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第三章 宮廷薬師として
晩餐会へ
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「エイル室長が……、美女同伴……!」
晩餐会の開かれている大広間。その扉の前に詰めていた衛兵たちが、仕事を忘れたかのようにざわついた。
視線の先には、王宮のメイドたちの手を借り、真珠色の光沢を放つドレスを身に着けたアリス。急かされながらエイルと歩んできた道すがら、ずっと視線がつきまとっており、晩餐会の場に着く前からすでに緊張で顔を強張らせていた。
(だめだめ。ラファエロだったら「笑えてないよ」って言ってくるところね、気をつけないと)
思い直して、なんとか取り繕った笑みを浮かべようと努力をする。
その横には、群青のジャケットを身に着け、抜かり無く貴族の若君らしい正装に身を包んだエイル。にやりと笑みを浮かべて「たまには俺にもこういうことがある」と兵たち相手に嘯いてから、低い声で続けた。
「くれぐれも、俺の連れに妙な秋波はやめてくれ。安い求婚でもしようものなら、蹴散らすぞ」
兵たちのみならず周囲の高貴な身なりの男女すら黙らせて、大広間のドアをくぐる。
(しれっと言ってますけど、安い求婚を流行らせた張本人ですよね、エイル室長!)
一言いいたいのをぐっと堪えて、アリスも並んで大広間に踏み入れた。衛兵の横を通り過ぎる際に「玉砕するとしても、告白だけでもしておけば」「ああ、アリス嬢」と妙な盛り上がりが耳を掠めた気がしたが、素知らぬふりを決め込んだ。聞き違いだと思いたい。
天井の高い広間にはすでに多くのひとが詰めかけ、楽の音が響いていた。
「エイル室長、いつもはおひとりなんですか」
「それ、いま聞くんだ。そもそも普段はこういう場に滅多に参加しない。未婚で婚約者もいないのは以前も言った通り。だから誰はばかることなくアリスに結婚を申し込んでいる。少しは考えてくれた?」
さらりと求婚返し。いついかなる会話でも大体そこに行き着く。まるで挨拶及び社交辞令。だからこそアリスも気兼ねなく断れる。
「何度もお伝えしておりますが、謹んでお断り申し上げます。エイル室長の求婚は私の『血』目当てですよね。体目的と大差ないと思うんです」
「初めはね。今はアリスの働きぶりに惚れ込んでの求愛行動なんだけど」
「仕事は好きですよ。自分に合っていると思います。エイル室長とは今後も魔法薬学の発展に尽くす、良き仕事仲間でいられたら幸いです」
「どうあっても本気にされない悲しみ。今晩もやけ酒だな」
人々の間を歩きながら会話を交わす。妙に視線を集めているのは、レアキャラのエイルが出席しているからに違いない、とアリスは納得することにした。
やがて、円のように人垣が出来ている空間があることに気がついた。
エイルがすかさず耳打ちしてくる。
「あそこだ、本日の賓客。様子を見てこよう」
アリスは無言でそちらを確認した。
(ラファエロ殿下とフローラ様。相手は……)
叔父上、というフローラの声が耳を打った。祖国の王弟グリムズに違いないとあたりをつける。数人の従者を連れているようだ。その顔ぶれを確認して、アリスは小さく息を呑む。エイルの袖をひいて小声で告げた。
「ヘンリーがいます」
晩餐会の開かれている大広間。その扉の前に詰めていた衛兵たちが、仕事を忘れたかのようにざわついた。
視線の先には、王宮のメイドたちの手を借り、真珠色の光沢を放つドレスを身に着けたアリス。急かされながらエイルと歩んできた道すがら、ずっと視線がつきまとっており、晩餐会の場に着く前からすでに緊張で顔を強張らせていた。
(だめだめ。ラファエロだったら「笑えてないよ」って言ってくるところね、気をつけないと)
思い直して、なんとか取り繕った笑みを浮かべようと努力をする。
その横には、群青のジャケットを身に着け、抜かり無く貴族の若君らしい正装に身を包んだエイル。にやりと笑みを浮かべて「たまには俺にもこういうことがある」と兵たち相手に嘯いてから、低い声で続けた。
「くれぐれも、俺の連れに妙な秋波はやめてくれ。安い求婚でもしようものなら、蹴散らすぞ」
兵たちのみならず周囲の高貴な身なりの男女すら黙らせて、大広間のドアをくぐる。
(しれっと言ってますけど、安い求婚を流行らせた張本人ですよね、エイル室長!)
一言いいたいのをぐっと堪えて、アリスも並んで大広間に踏み入れた。衛兵の横を通り過ぎる際に「玉砕するとしても、告白だけでもしておけば」「ああ、アリス嬢」と妙な盛り上がりが耳を掠めた気がしたが、素知らぬふりを決め込んだ。聞き違いだと思いたい。
天井の高い広間にはすでに多くのひとが詰めかけ、楽の音が響いていた。
「エイル室長、いつもはおひとりなんですか」
「それ、いま聞くんだ。そもそも普段はこういう場に滅多に参加しない。未婚で婚約者もいないのは以前も言った通り。だから誰はばかることなくアリスに結婚を申し込んでいる。少しは考えてくれた?」
さらりと求婚返し。いついかなる会話でも大体そこに行き着く。まるで挨拶及び社交辞令。だからこそアリスも気兼ねなく断れる。
「何度もお伝えしておりますが、謹んでお断り申し上げます。エイル室長の求婚は私の『血』目当てですよね。体目的と大差ないと思うんです」
「初めはね。今はアリスの働きぶりに惚れ込んでの求愛行動なんだけど」
「仕事は好きですよ。自分に合っていると思います。エイル室長とは今後も魔法薬学の発展に尽くす、良き仕事仲間でいられたら幸いです」
「どうあっても本気にされない悲しみ。今晩もやけ酒だな」
人々の間を歩きながら会話を交わす。妙に視線を集めているのは、レアキャラのエイルが出席しているからに違いない、とアリスは納得することにした。
やがて、円のように人垣が出来ている空間があることに気がついた。
エイルがすかさず耳打ちしてくる。
「あそこだ、本日の賓客。様子を見てこよう」
アリスは無言でそちらを確認した。
(ラファエロ殿下とフローラ様。相手は……)
叔父上、というフローラの声が耳を打った。祖国の王弟グリムズに違いないとあたりをつける。数人の従者を連れているようだ。その顔ぶれを確認して、アリスは小さく息を呑む。エイルの袖をひいて小声で告げた。
「ヘンリーがいます」
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