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21話 重大発表
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建国記念祭はつつがなく進み、城も城下町も祭を楽しむ人で盛り上がっている。
前夜祭では、みんなの配慮でサイラス様とデートすることが出来たが、その後は怒涛だった……。
マチルダも日に日に疲労が溜まっていくのが、目に見えた。少しでも休めるようにリラックス効果のある香りを部屋に置いたり、睡眠前のハーブティー、疲労回復のマッサージはもちろん、公務の書類もマチルダ以外でも対応出来るものは、積極的に片付けていった。
また、マチルダが目を通して、その場でサインできるように資料や要点をまとめたメモを付けるなど工夫は惜しまなかった。
「本当に助かるし、有難いけど無理はしないで。貴女の方が先に倒れてしまうわ」
「私は大丈夫よ。マチルダこそ少し休憩しないと。次の予定までベッドで寝てて」
「エスメローラ……」
「お互い、あと少しの踏ん張りでしょ。ほらほら、駄々をこねる暇があるなら、少しでも休んでちょうだい」
そう言って、マチルダの執務室の隣にある簡易ベッドに彼女を押し込んだ時もあったわ。
そして、ようやく最後のイベント。
建国記念祭の舞踏会の夜になった。
この山場が終われば、あとは雑務を片付ければ終わる。
重大発表後に仕事がわんさか来そうだが、それは考えないでおこう……。
建国記念祭の際、ヘンリー王は何度もマチルダに秋波を送っていたが、レオン王太子殿下がぴったりマークしていたので、大きな波乱はなかった。
また、ブラントの姿を確認するも、仕事が忙しく構っている暇はなかった。彼もこちらに視線を送るが、声をかけてくることはなかった。
ときどきマチルダがニヤニヤしながら「サイラス、ナイス」と呟いていたが、何がどうなって『ナイス』なのかは不明だった。
さぁ、最後の大舞台だ。
気を引き締めなくっちゃ!
×××
舞踏会は陛下の挨拶から始まった。
そして、他国の賓客達を驚かせた。
「我が国の王太子、レオン・イエルゴート。そして本日、王太女として立った、マチルダ・イエルゴートを紹介する」
会場は一気にざわめいた。
それもそのはずだ。
本来『国王』は一人だ。
第一王位継承者を『王太子』もしくは『王太女』と呼称するのが一般的だ。
それなのに、『王太子』と『王太女』を紹介するなど前代未聞だ。
「ご静粛に。本来、国王は一人だと考えるのが普通でしょう。しかし、イエルゴート王国の次代は、二頭政治と成ることを発表します」
二頭政治。
聞きなれない言葉に、会場はざわめく。
そんな中、マチルダが話し出した。
二頭政治とは、国王が二人いる状態だと説明し始めた。
レオン王太子殿下は軍部を統括する総帥兼国王として仕事を担い、マチルダが内政の大きな舵取りを担う女王として国を統治するのだ。
今はない国だが、二頭政治で飛躍的に繁栄した国の歴史を説明した。
会場はマチルダの説明に酔いしれるように、称賛の声がちらほらと聞こえた。
「その国で、二頭政治が成功したのは、国王と女王が夫婦だったから成立した話です。あえてマチルダ王女殿下が王太女になる必要はないのではありませんか?それよりも、他国との関係強化の為にご結婚する切り札を捨てるのはいかがなものでしょう?」
ヘンリー王だ。
他国の政治に口を挟むのは、周辺国との取り決めでご法度とされている。内政不干渉条約を軽視する事だ。
案の定、場の雰囲気が一気に悪くなった。
「ヘンリー王。これは我が国の方針です。貴方に意見される謂れはありませんわ」
マチルダは鋭い視線をぶつけている。
しかし、ヘンリー王は揺るがない。
「意見ではありません。私は求婚しているのです。貴女に。マチルダ王女」
堂々とした告白だ。
女性陣から黄色い声が上がった。
「私は幼い頃から、貴女をお慕いしていました。そして、何度も婚約の申込をしてきましたが、すげなく断られていました。それでも、諦められないのです。あの頃の私は、貴女ほど美しく、聡明な女性をもらい受けるには、不相応な男だったでしょう。ですが、貴女と並び立てるよう、私なりに努力してきました。そして、オルトハット王国の王となり、貴女を迎えに来たのです」
ヘンリー王は前に進み出た。
「王族の結婚は国に繁栄をもたらすべきです。陛下、我が国は期待を裏切りません」
陛下はニヤニヤとマチルダを横目で見た。
ヘンリー王がこういう行動に出ることは予想していたようだ。マチルダは冷めた目で陛下を一瞬見た。
「マチルダ王女と婚姻したあかつきには、両国の関税を一部引き下げ、貿易をより快適に出来るようにするのはどうでしょうか?また、イエルゴート王国が輸入に頼っているヒトポポ草やカイバク草などを、優先的に輸出する事も提示できます」
ヒトポポ草は傷を癒す回復薬の原料で、カイバク草は植物系の魔物から受けた麻痺を改善する麻痺回復薬の原料だ。
『などを』と言っているのを見ると、他にも貴重な薬草も準備があるように見える。
ヒトポポ草を育てるには日照時間が鍵を握っている。雨が多いイエルゴート王国では栽培が難しく、ヒトポポ草を使用しない回復薬を作る研究も進めているが、結果は芳しくない。
もしもイエルゴート王国を侵略しようとするなら、ヒトポポ草の供給源を経つことが最も効果的と噂される。
まぁ、世界最強と称される軍部を相手に、喧嘩を吹っ掛ける国はない。私は知らないが、極秘の暗殺部隊があると噂も、公然の秘密として各国で囁かれているらしい。
ヒトポポ草の安定供給は、国にとって大きな利益と言えるだろう。
マチルダが女王に即位して国を安定させる事と、死活問題のヒトポポ草の安定供給。どちらを優先させるべきかは、誰もがヒトポポ草と答えるだろう。
レオン王太子殿下は武術に非常に優れている。統治者としての手腕か少し不安視される時もあるが、国王の器として申し分ない人物だ。
わざわざ二頭政治にしなくても、イエルゴート王国は揺るがない。
「私と結婚、していただけますね」
ヘンリー王は余裕の笑みで、マチルダに手を差し出した。
「お断り致しますわ」
前夜祭では、みんなの配慮でサイラス様とデートすることが出来たが、その後は怒涛だった……。
マチルダも日に日に疲労が溜まっていくのが、目に見えた。少しでも休めるようにリラックス効果のある香りを部屋に置いたり、睡眠前のハーブティー、疲労回復のマッサージはもちろん、公務の書類もマチルダ以外でも対応出来るものは、積極的に片付けていった。
また、マチルダが目を通して、その場でサインできるように資料や要点をまとめたメモを付けるなど工夫は惜しまなかった。
「本当に助かるし、有難いけど無理はしないで。貴女の方が先に倒れてしまうわ」
「私は大丈夫よ。マチルダこそ少し休憩しないと。次の予定までベッドで寝てて」
「エスメローラ……」
「お互い、あと少しの踏ん張りでしょ。ほらほら、駄々をこねる暇があるなら、少しでも休んでちょうだい」
そう言って、マチルダの執務室の隣にある簡易ベッドに彼女を押し込んだ時もあったわ。
そして、ようやく最後のイベント。
建国記念祭の舞踏会の夜になった。
この山場が終われば、あとは雑務を片付ければ終わる。
重大発表後に仕事がわんさか来そうだが、それは考えないでおこう……。
建国記念祭の際、ヘンリー王は何度もマチルダに秋波を送っていたが、レオン王太子殿下がぴったりマークしていたので、大きな波乱はなかった。
また、ブラントの姿を確認するも、仕事が忙しく構っている暇はなかった。彼もこちらに視線を送るが、声をかけてくることはなかった。
ときどきマチルダがニヤニヤしながら「サイラス、ナイス」と呟いていたが、何がどうなって『ナイス』なのかは不明だった。
さぁ、最後の大舞台だ。
気を引き締めなくっちゃ!
×××
舞踏会は陛下の挨拶から始まった。
そして、他国の賓客達を驚かせた。
「我が国の王太子、レオン・イエルゴート。そして本日、王太女として立った、マチルダ・イエルゴートを紹介する」
会場は一気にざわめいた。
それもそのはずだ。
本来『国王』は一人だ。
第一王位継承者を『王太子』もしくは『王太女』と呼称するのが一般的だ。
それなのに、『王太子』と『王太女』を紹介するなど前代未聞だ。
「ご静粛に。本来、国王は一人だと考えるのが普通でしょう。しかし、イエルゴート王国の次代は、二頭政治と成ることを発表します」
二頭政治。
聞きなれない言葉に、会場はざわめく。
そんな中、マチルダが話し出した。
二頭政治とは、国王が二人いる状態だと説明し始めた。
レオン王太子殿下は軍部を統括する総帥兼国王として仕事を担い、マチルダが内政の大きな舵取りを担う女王として国を統治するのだ。
今はない国だが、二頭政治で飛躍的に繁栄した国の歴史を説明した。
会場はマチルダの説明に酔いしれるように、称賛の声がちらほらと聞こえた。
「その国で、二頭政治が成功したのは、国王と女王が夫婦だったから成立した話です。あえてマチルダ王女殿下が王太女になる必要はないのではありませんか?それよりも、他国との関係強化の為にご結婚する切り札を捨てるのはいかがなものでしょう?」
ヘンリー王だ。
他国の政治に口を挟むのは、周辺国との取り決めでご法度とされている。内政不干渉条約を軽視する事だ。
案の定、場の雰囲気が一気に悪くなった。
「ヘンリー王。これは我が国の方針です。貴方に意見される謂れはありませんわ」
マチルダは鋭い視線をぶつけている。
しかし、ヘンリー王は揺るがない。
「意見ではありません。私は求婚しているのです。貴女に。マチルダ王女」
堂々とした告白だ。
女性陣から黄色い声が上がった。
「私は幼い頃から、貴女をお慕いしていました。そして、何度も婚約の申込をしてきましたが、すげなく断られていました。それでも、諦められないのです。あの頃の私は、貴女ほど美しく、聡明な女性をもらい受けるには、不相応な男だったでしょう。ですが、貴女と並び立てるよう、私なりに努力してきました。そして、オルトハット王国の王となり、貴女を迎えに来たのです」
ヘンリー王は前に進み出た。
「王族の結婚は国に繁栄をもたらすべきです。陛下、我が国は期待を裏切りません」
陛下はニヤニヤとマチルダを横目で見た。
ヘンリー王がこういう行動に出ることは予想していたようだ。マチルダは冷めた目で陛下を一瞬見た。
「マチルダ王女と婚姻したあかつきには、両国の関税を一部引き下げ、貿易をより快適に出来るようにするのはどうでしょうか?また、イエルゴート王国が輸入に頼っているヒトポポ草やカイバク草などを、優先的に輸出する事も提示できます」
ヒトポポ草は傷を癒す回復薬の原料で、カイバク草は植物系の魔物から受けた麻痺を改善する麻痺回復薬の原料だ。
『などを』と言っているのを見ると、他にも貴重な薬草も準備があるように見える。
ヒトポポ草を育てるには日照時間が鍵を握っている。雨が多いイエルゴート王国では栽培が難しく、ヒトポポ草を使用しない回復薬を作る研究も進めているが、結果は芳しくない。
もしもイエルゴート王国を侵略しようとするなら、ヒトポポ草の供給源を経つことが最も効果的と噂される。
まぁ、世界最強と称される軍部を相手に、喧嘩を吹っ掛ける国はない。私は知らないが、極秘の暗殺部隊があると噂も、公然の秘密として各国で囁かれているらしい。
ヒトポポ草の安定供給は、国にとって大きな利益と言えるだろう。
マチルダが女王に即位して国を安定させる事と、死活問題のヒトポポ草の安定供給。どちらを優先させるべきかは、誰もがヒトポポ草と答えるだろう。
レオン王太子殿下は武術に非常に優れている。統治者としての手腕か少し不安視される時もあるが、国王の器として申し分ない人物だ。
わざわざ二頭政治にしなくても、イエルゴート王国は揺るがない。
「私と結婚、していただけますね」
ヘンリー王は余裕の笑みで、マチルダに手を差し出した。
「お断り致しますわ」
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