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5話 決戦前
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マチルダとサラ様と夕食を共にした。
その後、マチルダの希望で二人で大浴場に入った。残念ながら、サラ様は用事があるらしく、ご一緒出来なかった。
大浴場は大理石が敷き詰められ、豪華絢爛な場所だった。
お風呂も上がり、マチルダと寝る前のお茶を楽しんでいると、誰かが部屋をノックした。
「エスメローラに早馬が来ました」
サラ様の声だ。
「例の者からの手紙だそうです。花束もあったそうですが、いつもと同じものと言えばわかると伝令が言ってました。花束は持ってきていません」
赤いバラ11本の花束だろう。
『愛しいエスメローラへ。Bより』
文面もきっと一緒なのだろう。
「手紙は?」
「こちらに」
ドアの下から手紙が差し込まれた。
「殿下の読み通り『明日会いに行く』といった内容です。公爵家からの手紙なので、伯爵夫人の使いが早馬で手紙を持ってきました。急ぎ返答を送ってほしいとのこと」
「彼、ずいぶんと身軽に行動するのね」
「余裕がないのかと推測します」
「でしょうね。今更慌てても遅いのに、滑稽ね。エスメローラ、どうする?」
マチルダは私に手紙を渡した。
『愛するエスメローラ
久しぶり。
この3年は、1日が100日あるのかと思うほど、とても長く、辛かった。
君も同じ気持ちだったかな?
学院に入ったとき、君を守るために婚約を公にしなかったが、卒業パーティーで正式に公表しようと思うんだが、どうだろう?
君のためにドレスも準備したから、明日屋敷に持って行くね。
ブラントより』
思わず手紙を握りつぶしそうになった。
本当、今更ね。
守るため?ただ、学院に入って羽目を外したかっただけでしょ。
同じ学院なのだから、会おうと思えばいくらでも会えたはずだ。手紙だって、こんなに簡単に送ってこれるんじゃない。
嘘つき……。
「明日、会うわ」
「……向き合うの?」
「卒業パーティー前に、煩わしい男と決着をつけてやる」
「……そう。わかったわ。わたくしはエスメローラの味方よ。うまくいかなくても、わたくしが貴女を攫ってあげるわ」
「マチルダ、格好良すぎよ。貴女の事、違う意味で好きになっちゃうじゃない」
「光栄ね」
マチルダは私のおでこにキスをした。
慈悲深い微笑みに、ドキドキとときめいてしまったのは、仕方ないだろう。
×××
ブラントとは夕方に会うと連絡し、私達三人で町を散策している。
せっかく気分転換に誘ってくれたのだ。ブラントより優先するのが当たり前だ。
「あっ!このカチューシャ可愛いわね!」
「うん。マチルダに似合ってるよ」
マチルダは金色のカチューシャを嬉しそうに頭に着けた。
「このブローチ、素敵じゃない?」
マチルダは黒真珠のブローチを手にした。
金細工で花を形取り、真ん中に大粒の黒真珠があしらわれている。
とても素敵だが、見るからに高そうだ。
「素敵だけど、ちょっと手に取りにくいわね」
「そう?こんなの普通でしょ。ね、サラ」
「はい。普段使いにしても良いですね」
さすが王女様ね……。
このブローチが普段使いなんて……。
こういう感覚も、マチルダ王女殿下に仕えるなら、習得しておかなくちゃ!
頑張るぞ!
「本当、エスメローラって考えてる事が顔に出るわね」
「そこが可愛いのですが、心配になります」
「……早くイエルゴートに連れて帰りたいわ」
「独り占めはさせませんからね」
「どの口が言うんだか。もう準備は出来てるのでしょ?」
「ご両親に話を通しています。ただ、エヴァンス公子の出方次第で決めたいと」
「可愛い娘を手放したくはないものね。かといって、娘が不幸な結婚するのを見過ごすことは出来ないって事かしら?」
「はい」
「あちらの首尾はどうなの?」
「整ったようです。おそらく、卒業パーティーに仕掛けると思われます。余裕が出来たので、彼はエスメローラに接触してきたのでしょう」
「……本当、バカよね。それとも驕りかしら?」
「驕りですね。婚約者を約3年放置し、プレゼントは11本の赤いバラを定期的に贈ることしかしなかったトウヘンボクですから」
「……最も愛しい人よ。変わらない愛を貴女に贈ります……って事かしらね」
「……自己中男の独り善がりな愛ですよ。どんなに愛し合っている夫婦でも、信頼関係と心を通わさなければ破綻します。『彼女は自分をいつまでも愛し、待っていてくれる』男の甘い妄想です。昔から男はロマンチストで女は現実主義だって言うじゃないですか」
「それは個人によるわね」
「……まぁ、エヴァンス公子はロマンチストでしょ」
「それは否定しないわ」
「マチルダ~!サラ様~」
私が呼ぶと、二人は難しい顔を止めてニッコリと微笑んだ。
二人は何かしゃべっていたが、声が小さかったので聞こえなかった。
×××
楽しい時間はあっと言う間だ。
買い物して、ランチして、植物園を散策して。
3人で楽しく遊ぶことが出来た。
決戦の為、マチルダとサラ様が私を屋敷まで送ってくれた。
馬車の中で、マチルダからあの黒真珠のブローチを渡された。
『こんな高価な物、もらえないわ!』
『今日の記念よ。ね、サラ』
『えぇ。とても似合っていますよ、エスメローラ』
『……ありがとう』
『エスメローラ。笑顔は淑女の武器です。感情が溢れそうになったときほど、腹に力を入れて、姿勢よく、優雅に笑いなさい』
『はい。サラ様』
『良い笑顔です』
サラ様もマチルダに負けないくらい、微笑みが美しいのよね。いつも見惚れてしまうわ。
いざ、決戦よ!!
その後、マチルダの希望で二人で大浴場に入った。残念ながら、サラ様は用事があるらしく、ご一緒出来なかった。
大浴場は大理石が敷き詰められ、豪華絢爛な場所だった。
お風呂も上がり、マチルダと寝る前のお茶を楽しんでいると、誰かが部屋をノックした。
「エスメローラに早馬が来ました」
サラ様の声だ。
「例の者からの手紙だそうです。花束もあったそうですが、いつもと同じものと言えばわかると伝令が言ってました。花束は持ってきていません」
赤いバラ11本の花束だろう。
『愛しいエスメローラへ。Bより』
文面もきっと一緒なのだろう。
「手紙は?」
「こちらに」
ドアの下から手紙が差し込まれた。
「殿下の読み通り『明日会いに行く』といった内容です。公爵家からの手紙なので、伯爵夫人の使いが早馬で手紙を持ってきました。急ぎ返答を送ってほしいとのこと」
「彼、ずいぶんと身軽に行動するのね」
「余裕がないのかと推測します」
「でしょうね。今更慌てても遅いのに、滑稽ね。エスメローラ、どうする?」
マチルダは私に手紙を渡した。
『愛するエスメローラ
久しぶり。
この3年は、1日が100日あるのかと思うほど、とても長く、辛かった。
君も同じ気持ちだったかな?
学院に入ったとき、君を守るために婚約を公にしなかったが、卒業パーティーで正式に公表しようと思うんだが、どうだろう?
君のためにドレスも準備したから、明日屋敷に持って行くね。
ブラントより』
思わず手紙を握りつぶしそうになった。
本当、今更ね。
守るため?ただ、学院に入って羽目を外したかっただけでしょ。
同じ学院なのだから、会おうと思えばいくらでも会えたはずだ。手紙だって、こんなに簡単に送ってこれるんじゃない。
嘘つき……。
「明日、会うわ」
「……向き合うの?」
「卒業パーティー前に、煩わしい男と決着をつけてやる」
「……そう。わかったわ。わたくしはエスメローラの味方よ。うまくいかなくても、わたくしが貴女を攫ってあげるわ」
「マチルダ、格好良すぎよ。貴女の事、違う意味で好きになっちゃうじゃない」
「光栄ね」
マチルダは私のおでこにキスをした。
慈悲深い微笑みに、ドキドキとときめいてしまったのは、仕方ないだろう。
×××
ブラントとは夕方に会うと連絡し、私達三人で町を散策している。
せっかく気分転換に誘ってくれたのだ。ブラントより優先するのが当たり前だ。
「あっ!このカチューシャ可愛いわね!」
「うん。マチルダに似合ってるよ」
マチルダは金色のカチューシャを嬉しそうに頭に着けた。
「このブローチ、素敵じゃない?」
マチルダは黒真珠のブローチを手にした。
金細工で花を形取り、真ん中に大粒の黒真珠があしらわれている。
とても素敵だが、見るからに高そうだ。
「素敵だけど、ちょっと手に取りにくいわね」
「そう?こんなの普通でしょ。ね、サラ」
「はい。普段使いにしても良いですね」
さすが王女様ね……。
このブローチが普段使いなんて……。
こういう感覚も、マチルダ王女殿下に仕えるなら、習得しておかなくちゃ!
頑張るぞ!
「本当、エスメローラって考えてる事が顔に出るわね」
「そこが可愛いのですが、心配になります」
「……早くイエルゴートに連れて帰りたいわ」
「独り占めはさせませんからね」
「どの口が言うんだか。もう準備は出来てるのでしょ?」
「ご両親に話を通しています。ただ、エヴァンス公子の出方次第で決めたいと」
「可愛い娘を手放したくはないものね。かといって、娘が不幸な結婚するのを見過ごすことは出来ないって事かしら?」
「はい」
「あちらの首尾はどうなの?」
「整ったようです。おそらく、卒業パーティーに仕掛けると思われます。余裕が出来たので、彼はエスメローラに接触してきたのでしょう」
「……本当、バカよね。それとも驕りかしら?」
「驕りですね。婚約者を約3年放置し、プレゼントは11本の赤いバラを定期的に贈ることしかしなかったトウヘンボクですから」
「……最も愛しい人よ。変わらない愛を貴女に贈ります……って事かしらね」
「……自己中男の独り善がりな愛ですよ。どんなに愛し合っている夫婦でも、信頼関係と心を通わさなければ破綻します。『彼女は自分をいつまでも愛し、待っていてくれる』男の甘い妄想です。昔から男はロマンチストで女は現実主義だって言うじゃないですか」
「それは個人によるわね」
「……まぁ、エヴァンス公子はロマンチストでしょ」
「それは否定しないわ」
「マチルダ~!サラ様~」
私が呼ぶと、二人は難しい顔を止めてニッコリと微笑んだ。
二人は何かしゃべっていたが、声が小さかったので聞こえなかった。
×××
楽しい時間はあっと言う間だ。
買い物して、ランチして、植物園を散策して。
3人で楽しく遊ぶことが出来た。
決戦の為、マチルダとサラ様が私を屋敷まで送ってくれた。
馬車の中で、マチルダからあの黒真珠のブローチを渡された。
『こんな高価な物、もらえないわ!』
『今日の記念よ。ね、サラ』
『えぇ。とても似合っていますよ、エスメローラ』
『……ありがとう』
『エスメローラ。笑顔は淑女の武器です。感情が溢れそうになったときほど、腹に力を入れて、姿勢よく、優雅に笑いなさい』
『はい。サラ様』
『良い笑顔です』
サラ様もマチルダに負けないくらい、微笑みが美しいのよね。いつも見惚れてしまうわ。
いざ、決戦よ!!
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