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14話 後の祭り(ブラント視点)
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「なんだと!!」
俺は朝一に王宮から届いた知らせに、驚いて大声を上げた。
エスメローラがオルトハット王国の貴族籍を抜けて、イエルゴート王国の公爵家の養女として旅立ったと、ふざけた知らせだった。
「急いでマルマーダ伯爵家に使いを出せ。エスメローラの所在を確認するんだ!」
「はっ、はい!」
王宮からの知らせを持ってきた老執事に、怒鳴りながら命令をした。
完全な八つ当たりだが、自分を押さえられなかった。
「くそっ!」
俺は苛立ちながら身支度を整える。
急いでヘンリーに会って、状況を確認しなければ!貴族籍を抜けるにしても、他国の公爵家の養女になるにしても、1日2日で整う話ではない。それに、承認されるには王族の許しが必要だ。
もしも、ヘンリーが俺を裏切っていたのなら、ただでは済まさない!
支度もそこそこで、ヘンリーの執務室に俺はやって来た。
「ヘンリー!」
中に入って驚いた。
ヘンリーは執務机で頭を抱え、仕事仲間のテッドやルーカスが青白い顔で部屋に居たのだ。
「ブラント……。お前もか?」
ルーカスが青白い顔で聞いてきた。
嫌な予感がするが、何があったんだ……。
「俺……婚約破棄になるかも」
ルーカスが力ない声で言った。
「勘当される……」
テッドも答えた。
「ヘンリー……どうなってるんだ」
執務机で頭を抱えるヘンリーに近づき、話しかけた。
「……マチルダにやられた」
「はぁ?」
ヘンリーはポツリポツリと語った。
卒業パーティー直前に、イエルゴート王国のマチルダ王女殿下が秘密裏に陛下と謁見したらしい。
そのときに、エスメローラ・マルマーダ伯爵令嬢をオルトハット王国の貴族籍から抜き、イエルゴート王国のアルデバイン公爵家の養女にすることを求めたそうだ。
その見返りとして、卒業パーティーで起こる断罪劇の詳細を伝えていたそうだ。
ヘンリーが側妃の悪事ごと、国王陛下を退位まで追い込む事も、見透かされていた。
そして――
「これだ……」
――執務机に2個の水晶玉と書類を出した。
そこには、あの中庭で女子生徒と淫らな行いをする男子生徒が映し出されていた。
「ルーカス……」
「あのときは、魔が差したんだ……。決してナンシーから心移りしたわけではないんだ!ただ!……ただ、魔が差した。もちろん挿入はしてない!素ま――」
「やめろ、耳が腐る」
ヘンリーが底冷えするような声で制止した。
テッドが映る映像はカジノで羽目を外す姿が映し出されていた。
書類には俺やルーカス、テッド、他の側近2名が行った行為が書かれていた。
違法カジノでイカサマをして、一般人の客を面白半分で破滅させた事や、違法競売で美しい女性を競り落として、人権侵害も甚だしいおぞましい行為をしていたなどが目についた。
まさかこんなことを……。
ヘンリーに目を向けると、首を横に振った。どうやらヘンリーも知らなかったようだ。
「側妃は処刑が決まった。腹の子供は父上の子ではないと自白したらしい……。本来なら父上には退位してもらうはずだったが、側妃の悪事を探る際の捜査方法が問題だと指摘された。婚約者がいる青年に色仕掛けで情報を集めさせたこと。潜入捜査なのに、貴族の品位を貶めるような野蛮な行動をさせたこと。など、……やり方が下劣で卑劣。上に立つには情緒的情操教育が欠落しているので、それを補えるまで王太子権限を凍結すると通達された。ルーカス、テッド、他のヤツも素行が悪いと家に対して通達が出た。この二人の家にはこの証拠映像が一緒に送られたそうだ。……はぁ、みんなの行動を全部把握できてなかった俺の落ち度だ。参ったよ」
この国の王太子が自分の後ろ楯になっているからと、気が大きくなっていたんだろう。
本来の目的、政敵の側妃様は排除に成功したが、陛下の退位まで持ち込むことは出来ず、逆にやり方を指摘されてこちらを押さえ込まれた。ルーカスにテッド、他のヤツも家に知られ、立場を危うくしていると言うことか……。
「みんな崖っぷちだな。ブラントはどうなんだ?婚約者はお前にベタ惚れなんだろ?早く引き留めに行かないと愛想尽かされるんじゃないか?」
ルーカスが言った。
「……エスメローラは国を出た」
「は?」
「もう、船に乗って国を出た。そうだよな、ヘンリー」
ヘンリーは視線を合わせない。
『出国禁止令を出せば、何処にも逃げられない。安心しろブラント』
昨日のヘンリーのあっけらかんとした笑顔が、今は恨めしく思う。
まさか……家族を捨てるなんて思わなかった。
「それって……」
テッドが青い顔をしている。
「そうだよ……。エスメローラに……捨てられた」
「おいおい、マジかよ!」
全員の視線がヘンリーに集まった。
「……ククク……本当、マチルダにやられたな」
もしも空気を見ることが出来たなら、ヘンリーのまとう空気の色は、どす黒い赤い炎なんだろうな……。
「いいじゃないか。その挑戦、受けて立ってやる!」
「なんか、変なスイッチ入ったな」
テッドがポツリと言った。
「マチルダ王女がヘンリーの初恋だろ」
ルーカスも会話に加わった。
「あぁ、近隣諸国の王が一同に集まる世界会議で知り合って、一目惚れしたらしい」
あの時、世界会議が開かれたイエルゴート王国に、陛下の護衛として父上が行っていたので、何となく話は聞いていた。
当時10歳のマチルダ王女に一目惚れしたヘンリーだったが、素直に話しかけることが出来ず、演技臭い笑顔を嫌われたらしい。
しかも、ひねくれヘンリーは王女と接点を持ちたかったからと、彼女が大切にしていたウサギの人形を従者に命じて隠したそうだ。
人形が無いことに泣き出すマチルダ王女に『一緒に探す』と提案し、一時は仲良くなることに成功したと聞いた。
しかし、城の者が人形を隠した従者を目撃していた為、ヘンリーの自作自演が発覚した。言い逃れるために従者が勝手にやったと全責任を擦り付けたが、自分の保身のために下の者を犠牲にする精神が許せないと、マチルダ王女にとことん嫌われたそうだ。
偽りであったとしても、仲良く過ごした時間に見た、マチルダ王女の笑顔が忘れられなかったらしく、ヘンリーはイエルゴート王国に婚約の打診をした。
案の定、ずっと断られている。
しかし、諦めきれないヘンリーは早急に王位を譲り受け、イエルゴート王国が自分を無視出来ない立場と魅力的な交渉を用いて、マチルダ王女を娶ろうと策をこうじていた。
余談だが、イエルゴート王国は雨が多く、気温が安定しない土地だ。
日照時間が長くないと育たない薬草は、もっぱら輸入に頼っていると聞く。ヘンリーはその薬草畑を増築し、イエルゴート王国に安値で提供することを条件に、マチルダ王女との婚姻を引き出そうとしていたのだ。
今回の王太子権限の凍結は、ヘンリーの計画に大打撃となった。
「ここまではしたくなかったんだが……父上を嵌めて、王位を奪うぞ。みんな、力を貸してくれ。ルーカス、テッド。お前達の家には俺が直接行って事情を話す。悪いようにはしないから安心してくれ。ただ、ルーカスはたぶん誰かに殴られると思うから、それは覚悟しておいてくれ。さすがにあれは貴族として品位を疑うレベルだ」
「あぁ、わかった。すまない」
「ブラント。彼女はマチルダの侍女になるためにイエルゴート王国に行ったと考えてる。マチルダを娶れば、マルマーダ嬢も一緒に来るはずだ。いや、来させて見せる。だから、もう一度力を貸してくれ」
ヘンリーは真っ直ぐな瞳でこちらを見た。
決意を固めた男の目だ。
「……わかった」
エスメローラを取り戻すのに、他の手立てが思い付かない。それなら、可能性のあるヘンリーの策に乗るしかないと、俺は提案を承諾した。
「一年だ。一年以内に王位を引き継ぎ、マチルダにオルトハット王国の地を踏ませてやる」
俺は朝一に王宮から届いた知らせに、驚いて大声を上げた。
エスメローラがオルトハット王国の貴族籍を抜けて、イエルゴート王国の公爵家の養女として旅立ったと、ふざけた知らせだった。
「急いでマルマーダ伯爵家に使いを出せ。エスメローラの所在を確認するんだ!」
「はっ、はい!」
王宮からの知らせを持ってきた老執事に、怒鳴りながら命令をした。
完全な八つ当たりだが、自分を押さえられなかった。
「くそっ!」
俺は苛立ちながら身支度を整える。
急いでヘンリーに会って、状況を確認しなければ!貴族籍を抜けるにしても、他国の公爵家の養女になるにしても、1日2日で整う話ではない。それに、承認されるには王族の許しが必要だ。
もしも、ヘンリーが俺を裏切っていたのなら、ただでは済まさない!
支度もそこそこで、ヘンリーの執務室に俺はやって来た。
「ヘンリー!」
中に入って驚いた。
ヘンリーは執務机で頭を抱え、仕事仲間のテッドやルーカスが青白い顔で部屋に居たのだ。
「ブラント……。お前もか?」
ルーカスが青白い顔で聞いてきた。
嫌な予感がするが、何があったんだ……。
「俺……婚約破棄になるかも」
ルーカスが力ない声で言った。
「勘当される……」
テッドも答えた。
「ヘンリー……どうなってるんだ」
執務机で頭を抱えるヘンリーに近づき、話しかけた。
「……マチルダにやられた」
「はぁ?」
ヘンリーはポツリポツリと語った。
卒業パーティー直前に、イエルゴート王国のマチルダ王女殿下が秘密裏に陛下と謁見したらしい。
そのときに、エスメローラ・マルマーダ伯爵令嬢をオルトハット王国の貴族籍から抜き、イエルゴート王国のアルデバイン公爵家の養女にすることを求めたそうだ。
その見返りとして、卒業パーティーで起こる断罪劇の詳細を伝えていたそうだ。
ヘンリーが側妃の悪事ごと、国王陛下を退位まで追い込む事も、見透かされていた。
そして――
「これだ……」
――執務机に2個の水晶玉と書類を出した。
そこには、あの中庭で女子生徒と淫らな行いをする男子生徒が映し出されていた。
「ルーカス……」
「あのときは、魔が差したんだ……。決してナンシーから心移りしたわけではないんだ!ただ!……ただ、魔が差した。もちろん挿入はしてない!素ま――」
「やめろ、耳が腐る」
ヘンリーが底冷えするような声で制止した。
テッドが映る映像はカジノで羽目を外す姿が映し出されていた。
書類には俺やルーカス、テッド、他の側近2名が行った行為が書かれていた。
違法カジノでイカサマをして、一般人の客を面白半分で破滅させた事や、違法競売で美しい女性を競り落として、人権侵害も甚だしいおぞましい行為をしていたなどが目についた。
まさかこんなことを……。
ヘンリーに目を向けると、首を横に振った。どうやらヘンリーも知らなかったようだ。
「側妃は処刑が決まった。腹の子供は父上の子ではないと自白したらしい……。本来なら父上には退位してもらうはずだったが、側妃の悪事を探る際の捜査方法が問題だと指摘された。婚約者がいる青年に色仕掛けで情報を集めさせたこと。潜入捜査なのに、貴族の品位を貶めるような野蛮な行動をさせたこと。など、……やり方が下劣で卑劣。上に立つには情緒的情操教育が欠落しているので、それを補えるまで王太子権限を凍結すると通達された。ルーカス、テッド、他のヤツも素行が悪いと家に対して通達が出た。この二人の家にはこの証拠映像が一緒に送られたそうだ。……はぁ、みんなの行動を全部把握できてなかった俺の落ち度だ。参ったよ」
この国の王太子が自分の後ろ楯になっているからと、気が大きくなっていたんだろう。
本来の目的、政敵の側妃様は排除に成功したが、陛下の退位まで持ち込むことは出来ず、逆にやり方を指摘されてこちらを押さえ込まれた。ルーカスにテッド、他のヤツも家に知られ、立場を危うくしていると言うことか……。
「みんな崖っぷちだな。ブラントはどうなんだ?婚約者はお前にベタ惚れなんだろ?早く引き留めに行かないと愛想尽かされるんじゃないか?」
ルーカスが言った。
「……エスメローラは国を出た」
「は?」
「もう、船に乗って国を出た。そうだよな、ヘンリー」
ヘンリーは視線を合わせない。
『出国禁止令を出せば、何処にも逃げられない。安心しろブラント』
昨日のヘンリーのあっけらかんとした笑顔が、今は恨めしく思う。
まさか……家族を捨てるなんて思わなかった。
「それって……」
テッドが青い顔をしている。
「そうだよ……。エスメローラに……捨てられた」
「おいおい、マジかよ!」
全員の視線がヘンリーに集まった。
「……ククク……本当、マチルダにやられたな」
もしも空気を見ることが出来たなら、ヘンリーのまとう空気の色は、どす黒い赤い炎なんだろうな……。
「いいじゃないか。その挑戦、受けて立ってやる!」
「なんか、変なスイッチ入ったな」
テッドがポツリと言った。
「マチルダ王女がヘンリーの初恋だろ」
ルーカスも会話に加わった。
「あぁ、近隣諸国の王が一同に集まる世界会議で知り合って、一目惚れしたらしい」
あの時、世界会議が開かれたイエルゴート王国に、陛下の護衛として父上が行っていたので、何となく話は聞いていた。
当時10歳のマチルダ王女に一目惚れしたヘンリーだったが、素直に話しかけることが出来ず、演技臭い笑顔を嫌われたらしい。
しかも、ひねくれヘンリーは王女と接点を持ちたかったからと、彼女が大切にしていたウサギの人形を従者に命じて隠したそうだ。
人形が無いことに泣き出すマチルダ王女に『一緒に探す』と提案し、一時は仲良くなることに成功したと聞いた。
しかし、城の者が人形を隠した従者を目撃していた為、ヘンリーの自作自演が発覚した。言い逃れるために従者が勝手にやったと全責任を擦り付けたが、自分の保身のために下の者を犠牲にする精神が許せないと、マチルダ王女にとことん嫌われたそうだ。
偽りであったとしても、仲良く過ごした時間に見た、マチルダ王女の笑顔が忘れられなかったらしく、ヘンリーはイエルゴート王国に婚約の打診をした。
案の定、ずっと断られている。
しかし、諦めきれないヘンリーは早急に王位を譲り受け、イエルゴート王国が自分を無視出来ない立場と魅力的な交渉を用いて、マチルダ王女を娶ろうと策をこうじていた。
余談だが、イエルゴート王国は雨が多く、気温が安定しない土地だ。
日照時間が長くないと育たない薬草は、もっぱら輸入に頼っていると聞く。ヘンリーはその薬草畑を増築し、イエルゴート王国に安値で提供することを条件に、マチルダ王女との婚姻を引き出そうとしていたのだ。
今回の王太子権限の凍結は、ヘンリーの計画に大打撃となった。
「ここまではしたくなかったんだが……父上を嵌めて、王位を奪うぞ。みんな、力を貸してくれ。ルーカス、テッド。お前達の家には俺が直接行って事情を話す。悪いようにはしないから安心してくれ。ただ、ルーカスはたぶん誰かに殴られると思うから、それは覚悟しておいてくれ。さすがにあれは貴族として品位を疑うレベルだ」
「あぁ、わかった。すまない」
「ブラント。彼女はマチルダの侍女になるためにイエルゴート王国に行ったと考えてる。マチルダを娶れば、マルマーダ嬢も一緒に来るはずだ。いや、来させて見せる。だから、もう一度力を貸してくれ」
ヘンリーは真っ直ぐな瞳でこちらを見た。
決意を固めた男の目だ。
「……わかった」
エスメローラを取り戻すのに、他の手立てが思い付かない。それなら、可能性のあるヘンリーの策に乗るしかないと、俺は提案を承諾した。
「一年だ。一年以内に王位を引き継ぎ、マチルダにオルトハット王国の地を踏ませてやる」
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