26 / 122
間章(1)
エピソード0(前)
しおりを挟む
変なことをしているひとがいるな、と思った。
人気のない王宮の裏手の森の中をふらふらと歩く、灰色ローブの魔導士。
背格好から男性のように見える。
顔はフードですっかり隠しており、判然としない。
歩き回って、木に手をあて、しばらく佇んでから移動する。
(何をしているのだろう)
そのひとに偶然気付いて、なぜか気になって、いつの間にかどこにいるか探すようになっていた。
時々、王宮ですれ違う。
きっと相手は、自分のことを知らない。
(でも、僕はあなたを知っている)
すれ違うとき、気付いていることを気付かれたくなくて、目を伏せる。
或いは、誰かと一緒のときは無理にはしゃいで、笑い声をあげながら通り過ぎる。
(本当は僕に気付いて欲しい)
馬鹿みたいに騒いですれ違うときに、さりげなく、連れに名前を呼ばせるように仕向ける。
ほんのひとかけらでもその人の耳に入ることを願って。
(あなたが誰なのかわからないから、こんなことしかできない)
一度も話したことがないのに、気になるのはどうしてだろう。
遠くからときどき姿を見かけるだけ。顔も名前も知らない。それなのに、ふと我に返ると考えている。心の多くを占めている。
(本人と話してみよう)
決断するまでには半年以上かかった。
時同じく、近衛騎士として鍛錬に鍛錬を重ねても伸び悩んでいた時期だった。悩みが多すぎる。
そこからはもう、善は急げ。走れ。
* * *
その人は、よく王宮の裏手の森にいる。
その日も、探すまでもなく見つかった。
それが、なんとなく自分を待っていたようにも思えた。勝手に、そう解釈することにした。
「いつも何をしているんですか?」
この一言まで半年。連日連夜頭の中でシミュレーションしすぎて、こんなあっさり言って良かった? と謎の動揺に襲われつつ、返答を待った。
「木の病気をみてる……。たまに瘴気が絡んでるのがいて」
灰色魔導士は本当に何気なく返事をした。
(この人、しゃべるんだ)
今まで人といるところを見たことがなく、声を聞いたのも初めてだった。
恐ろしく澄んだ、硬質な声。
見た目のぼさっとした印象とは違うその声質に、内心かなり戸惑った。
「それが仕事なんですか」
「仕事ではない。病んだ木の上で寝ると寝心地が悪くて。自分の寝る木だけ無事でいればいいかっていうと、そういうわけでもなく。うつるのかな。具合が悪いのがこの森のどこかにいると、なんとなくおさまりが悪い」
(仕事じゃなく、誰も見ていないのにやってるのか。本当に誰も見ていないんだよ。それとなくいろんな人に灰色魔導士のこと聞いたのに、誰もぴんときてなかったもん。誰の何の話? って。絶対出世しないよ)
動機は自分の為っぽいけど。
「木の上で寝るんですか」
「下で寝るよりは落ち着く」
「さぼっているんですか」
「そうとも言えるが、そういう君は今何をしているんだ?」
(あ、開き直った)
「僕は今日、非番なんです。近衛騎士のクライスといいます」
「知ってる」
クライスはそこで、目を瞠った。
(知ってる? 今まで話したこともないのに? どこで知る機会があったの? 知ってるって、名前と顔が一致してるってこと!? なんで!?)
頭の中がぐるぐるしすぎて、言葉にならない。
「初対面ですよね」
苦し紛れに、苦し紛れでしかないことを言った。
「話すのは初めてだ。今まで何度もすれ違ったことはある。近衛騎士が訓練しているところを見たこともある。それに君は、この森にもよく来ていただろう。君こそ、何をしに来ていたんだ? 良い昼寝の場所が知りたいというなら、そうだな……」
明瞭かつ涼やかな声ですらすら話す相手を前に、呆然としてしまった。
自分の悩み抜いた半年ががらがらと崩れる中、つい八つ当たりめいたことを口走ってしまう。
「気付いていたなら一度くらい声をかけてくれても良かったのでは!?」
「声をかけた方が良かったのか?」
「なんで無視してたの!?」
(ああもう、これ完全に八つ当たり……! 僕の馬鹿!)
「用がなかったから、かな」
(わかる。仕事上の絡みもないし、知り合いでもないからねっ)
「挨拶は? 同じ王宮勤めとして」
「今後はそうしよう」
喧嘩腰で言われたことなど、なんでもないかのように灰色魔導士は請け負う。余裕。
(僕は半年もかかったのに)
「僕はあなたの名前も知らない」
「リュートだ」
「なんでいつも顔を隠しているんですか」
「顔が仕事をするわけじゃないから」
「僕は、防犯上の理由から気になります。たとえば、あなたの中身が曲者にすり変わっていたりとか、或いはあなたの恰好を真似て王宮の中を歩き回る曲者がいても、すぐにはわからないじゃないですか。そういうの、良くないと思います」
「なるほど、近衛騎士的理由からか」
リュートはフードに手をかけてから、言った。
「君には見せよう。俺はこの顔をさらして歩き回る気はないが、何かあった際の面通しの為であれば致し方ない」
波打つ銀の髪がこぼれ、あらわになったのは──
人を射抜く、鋭い光を放つ翡翠の瞳。見つめられると、息が止まる。
瞳だけではない。
その顔だちの麗しさは、これまで見た誰よりも研ぎ澄まされていて、別世界の生き物を思わせた。
「人間の中に混じるには、いささか派手な顔らしい。いらぬ注目を集めたくはない。君以外にはもう誰にも見せる気がない」
そのときの僕は。
君以外には、という言葉のスペシャル感に酔う余裕もないほどにその素顔に打ちのめされていて。
本当に、呼吸も瞬きもできないでいた。
「たしかに派手、ですね。ちょっとひきました」
「本人を前にして言うなよ。傷ついたらどうするんだ」
「ごめんなさい。その顔だと……、生きるのが大変そう。僕程度でも、女に見えるとか本当は女なんじゃないか確かめさせろと、しつこく言われています。特徴のある顔って、面倒かなって」
眼光が鋭すぎる瞳。
目を逸らしながら言うと、顎を掴まれて強引に顔を前に向けられた。
心臓が、跳ねる。
「たしかにお前、女顔だな」
目を見たら力を奪われてしまい、手を払いのけることもできず。
女顔だ、なんて認めるわけにはいかないのに。
断罪されるのを待つように見上げてしまう。
リュートは、それ以上何を言うでもなく、顎から手を離して、だるそうに近場の木に背を預けてもたれかかった。
決定的なことを言われなかったことにクライスはほっとしつつも、手を離されてしまったことを少しだけ惜しむ気持ちが湧いていて、そんな自分に密かに動揺した。
「せっかくですから、今度昼寝しやすい木を教えてください」
「さぼるのか?」
「一緒にしないでください、時間のあるときに来るだけです。あなたは明日もここにいますか?」
「いるだろうな。よそに行く理由がない」
(仕事は!?)
つっこみたいことは多々あったものの、それ以上話すとぼろが出そうだったので、この辺にしておこう、とクライスは身を引く。
「では。また明日」
別れの言葉に約束を込めて。
その日はその足で、城下の雑貨屋で黒縁の眼鏡を買った。
(あの顔は何かの拍子に露出したら大変まずい。使ってもらえると良いんだけど。いきなり贈り物ってどうなんだろう。受け取ってくれないかなー。どうしよー)
思い付きだけで慣れないことして、何やってんだろうって。
その反面、渡したらどんな反応するかも気になり、次の日、ほんの隙間時間に会いに行くのが待ち遠しくて仕方なかった。
今日、もっと話せば良かった。
そんなことを考えながら眠りに落ちた。
* * * * *
(いまの、クライス……? 珍しいな、だいたいいつも誰かと一緒なのに、一人で)
雑貨屋を出て行った赤毛を見て、黒髪の青年は軽く首を傾げた。
見たことも無いくらい、楽しそうな横顔。
雑踏にまぎれて姿が見えなくなるまで見送ってから、雑貨屋のドアを開けて中に足を踏み入れる。
「いらっしゃいませ。おっと、クロノス様」
何度か来た店だったので、白髪頭で好々爺めいた店主は顔をしっかり覚えていたようだった。
「今出て行った赤毛の……。あいつ、何を買ったんだ?」
「ああ、クライス様ですね。いつもは小物類を買われるんですが。今日は眼鏡です。野暮ったく見えるけど、カッコ悪すぎないのがいいとか」
「面倒な注文だな」
思い出し笑いをしている店主に対して、クロノスも苦笑した。
「度が入っていないのが良いというので、変装用でしょうかね」
「野暮ったいけどカッコ悪すぎない、か。結局どれに落ち着いたんだ?」
店主に確認して、クロノスは同じ品物を買い求めた。
たいした理由はない。ただ、クライスの前でその眼鏡をしてみせたら、どんな反応をするだろうと思ったのだ。
(お揃いだなんて、二度と使えないって言ってさっさと処分するかな。しそうだなあいつ。気性激しいし)
包んでもらっている最中、ぼんやり店内を見ていると、店主が何気なく言った。
「クライス様は、どなたかに贈り物にされるみたいでしたね。さりげなく渡したいから包装はしたくないけど、使い古しだと思われたくもないし、と。ずいぶん気を遣われる相手のご様子でした」
「ふーん? わからんな」
クライスの交友関係といえば、近衛騎士でとりわけ仲の良いカインあたりが思い浮かぶが、そこまで気を遣うだろうか。
よくわからないけれど、見覚えのある眼鏡をしていたら、会話のきっかけくらいにはなるかもしれない。
どうもうまく話しかけるきっかけがつかめず、距離を詰め切れない今日この頃、何かの足しになればと。
軽い理由と重い動機で買い求めた黒縁眼鏡をするようになったら、後日クライスに出合い頭にものすごい顔をされたが、特に何も言われなかった……。
反応されたことに気をよくして、その後使い続けることになるのだが。
クロノスが、黒縁眼鏡の贈られた相手を正しく知るのは、まだ先の話である。
人気のない王宮の裏手の森の中をふらふらと歩く、灰色ローブの魔導士。
背格好から男性のように見える。
顔はフードですっかり隠しており、判然としない。
歩き回って、木に手をあて、しばらく佇んでから移動する。
(何をしているのだろう)
そのひとに偶然気付いて、なぜか気になって、いつの間にかどこにいるか探すようになっていた。
時々、王宮ですれ違う。
きっと相手は、自分のことを知らない。
(でも、僕はあなたを知っている)
すれ違うとき、気付いていることを気付かれたくなくて、目を伏せる。
或いは、誰かと一緒のときは無理にはしゃいで、笑い声をあげながら通り過ぎる。
(本当は僕に気付いて欲しい)
馬鹿みたいに騒いですれ違うときに、さりげなく、連れに名前を呼ばせるように仕向ける。
ほんのひとかけらでもその人の耳に入ることを願って。
(あなたが誰なのかわからないから、こんなことしかできない)
一度も話したことがないのに、気になるのはどうしてだろう。
遠くからときどき姿を見かけるだけ。顔も名前も知らない。それなのに、ふと我に返ると考えている。心の多くを占めている。
(本人と話してみよう)
決断するまでには半年以上かかった。
時同じく、近衛騎士として鍛錬に鍛錬を重ねても伸び悩んでいた時期だった。悩みが多すぎる。
そこからはもう、善は急げ。走れ。
* * *
その人は、よく王宮の裏手の森にいる。
その日も、探すまでもなく見つかった。
それが、なんとなく自分を待っていたようにも思えた。勝手に、そう解釈することにした。
「いつも何をしているんですか?」
この一言まで半年。連日連夜頭の中でシミュレーションしすぎて、こんなあっさり言って良かった? と謎の動揺に襲われつつ、返答を待った。
「木の病気をみてる……。たまに瘴気が絡んでるのがいて」
灰色魔導士は本当に何気なく返事をした。
(この人、しゃべるんだ)
今まで人といるところを見たことがなく、声を聞いたのも初めてだった。
恐ろしく澄んだ、硬質な声。
見た目のぼさっとした印象とは違うその声質に、内心かなり戸惑った。
「それが仕事なんですか」
「仕事ではない。病んだ木の上で寝ると寝心地が悪くて。自分の寝る木だけ無事でいればいいかっていうと、そういうわけでもなく。うつるのかな。具合が悪いのがこの森のどこかにいると、なんとなくおさまりが悪い」
(仕事じゃなく、誰も見ていないのにやってるのか。本当に誰も見ていないんだよ。それとなくいろんな人に灰色魔導士のこと聞いたのに、誰もぴんときてなかったもん。誰の何の話? って。絶対出世しないよ)
動機は自分の為っぽいけど。
「木の上で寝るんですか」
「下で寝るよりは落ち着く」
「さぼっているんですか」
「そうとも言えるが、そういう君は今何をしているんだ?」
(あ、開き直った)
「僕は今日、非番なんです。近衛騎士のクライスといいます」
「知ってる」
クライスはそこで、目を瞠った。
(知ってる? 今まで話したこともないのに? どこで知る機会があったの? 知ってるって、名前と顔が一致してるってこと!? なんで!?)
頭の中がぐるぐるしすぎて、言葉にならない。
「初対面ですよね」
苦し紛れに、苦し紛れでしかないことを言った。
「話すのは初めてだ。今まで何度もすれ違ったことはある。近衛騎士が訓練しているところを見たこともある。それに君は、この森にもよく来ていただろう。君こそ、何をしに来ていたんだ? 良い昼寝の場所が知りたいというなら、そうだな……」
明瞭かつ涼やかな声ですらすら話す相手を前に、呆然としてしまった。
自分の悩み抜いた半年ががらがらと崩れる中、つい八つ当たりめいたことを口走ってしまう。
「気付いていたなら一度くらい声をかけてくれても良かったのでは!?」
「声をかけた方が良かったのか?」
「なんで無視してたの!?」
(ああもう、これ完全に八つ当たり……! 僕の馬鹿!)
「用がなかったから、かな」
(わかる。仕事上の絡みもないし、知り合いでもないからねっ)
「挨拶は? 同じ王宮勤めとして」
「今後はそうしよう」
喧嘩腰で言われたことなど、なんでもないかのように灰色魔導士は請け負う。余裕。
(僕は半年もかかったのに)
「僕はあなたの名前も知らない」
「リュートだ」
「なんでいつも顔を隠しているんですか」
「顔が仕事をするわけじゃないから」
「僕は、防犯上の理由から気になります。たとえば、あなたの中身が曲者にすり変わっていたりとか、或いはあなたの恰好を真似て王宮の中を歩き回る曲者がいても、すぐにはわからないじゃないですか。そういうの、良くないと思います」
「なるほど、近衛騎士的理由からか」
リュートはフードに手をかけてから、言った。
「君には見せよう。俺はこの顔をさらして歩き回る気はないが、何かあった際の面通しの為であれば致し方ない」
波打つ銀の髪がこぼれ、あらわになったのは──
人を射抜く、鋭い光を放つ翡翠の瞳。見つめられると、息が止まる。
瞳だけではない。
その顔だちの麗しさは、これまで見た誰よりも研ぎ澄まされていて、別世界の生き物を思わせた。
「人間の中に混じるには、いささか派手な顔らしい。いらぬ注目を集めたくはない。君以外にはもう誰にも見せる気がない」
そのときの僕は。
君以外には、という言葉のスペシャル感に酔う余裕もないほどにその素顔に打ちのめされていて。
本当に、呼吸も瞬きもできないでいた。
「たしかに派手、ですね。ちょっとひきました」
「本人を前にして言うなよ。傷ついたらどうするんだ」
「ごめんなさい。その顔だと……、生きるのが大変そう。僕程度でも、女に見えるとか本当は女なんじゃないか確かめさせろと、しつこく言われています。特徴のある顔って、面倒かなって」
眼光が鋭すぎる瞳。
目を逸らしながら言うと、顎を掴まれて強引に顔を前に向けられた。
心臓が、跳ねる。
「たしかにお前、女顔だな」
目を見たら力を奪われてしまい、手を払いのけることもできず。
女顔だ、なんて認めるわけにはいかないのに。
断罪されるのを待つように見上げてしまう。
リュートは、それ以上何を言うでもなく、顎から手を離して、だるそうに近場の木に背を預けてもたれかかった。
決定的なことを言われなかったことにクライスはほっとしつつも、手を離されてしまったことを少しだけ惜しむ気持ちが湧いていて、そんな自分に密かに動揺した。
「せっかくですから、今度昼寝しやすい木を教えてください」
「さぼるのか?」
「一緒にしないでください、時間のあるときに来るだけです。あなたは明日もここにいますか?」
「いるだろうな。よそに行く理由がない」
(仕事は!?)
つっこみたいことは多々あったものの、それ以上話すとぼろが出そうだったので、この辺にしておこう、とクライスは身を引く。
「では。また明日」
別れの言葉に約束を込めて。
その日はその足で、城下の雑貨屋で黒縁の眼鏡を買った。
(あの顔は何かの拍子に露出したら大変まずい。使ってもらえると良いんだけど。いきなり贈り物ってどうなんだろう。受け取ってくれないかなー。どうしよー)
思い付きだけで慣れないことして、何やってんだろうって。
その反面、渡したらどんな反応するかも気になり、次の日、ほんの隙間時間に会いに行くのが待ち遠しくて仕方なかった。
今日、もっと話せば良かった。
そんなことを考えながら眠りに落ちた。
* * * * *
(いまの、クライス……? 珍しいな、だいたいいつも誰かと一緒なのに、一人で)
雑貨屋を出て行った赤毛を見て、黒髪の青年は軽く首を傾げた。
見たことも無いくらい、楽しそうな横顔。
雑踏にまぎれて姿が見えなくなるまで見送ってから、雑貨屋のドアを開けて中に足を踏み入れる。
「いらっしゃいませ。おっと、クロノス様」
何度か来た店だったので、白髪頭で好々爺めいた店主は顔をしっかり覚えていたようだった。
「今出て行った赤毛の……。あいつ、何を買ったんだ?」
「ああ、クライス様ですね。いつもは小物類を買われるんですが。今日は眼鏡です。野暮ったく見えるけど、カッコ悪すぎないのがいいとか」
「面倒な注文だな」
思い出し笑いをしている店主に対して、クロノスも苦笑した。
「度が入っていないのが良いというので、変装用でしょうかね」
「野暮ったいけどカッコ悪すぎない、か。結局どれに落ち着いたんだ?」
店主に確認して、クロノスは同じ品物を買い求めた。
たいした理由はない。ただ、クライスの前でその眼鏡をしてみせたら、どんな反応をするだろうと思ったのだ。
(お揃いだなんて、二度と使えないって言ってさっさと処分するかな。しそうだなあいつ。気性激しいし)
包んでもらっている最中、ぼんやり店内を見ていると、店主が何気なく言った。
「クライス様は、どなたかに贈り物にされるみたいでしたね。さりげなく渡したいから包装はしたくないけど、使い古しだと思われたくもないし、と。ずいぶん気を遣われる相手のご様子でした」
「ふーん? わからんな」
クライスの交友関係といえば、近衛騎士でとりわけ仲の良いカインあたりが思い浮かぶが、そこまで気を遣うだろうか。
よくわからないけれど、見覚えのある眼鏡をしていたら、会話のきっかけくらいにはなるかもしれない。
どうもうまく話しかけるきっかけがつかめず、距離を詰め切れない今日この頃、何かの足しになればと。
軽い理由と重い動機で買い求めた黒縁眼鏡をするようになったら、後日クライスに出合い頭にものすごい顔をされたが、特に何も言われなかった……。
反応されたことに気をよくして、その後使い続けることになるのだが。
クロノスが、黒縁眼鏡の贈られた相手を正しく知るのは、まだ先の話である。
0
お気に入りに追加
85
あなたにおすすめの小説

女神の代わりに異世界漫遊 ~ほのぼの・まったり。時々、ざまぁ?~
大福にゃここ
ファンタジー
目の前に、女神を名乗る女性が立っていた。
麗しい彼女の願いは「自分の代わりに世界を見て欲しい」それだけ。
使命も何もなく、ただ、その世界で楽しく生きていくだけでいいらしい。
厳しい異世界で生き抜く為のスキルも色々と貰い、食いしん坊だけど優しくて可愛い従魔も一緒!
忙しくて自由のない女神の代わりに、異世界を楽しんでこよう♪
13話目くらいから話が動きますので、気長にお付き合いください!
最初はとっつきにくいかもしれませんが、どうか続きを読んでみてくださいね^^
※お気に入り登録や感想がとても励みになっています。 ありがとうございます!
(なかなかお返事書けなくてごめんなさい)
※小説家になろう様にも投稿しています

出来損ないと呼ばれた伯爵令嬢は出来損ないを望む
家具屋ふふみに
ファンタジー
この世界には魔法が存在する。
そして生まれ持つ適性がある属性しか使えない。
その属性は主に6つ。
火・水・風・土・雷・そして……無。
クーリアは伯爵令嬢として生まれた。
貴族は生まれながらに魔力、そして属性の適性が多いとされている。
そんな中で、クーリアは無属性の適性しかなかった。
無属性しか扱えない者は『白』と呼ばれる。
その呼び名は貴族にとって屈辱でしかない。
だからクーリアは出来損ないと呼ばれた。
そして彼女はその通りの出来損ない……ではなかった。
これは彼女の本気を引き出したい彼女の周りの人達と、絶対に本気を出したくない彼女との攻防を描いた、そんな物語。
そしてクーリアは、自身に隠された秘密を知る……そんなお話。
設定揺らぎまくりで安定しないかもしれませんが、そういうものだと納得してくださいm(_ _)m
※←このマークがある話は大体一人称。

ポーションが不味すぎるので、美味しいポーションを作ったら
七鳳
ファンタジー
※毎日8時と18時に更新中!
※いいねやお気に入り登録して頂けると励みになります!
気付いたら異世界に転生していた主人公。
赤ん坊から15歳まで成長する中で、異世界の常識を学んでいくが、その中で気付いたことがひとつ。
「ポーションが不味すぎる」
必需品だが、みんなが嫌な顔をして買っていく姿を見て、「美味しいポーションを作ったらバカ売れするのでは?」
と考え、試行錯誤をしていく…
月が導く異世界道中
あずみ 圭
ファンタジー
月読尊とある女神の手によって癖のある異世界に送られた高校生、深澄真。
真は商売をしながら少しずつ世界を見聞していく。
彼の他に召喚された二人の勇者、竜や亜人、そしてヒューマンと魔族の戦争、次々に真は事件に関わっていく。
これはそんな真と、彼を慕う(基本人外の)者達の異世界道中物語。
漫遊編始めました。
外伝的何かとして「月が導く異世界道中extra」も投稿しています。

ぽっちゃり女子の異世界人生
猫目 しの
ファンタジー
大抵のトリップ&転生小説は……。
最強主人公はイケメンでハーレム。
脇役&巻き込まれ主人公はフツメンフツメン言いながらも実はイケメンでモテる。
落ちこぼれ主人公は可愛い系が多い。
=主人公は男でも女でも顔が良い。
そして、ハンパなく強い。
そんな常識いりませんっ。
私はぽっちゃりだけど普通に生きていたい。
【エブリスタや小説家になろうにも掲載してます】

悪役令息に転生したけど、静かな老後を送りたい!
えながゆうき
ファンタジー
妹がやっていた乙女ゲームの世界に転生し、自分がゲームの中の悪役令息であり、魔王フラグ持ちであることに気がついたシリウス。しかし、乙女ゲームに興味がなかった事が仇となり、断片的にしかゲームの内容が分からない!わずかな記憶を頼りに魔王フラグをへし折って、静かな老後を送りたい!
剣と魔法のファンタジー世界で、精一杯、悪足搔きさせていただきます!

S級クラフトスキルを盗られた上にパーティから追放されたけど、実はスキルがなくても生産力最強なので追放仲間の美少女たちと工房やります
内田ヨシキ
ファンタジー
[第5回ドラゴンノベルス小説コンテスト 最終選考作品]
冒険者シオンは、なんでも作れる【クラフト】スキルを奪われた上に、S級パーティから追放された。しかしシオンには【クラフト】のために培った知識や技術がまだ残されていた!
物作りを通して、新たな仲間を得た彼は、世界初の技術の開発へ着手していく。
職人ギルドから追放された美少女ソフィア。
逃亡中の魔法使いノエル。
騎士職を剥奪された没落貴族のアリシア。
彼女らもまた、一度は奪われ、失ったものを、物作りを通して取り戻していく。
カクヨムにて完結済み。
( https://kakuyomu.jp/works/16817330656544103806 )
ちっちゃくなった俺の異世界攻略
鮨海
ファンタジー
あるとき神の采配により異世界へ行くことを決意した高校生の大輝は……ちっちゃくなってしまっていた!
精霊と神様からの贈り物、そして大輝の力が試される異世界の大冒険?が幕を開ける!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる