
 
 彼女は口元に手を当てた。
 瞳に涙がたまっていく。

『は、い……。はい、喜んで』
 涙を流しながら笑う彼女は、とても美しかった。
 
 花火が打ち上がった。
 まるで、私達を祝福するように美しく夜空を彩った。 
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