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第二話
誘拐
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木立の間を、カイルはすいすいと目覚ましい速さで走り抜けて行く。
あらかじめ、経路は把握していたのだろう。迷いがない。
(いたたたたたた、かなり傷に響いてる……! 傷開く! ふさがっているかもわからないのに!)
カイルは騎士団所属だけあり、鍛え抜かれた肉体をしている。アシュレイの体を支えている腕ももちろん抜群の安定感。それでも、遠慮のない無い走りと足元の悪い道のりによる振動が、鈍く伝わってくるのはどうしようもない。
傷口からびりびりとした痛みが走り、涙が滲んできた。
(完全な誤解……! どうにか状況の説明をしないと……!)
少し開けた場所にたどり着いた。カイルは歩調をゆるめて、木に繋いでいた馬の元へと歩み寄る。アシュレイを片腕に抱き直すと、ロープを外してひらりと鞍に跨ってしまった。
「近くの町に宿を取っている。そこで医者に見せる」
ぴたりと身を寄せたまま囁かれる。アシュレイは力の入らない腕をなんとか持ち上げて、カイルの胸に指の先で触れた。
「んん……んん!」
口の中の詰め物を取って欲しい。その思いから呻き声を上げる。
気付いただろうに、カイルは何故かとても爽やかな笑みを浮かべて見下してきた。
「もう少し我慢しろ。舌を噛まないように、そのまま布を噛んでいた方がいい。早駆けする」
「……っ」
その一言だけで、すでに傷が痛い。
できればやめて欲しいし、今すぐ引き返して欲しい。
しかし、いくら願っても、気持ちが通じないことはよくわかっている。
(カイルとはそこまで良好な関係じゃなかったし……。以心伝心なんて期待もできないというか)
故国でのアシュレイは、姫付きということで、騎士団の中でも特殊な位置付けではあった。鍛錬の時間は一緒に過ごし、他の者たちと剣を交えることもあるが、王宮警護などの任務を担うことはない。大隊長になるといった出世とは無縁であったものの、常に王族の側にいる時点で上級の扱い。温度差とは言わないものの、他の騎士団員達とは若干距離があった。
カイルとは顔見知りであり、会えば言葉を交わすことはあったが、親しい間柄との認識はない。
それこそ、故国を離れたときには二度と会うこともないと思っていた。
今なぜここまで来ているのか、見当もつかない。
馬の上でアシュレイを抱き直したカイルは、鞍に乗せてあった外套をアシュレイの上から被せてきた。
視界が暗くなる。全身を覆われてしまえば、たとえこの先街道に出て誰かとすれ違っても、そこにいるのがアシュレイだとは気付かれないだろう。
もしエグバードが追ってきたとしても、カイルが白を切ってしまえばそこまでだ。
(カイル、どうして……)
これではまるで、誘拐と変わらない。
助けに来たと言っていたからには、彼の中ではエグバードは悪者になっているに違いない。
次に落ち着いて話す機会があったら、まずそこについて伝えねば。
その決意を固めるアシュレイの耳に、カイルの呟き声が届いた。
「君をこんな目に遭わせる男なんか絶対に許さない」
あらかじめ、経路は把握していたのだろう。迷いがない。
(いたたたたたた、かなり傷に響いてる……! 傷開く! ふさがっているかもわからないのに!)
カイルは騎士団所属だけあり、鍛え抜かれた肉体をしている。アシュレイの体を支えている腕ももちろん抜群の安定感。それでも、遠慮のない無い走りと足元の悪い道のりによる振動が、鈍く伝わってくるのはどうしようもない。
傷口からびりびりとした痛みが走り、涙が滲んできた。
(完全な誤解……! どうにか状況の説明をしないと……!)
少し開けた場所にたどり着いた。カイルは歩調をゆるめて、木に繋いでいた馬の元へと歩み寄る。アシュレイを片腕に抱き直すと、ロープを外してひらりと鞍に跨ってしまった。
「近くの町に宿を取っている。そこで医者に見せる」
ぴたりと身を寄せたまま囁かれる。アシュレイは力の入らない腕をなんとか持ち上げて、カイルの胸に指の先で触れた。
「んん……んん!」
口の中の詰め物を取って欲しい。その思いから呻き声を上げる。
気付いただろうに、カイルは何故かとても爽やかな笑みを浮かべて見下してきた。
「もう少し我慢しろ。舌を噛まないように、そのまま布を噛んでいた方がいい。早駆けする」
「……っ」
その一言だけで、すでに傷が痛い。
できればやめて欲しいし、今すぐ引き返して欲しい。
しかし、いくら願っても、気持ちが通じないことはよくわかっている。
(カイルとはそこまで良好な関係じゃなかったし……。以心伝心なんて期待もできないというか)
故国でのアシュレイは、姫付きということで、騎士団の中でも特殊な位置付けではあった。鍛錬の時間は一緒に過ごし、他の者たちと剣を交えることもあるが、王宮警護などの任務を担うことはない。大隊長になるといった出世とは無縁であったものの、常に王族の側にいる時点で上級の扱い。温度差とは言わないものの、他の騎士団員達とは若干距離があった。
カイルとは顔見知りであり、会えば言葉を交わすことはあったが、親しい間柄との認識はない。
それこそ、故国を離れたときには二度と会うこともないと思っていた。
今なぜここまで来ているのか、見当もつかない。
馬の上でアシュレイを抱き直したカイルは、鞍に乗せてあった外套をアシュレイの上から被せてきた。
視界が暗くなる。全身を覆われてしまえば、たとえこの先街道に出て誰かとすれ違っても、そこにいるのがアシュレイだとは気付かれないだろう。
もしエグバードが追ってきたとしても、カイルが白を切ってしまえばそこまでだ。
(カイル、どうして……)
これではまるで、誘拐と変わらない。
助けに来たと言っていたからには、彼の中ではエグバードは悪者になっているに違いない。
次に落ち着いて話す機会があったら、まずそこについて伝えねば。
その決意を固めるアシュレイの耳に、カイルの呟き声が届いた。
「君をこんな目に遭わせる男なんか絶対に許さない」
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