アリスと魔法の薬箱~何もかも奪われ国を追われた薬師の令嬢ですが、ここからが始まりです!~

有沢真尋

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後日談・2

惚れ薬検証の件(2)

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「惚れ薬だなんて。お知り合いが作ったということですが、冗談では済まされないですよ。効かないものを『効果がある』と言って販売するのは詐欺ですが、効いてしまうのなら倫理的な問題が……」

 エイルが机に置いた小瓶を見つめながら、アリスは眉を寄せて深刻な口調で言う。にこにこ笑みを浮かべて聞いていたエイルは、「皺になるぞ」と言いながら自分の眉間を指差し、アリスの険しい表情への指摘をしてから続けた。

「知り合いはこの国の人間ではないし、依頼は『さる高貴な方』からということで、一度限りの約束で請け負って作ったそうだ。用途は国家機密に直結で、『口封じに命を狙われることはあっても、惚れ薬製造の件で捕まることはない』とのことだから、やむにやまれぬ事情があるんだろう」

 ずいぶんと楽しそうだったが、と口の端を吊り上げて、小声で付け足す。
 アリスは渋い表情のままエイルから小瓶へと視線を戻す。

「他国の宮廷薬師が国の依頼で作ったということですか」
「そのへんは追求しないでおいてくれ。ただ、使用に際して当然ながらクリアしておかなければいけないことがある。平たく言うと『人体実験をして安全性と効能について確認すること』だ。その目的でこれが、伝手つてをたどって私の手元まで来た。身元が確かで実績もある一流の薬師に第三者視点からの分析をして欲しいのだそうだ。なお、伝手といっても、個人的なつながりではなく王宮から宮廷薬師として請け負った仕事だ。違法性は無く、業務の範囲内」

(何やらかなりグレーなことを仰っていますが、事情にはあまり踏み込まない方が良さそうですね)

 打ち明けてくれた範囲以上に突っ込まないほうが良いだろう、とアリスはひとまずの説明で納得しておくことにした。
 その上で、尋ねる。

「惚れ薬は違法薬物の認識でした。自分が関わることは無いと思っていたので、詳しく無いんです。効能の検証はどういう形で行うんですか」
「使うのが手っ取り早いだろうね」
「怪我を治すわけでもないですし、効果が出たかどうかはどうやって検証するんです?」
「対象者に愛情を抱いたかどうか、使用された側に詳細に語ってもらうのが良いんじゃないか」
「では、少なくとも二人の人間を用意して、その関係性の変化を心理的な側面から検証するということですね」

「そうそう。僕としては今回の薬がどの程度効くか、はっきりわかってなくて。持続時間等も使用された人間の体質や耐性に左右されると聞いているから、明言もできない。ただ、内容が内容だけに『口が固くて、薬の効用とはいえ結ばれても倫理的な問題が発生しない』組み合わせで実験をしたいと考えている。理解できた?」

「そうですね。短時間で終わるわけではなく、数日以上続くとなれば、恋愛関係にあっても周囲に怪しまれず、被験者二人の将来にもネガティヴな影響が出ないような……。お互い好きあっているけど関係性に決め手がないような男女、とか? 完全に相思相愛の恋人に使っても、気持ちの上で効果があったかどうかわかりませんし」

 エイルが上司として真面目に話していたので、アリスとしても真剣に考えながら自分の意見を述べた。
 言い終えたところで、しん、と辺りが耳に痛いほど静まり返る。

(何かおかしなことでも言ったでしょうか?)

 不安になってエイルの顔を見ると、エイルは寸前までのにやにや笑いをわざとらしく消してから咳払いをして言った。

「そうだね。肉体的にがっつり作用する『媚薬』の類であれば、『効果があった』と伝えてもらえれば良いけれど、精神的に作用したかどうかまで気にするなら、いまアリスが言った条件は外せない。つまり『お互い好き会っているけど関係性に決め手がない男女』でなおかつ口が固くてこの実験に巻き込んでも大丈夫な二人に使ってもらうのが良い」

 何か気になる言い回しだな、と思いつつアリスは「はい」と返事をする。
 それから、ふと気になって隣に立つラファエロに目を向けた。

(それで殿下は、なぜここに呼ばれたのでしょう?)
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