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第八章
女を磨く
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「実際のところ、先生くらいの度胸と才覚があれば、女性初の議員もありえると、閣下はお考えだと思います」
ガウェインが王宮へと向かった後、ジュディとステファンで結婚準備とフィリップスの家庭教師の予定を話し合う中で、ステファンがさらりと言った。
その流れを予期していたジュディは「私がですか?」と聞き返すことはせずに「あの方なら、考えていても不思議ではありませんね」と口にした。
「驚かないんですね」
「言われてみると、そうかもしれないと思います。ステファンさんが爵位を得たり、フィリップス様がいまの状況にならなかった場合、二つの議席の使い道はまた別にお考えになっただろうと。そこに私の名前が挙がっても、あの方は使えるものは全部使う気なのだ、と納得します」
選挙法の改正を待たなければ、女性のジュディは現状身動きがとれない。それで先送りにされただけで、ガウェインであればいつジュディにその話を始めても、まったく不思議ではないように思えた。
「閣下とご結婚なさるということは、あの方のそういう考え方や生き方を、ある程度受け入れることになるわけです。閣下があのご年齢まで結婚なさらなかったのも、お相手があなたというのも、運命なのかもしれません。ご令嬢方を見回してみても、あなたのように覚悟が決まっている方は、なかなかいないです」
ステファンにしては珍しく、ジュディを手放しで褒めているようだった。
(「覚悟が決まっている」って褒め言葉ですよね? 度胸とか才覚とか)
それはそれで非常に嬉しく、まったく不満ではないのだが、自分はお世辞にも「可愛い」「美しい」と言われないものだな、としみじみ実感した。
ガウェインは別だ。何かにつけて、ジュディを全体的に褒め称えてくれる。しかしやや大げさすぎるきらいがあり、欲目のようなものだろうと理解しているジュディとしては、内心気にしているのである。
自分が、彼の隣に並んだときに、本当に「理想の女性像」として人々から見られるだろうか。と。
そのくらい、外見及び醸し出す雰囲気は重要なのだ。
この場合、異性ではなく同性に対して。
「ステファンさんは、ご令嬢のお知り合いがたくさんいらっしゃるんですよね?」
ジュディが確認するべく尋ねると、テーブルを挟んで向かい合っていたステファンは、くすっと笑みをもらした。
「先生よりは、いるかもしれません。よろしければ、ご紹介しますよ。お友達が欲しいって、言ってましたよね。そういえば」
明らかに冗談めかした口ぶりであったが、ジュディは渡りに船とばかりに勢い込んで身を乗り出して言った。
「はい! ぜひ!」
「え?」
「トレンドに詳しくて、お洒落で可愛らしくてどこに行っても注目の的! という方が良いです。三日くだされば、その方の生き様をなんとしてでもラーニングして血と肉にして参りますので!」
きょとんとしているステファンに対し、ジュディは力説をする。
「社交界の華、のようなレディですか?」
「その通りです! 私には『華』がありません。でも、無いものは無いとして、このまま手をこまねいているわけにもいけませんので、女を磨いてくる必要性を感じているんです!」
華……、とぼやっとした顔でステファンは呟く。
あまり納得していない様子のため、ジュディはさらに説得が必要かと意気込んだが、大きく息を吸い込んだだけで「だいたいわかりましたので、もう結構です」と冷静な断りを入れられた。
「お気持ちはよくわかりました。たしかに、あなたは素材の良さに寄りかかり過ぎて、伸ばすべき部分を伸ばし損ねている。その朴訥さが『親近感』として好まれる面もあるでしょうが、地方周りをしたときに『会って良かった』と思われるのは、普段の生活ではお目にかかれないお姫様、かもしれません」
「ですよね。みんな、お姫様を見てみたいですよね。そこで出てきたのが私だったら、期待外れではありませんか? ガウェイン様は、まず間違いなく皆さんの期待以上だと思いますが」
なんといっても、ガウェイン様ですから、とジュディはそこだけは自信満々に言い切った。
ステファンはややひいた様子ながら、「わかりました」と答える。
「その点は否定しませんけど、先生の女磨きが急務だというのは、よくわかりました。先生とお友達になれるご令嬢がどういった方か、イメージはつきにくいんですが、なんとか考えてみます」
そこから三秒くらい考えて、首を傾げながらぼそりと言った。
「それ、アルシア様で良いのではないですか?」
ガウェインが王宮へと向かった後、ジュディとステファンで結婚準備とフィリップスの家庭教師の予定を話し合う中で、ステファンがさらりと言った。
その流れを予期していたジュディは「私がですか?」と聞き返すことはせずに「あの方なら、考えていても不思議ではありませんね」と口にした。
「驚かないんですね」
「言われてみると、そうかもしれないと思います。ステファンさんが爵位を得たり、フィリップス様がいまの状況にならなかった場合、二つの議席の使い道はまた別にお考えになっただろうと。そこに私の名前が挙がっても、あの方は使えるものは全部使う気なのだ、と納得します」
選挙法の改正を待たなければ、女性のジュディは現状身動きがとれない。それで先送りにされただけで、ガウェインであればいつジュディにその話を始めても、まったく不思議ではないように思えた。
「閣下とご結婚なさるということは、あの方のそういう考え方や生き方を、ある程度受け入れることになるわけです。閣下があのご年齢まで結婚なさらなかったのも、お相手があなたというのも、運命なのかもしれません。ご令嬢方を見回してみても、あなたのように覚悟が決まっている方は、なかなかいないです」
ステファンにしては珍しく、ジュディを手放しで褒めているようだった。
(「覚悟が決まっている」って褒め言葉ですよね? 度胸とか才覚とか)
それはそれで非常に嬉しく、まったく不満ではないのだが、自分はお世辞にも「可愛い」「美しい」と言われないものだな、としみじみ実感した。
ガウェインは別だ。何かにつけて、ジュディを全体的に褒め称えてくれる。しかしやや大げさすぎるきらいがあり、欲目のようなものだろうと理解しているジュディとしては、内心気にしているのである。
自分が、彼の隣に並んだときに、本当に「理想の女性像」として人々から見られるだろうか。と。
そのくらい、外見及び醸し出す雰囲気は重要なのだ。
この場合、異性ではなく同性に対して。
「ステファンさんは、ご令嬢のお知り合いがたくさんいらっしゃるんですよね?」
ジュディが確認するべく尋ねると、テーブルを挟んで向かい合っていたステファンは、くすっと笑みをもらした。
「先生よりは、いるかもしれません。よろしければ、ご紹介しますよ。お友達が欲しいって、言ってましたよね。そういえば」
明らかに冗談めかした口ぶりであったが、ジュディは渡りに船とばかりに勢い込んで身を乗り出して言った。
「はい! ぜひ!」
「え?」
「トレンドに詳しくて、お洒落で可愛らしくてどこに行っても注目の的! という方が良いです。三日くだされば、その方の生き様をなんとしてでもラーニングして血と肉にして参りますので!」
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「社交界の華、のようなレディですか?」
「その通りです! 私には『華』がありません。でも、無いものは無いとして、このまま手をこまねいているわけにもいけませんので、女を磨いてくる必要性を感じているんです!」
華……、とぼやっとした顔でステファンは呟く。
あまり納得していない様子のため、ジュディはさらに説得が必要かと意気込んだが、大きく息を吸い込んだだけで「だいたいわかりましたので、もう結構です」と冷静な断りを入れられた。
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「それ、アルシア様で良いのではないですか?」
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