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序章
王子様の教育係、承ります
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「殿下は、城下にお忍びで出かけた際に、気の合う友人ができたようなのです」
甘く香るハーブティーに口をつけ、ガウェインはさきほどのジュディの失言を流した。ジュディもまたお茶を飲んで気持ちを落ち着けつつ「閨」の一言はなかったものとして、ガウェインの話題転換に乗った。
「お友達、ですか?」
ガウェインが、眼鏡の奥からじっとジュディを見つめる。瞼を伏せるようにゆっくりと瞬きをしたとき、髪と同じ色の睫毛の長さに気付いた。見開かれた金色の瞳には、冷静そのものの光が宿っている。
視線が絡み、温度が一段下がった。
「私は、そのように考えています。少なくとも、いまのあの方は色恋沙汰に興味はない。会いたい相手は、恋人ではないでしょう。殿下がとても親しく心を寄せているその方は、庶民で、頭の回転が早く、弁舌巧みな年長者です。この世界に疑問を持っている少年が憧れを抱かずにはいられない、熱情の持ち主だ」
息を詰めて耳を傾けていたジュディは、膝の上に置いた手をぎゅっと握りしめる。
(手放しで、褒められたことではないわね。若い殿下が、身分の上下にとらわれず多様な考えにふれるのは素晴らしいこと。だけど、若いというのは影響を受けやすいということでもある。自分の考えが揺らいでいるときに強く魅力的な相手に会ってしまえば、染まるのは一瞬)
先程、何がなんでも外へ出ようとしていたフィリップスの面影が脳裏をよぎった。彼はその「友人」に会うために、王宮の慣例や自身の義務に抗っているのだろう。
胸騒ぎがする。
それは、ジュディの価値観からして、危険なことに思えた。
教師としてこの場に呼ばれ、「友人」に会うのを足で阻止するように請われた身として、ジュディはぜひとも自分の思いをガウェインに知って欲しいと願う。拙い言葉ながら、なんとかこの話に抱いた危惧を伝えようと試みた。
「私はここ数年、将来を見越して様々な勉強に励んできました。教育係として、私から殿下にお教えできることもあると思います。そのときには、ぜひ勉強の楽しさと大切さをお伝えしたいものです。勉強というのは、すればするほどその奥深さがわかります。つまり、自分がこれまで何を知らないで生きてきたのかが見えてきます。ある出来事について知らないとき、ひとはなんでも単純に考えます。物事にはいろんな面があるとも気付きません。自分のそのときの頭でわかるようにしか、理解しないからです」
ガウェインは力強く頷いて、ジュディをまっすぐに見た。
「わかります。たとえばオルゴールの仕組みを知らない者にとってあれは、ただの音の鳴る箱です。ちらりと中をのぞけば作りが複雑なことはわかるが、学んで理解しようと思わぬ限り、生涯その技術を得ることはありません」
受け止めようとしてくれる度量に安堵して、ジュディは話を続けた。
「勉強は楽しいです。でも、ときに苦しい。楽ではないから。それこそ、誰かがわかりやすく教えてくれて、気に入ったものだけ取り入れるので良いなら、どれだけ容易いことか。ですが、それはあまりにも危険です。私はそれを教育とは考えません」
「なぜ?」
「楽に学ぶということは、考えるのを放棄することです。信頼する相手から、何かを『悪いもの』だと教えられ、そこに納得できる理由があれば、信じたくもなるでしょう。たとえばそれが、自分がそのときまで強固に信じてきた価値観が覆るようなものなら、受け入れたときには世界が変わるほどの爽快感があるはずです。それこそ、世界の真理に目覚めたような快感が。その誰かの思想に染まるのは、一瞬です。それは勉強の快感とは似ているかもしれませんが、全く違うものです」
張り詰めた空気が、ふっと緩んだ。ガウェインが、目元に柔和な笑みを滲ませていた。
「あなたを王宮に呼んだのは、私の独断です。それは、どこにあっても全力で走れるあなたが、この国の女性の中にあっても、異色だと期待したからです。いま私は、自分の判断に自信を持っています。あなたは期待以上だ」
少しだけわかりにくい言い方をされて、ジュディは首を傾げそうになった。これは宰相閣下の自画自賛だろうか。それとも?
(女性の中では異色……だけど「期待以上」ということは、褒めてくださっているのよね?)
思えば結婚してから離婚に至るここ三年と少し、ジュディは自尊心をすり減らしこそすれ、他人から褒められることなど滅多になかった。
後ろめたいことは自分にはないし、前の夫のことなど少しも愛していなかったのだから、顔を上げて生きていこう。そう切り替えようとしても、女性として価値なきものとして扱われ続けたせいで、自己肯定感は回復の見込みもないほどに落ち込んでいた。だからこそ、王宮からの胡乱げな誘いに対して、諦めの気持ちとともにここまで来たのだ。
まさか、雇い主となる相手から、こんな風に認められているとは、思わなかった。
青い目を瞠ったジュディに対し、ガウェインは穏やかに言った。
「今まさに、あなたが思い描いた通りのことを、私も考えています。つまり殿下は、城下で出会った友人に、心酔している。その考えに喜んで染まろうとしている。言動の端々に、その影響が伺えます。端的に言えば、殿下は王家や貴族を『庶民の敵にして、打倒されるべきもの』という考えをお持ちです」
「ご友人は、革命家の資質の持ち主で?」
ジュディが短く聞き返すと、ガウェインはすっと目を細めて固い声で答えた。
「革命そのものを、私は否定しません。しかし市井の革命家は『権力者は庶民を虐げる敵であり、暴利を貪っている怠惰で愚鈍な連中だ』そう言って、民衆の攻撃性を煽る。なんとなく、この世界は自分に優しくないと思っている者にとって、不満をぶつけて良い相手を提示されるのは魅力的だからだ。相手が強く、自分は弱い立場であると思えば、たとえ力の限り殴っても、それは暴力ではないような気すらしてしまう」
生きづらさ、生きにくさ。ジュディとてそれは毎日感じているが、庶民のそれと同じかと言えばおそらく違う。食うに困る、着るものもない、そういった危機ではない。その状況にある相手に対して「私も大変なのよ」とは言えない。だからといって、その状態をいきなりフラットにする方法としての急進的な革命には、同意できないのだ。
「政治も身分社会も、そこまで単純なものではありません。ただの悪しきものであれば、これほど長きにわたり、どこの国でもあるわけがないんです。そこには理由があり、存在意義があります。中には、時代とともにゆるやかに変わり、役目を終えていくものあるでしょう。現にこの国の王家のあり方は変わり続けていますし、貴族は力を失いつつあります。しかし、今すぐにいきなりすべてを廃止できるものではありません」
「その通りです。貴族であれば、そう考える。国家の仕事というのは、素養のない人間にいきなり担えるものではない、と。だが貴族が政治の場で何をしているか想像のつかない民衆からしてみれば『自分たちがそれをできないのは、やらせてもらえないからだ』と考えるのではないか? 実際に、選挙のあり方は現時点でも公正とは言い難く、その意味ではこの国の多くを占める労働者階級の声が反映されているものではない。それをもって『権利すら奪われている』と考える者がいるのは当然。そこは、絶対に正されるべきところだ」
思った以上に、ガウェインの発想は柔軟なようだ。現状の問題点も見えている。だが、彼が言っている通り「いきなり」は変われないのだ。それは利権絡みの私利私欲による執着だけではなく、実際問題として「できない者に、やらせてはいけない」のである。
(正しさを訴えて王権を打倒した革命も、過去にはあった。けれど革命政府はやがて反対する者を粛清する独裁者となり果てて、民衆に倒され王権は復活した……。歪みは長い時間をかけて少しずつ整えながら移行すべきであり、気に入らないものを力で倒して終わりではないはず。世界は続いていくのだから)
ジュディは拳が白くなるほどに握りしめ、身を乗り出した。
「この国は、立憲君主国として歩んでいます。王権は絶対ではありません。正すためには議会で手順を踏むべきです。いきなり国王陛下に身分の廃止を叫ばさせれば良いというものではありません」
私もそう思う、とガウェインはジュディの言い分を認めた上で、言った。
「おそらく、殿下のご友人はそこまで考えが至っていない。ただ、殿下を取り込み、『悪しきものを廃止させこの世に光を』とその耳に吹き込んでいるようだ。私は何度か殿下と議論を戦わせてきましたが、まったくの平行線でしたよ。このままでは殿下は、この国のすべての貴族を敵に回してでも、いや敵が多くなればなるほど、『真理に目覚めている自分は正しく、抗う相手は卑しい功利主義者だ』との思いを深めるでしょう」
ぽふ、とジュディは思わず背もたれに深く背を預けた。冷静であろうとし、平淡な口調で呟いた。
「議会制を重んじる立憲君主国である以上、そもそも君主にはそこまでの権力は無いのに。たとえ王となれど、王家と貴族をご自身の一言で潰すなど不可能です。殿下はいったい、何を勘違いされているのでしょう?」
国王が独裁に走らぬように、様々な仕組みが数百年がかりで整えられてきているのだ。たとえ王位を継承をしても、周囲の人間を自分の言いなりにできるような権力は、得られるはずもない。それが民のための施策であるというのなら、議会にかけて承認を得るところからだ。そして、議会に信頼を得られていない王の施策は通らない。つまり、王の意思は国政に反映できない。それを押し通そうとするのを「独裁」と言う。多数の賛成しない少数の考えが尊く正しいと民に強いるやり方、それこそが、大いなる危険をはらんでいるというのに。
(殿下のブレーンとなっているご友人に、相当の問題がありそうね。それを鵜呑みにし、宰相閣下と溝を広げる殿下も殿下なのだけど)
段々と、「教育係」として自分が期待されていることがわかってきた。どういうわけかジュディを見込んで抜擢した宰相閣下は、おそらくこのレベルの話ができる相手にフィリップスの再教育を託したいということなのだろう。
「諸悪の根源は王権と貴族だと決めつけてしまっている頑迷さと、ご自身には権力があるとなぜか信じてしまっているあの尊大さ。すべて誤解だ、と私とともに殿下に対して強く言ってくれる先生を探していまして」
ガウェインの苦笑いすら浮かばぬ口元を見て、ジュディは己がなすべきことを承知した。
そして「謹んでそのお役目を拝命仕ります」と告げた。
甘く香るハーブティーに口をつけ、ガウェインはさきほどのジュディの失言を流した。ジュディもまたお茶を飲んで気持ちを落ち着けつつ「閨」の一言はなかったものとして、ガウェインの話題転換に乗った。
「お友達、ですか?」
ガウェインが、眼鏡の奥からじっとジュディを見つめる。瞼を伏せるようにゆっくりと瞬きをしたとき、髪と同じ色の睫毛の長さに気付いた。見開かれた金色の瞳には、冷静そのものの光が宿っている。
視線が絡み、温度が一段下がった。
「私は、そのように考えています。少なくとも、いまのあの方は色恋沙汰に興味はない。会いたい相手は、恋人ではないでしょう。殿下がとても親しく心を寄せているその方は、庶民で、頭の回転が早く、弁舌巧みな年長者です。この世界に疑問を持っている少年が憧れを抱かずにはいられない、熱情の持ち主だ」
息を詰めて耳を傾けていたジュディは、膝の上に置いた手をぎゅっと握りしめる。
(手放しで、褒められたことではないわね。若い殿下が、身分の上下にとらわれず多様な考えにふれるのは素晴らしいこと。だけど、若いというのは影響を受けやすいということでもある。自分の考えが揺らいでいるときに強く魅力的な相手に会ってしまえば、染まるのは一瞬)
先程、何がなんでも外へ出ようとしていたフィリップスの面影が脳裏をよぎった。彼はその「友人」に会うために、王宮の慣例や自身の義務に抗っているのだろう。
胸騒ぎがする。
それは、ジュディの価値観からして、危険なことに思えた。
教師としてこの場に呼ばれ、「友人」に会うのを足で阻止するように請われた身として、ジュディはぜひとも自分の思いをガウェインに知って欲しいと願う。拙い言葉ながら、なんとかこの話に抱いた危惧を伝えようと試みた。
「私はここ数年、将来を見越して様々な勉強に励んできました。教育係として、私から殿下にお教えできることもあると思います。そのときには、ぜひ勉強の楽しさと大切さをお伝えしたいものです。勉強というのは、すればするほどその奥深さがわかります。つまり、自分がこれまで何を知らないで生きてきたのかが見えてきます。ある出来事について知らないとき、ひとはなんでも単純に考えます。物事にはいろんな面があるとも気付きません。自分のそのときの頭でわかるようにしか、理解しないからです」
ガウェインは力強く頷いて、ジュディをまっすぐに見た。
「わかります。たとえばオルゴールの仕組みを知らない者にとってあれは、ただの音の鳴る箱です。ちらりと中をのぞけば作りが複雑なことはわかるが、学んで理解しようと思わぬ限り、生涯その技術を得ることはありません」
受け止めようとしてくれる度量に安堵して、ジュディは話を続けた。
「勉強は楽しいです。でも、ときに苦しい。楽ではないから。それこそ、誰かがわかりやすく教えてくれて、気に入ったものだけ取り入れるので良いなら、どれだけ容易いことか。ですが、それはあまりにも危険です。私はそれを教育とは考えません」
「なぜ?」
「楽に学ぶということは、考えるのを放棄することです。信頼する相手から、何かを『悪いもの』だと教えられ、そこに納得できる理由があれば、信じたくもなるでしょう。たとえばそれが、自分がそのときまで強固に信じてきた価値観が覆るようなものなら、受け入れたときには世界が変わるほどの爽快感があるはずです。それこそ、世界の真理に目覚めたような快感が。その誰かの思想に染まるのは、一瞬です。それは勉強の快感とは似ているかもしれませんが、全く違うものです」
張り詰めた空気が、ふっと緩んだ。ガウェインが、目元に柔和な笑みを滲ませていた。
「あなたを王宮に呼んだのは、私の独断です。それは、どこにあっても全力で走れるあなたが、この国の女性の中にあっても、異色だと期待したからです。いま私は、自分の判断に自信を持っています。あなたは期待以上だ」
少しだけわかりにくい言い方をされて、ジュディは首を傾げそうになった。これは宰相閣下の自画自賛だろうか。それとも?
(女性の中では異色……だけど「期待以上」ということは、褒めてくださっているのよね?)
思えば結婚してから離婚に至るここ三年と少し、ジュディは自尊心をすり減らしこそすれ、他人から褒められることなど滅多になかった。
後ろめたいことは自分にはないし、前の夫のことなど少しも愛していなかったのだから、顔を上げて生きていこう。そう切り替えようとしても、女性として価値なきものとして扱われ続けたせいで、自己肯定感は回復の見込みもないほどに落ち込んでいた。だからこそ、王宮からの胡乱げな誘いに対して、諦めの気持ちとともにここまで来たのだ。
まさか、雇い主となる相手から、こんな風に認められているとは、思わなかった。
青い目を瞠ったジュディに対し、ガウェインは穏やかに言った。
「今まさに、あなたが思い描いた通りのことを、私も考えています。つまり殿下は、城下で出会った友人に、心酔している。その考えに喜んで染まろうとしている。言動の端々に、その影響が伺えます。端的に言えば、殿下は王家や貴族を『庶民の敵にして、打倒されるべきもの』という考えをお持ちです」
「ご友人は、革命家の資質の持ち主で?」
ジュディが短く聞き返すと、ガウェインはすっと目を細めて固い声で答えた。
「革命そのものを、私は否定しません。しかし市井の革命家は『権力者は庶民を虐げる敵であり、暴利を貪っている怠惰で愚鈍な連中だ』そう言って、民衆の攻撃性を煽る。なんとなく、この世界は自分に優しくないと思っている者にとって、不満をぶつけて良い相手を提示されるのは魅力的だからだ。相手が強く、自分は弱い立場であると思えば、たとえ力の限り殴っても、それは暴力ではないような気すらしてしまう」
生きづらさ、生きにくさ。ジュディとてそれは毎日感じているが、庶民のそれと同じかと言えばおそらく違う。食うに困る、着るものもない、そういった危機ではない。その状況にある相手に対して「私も大変なのよ」とは言えない。だからといって、その状態をいきなりフラットにする方法としての急進的な革命には、同意できないのだ。
「政治も身分社会も、そこまで単純なものではありません。ただの悪しきものであれば、これほど長きにわたり、どこの国でもあるわけがないんです。そこには理由があり、存在意義があります。中には、時代とともにゆるやかに変わり、役目を終えていくものあるでしょう。現にこの国の王家のあり方は変わり続けていますし、貴族は力を失いつつあります。しかし、今すぐにいきなりすべてを廃止できるものではありません」
「その通りです。貴族であれば、そう考える。国家の仕事というのは、素養のない人間にいきなり担えるものではない、と。だが貴族が政治の場で何をしているか想像のつかない民衆からしてみれば『自分たちがそれをできないのは、やらせてもらえないからだ』と考えるのではないか? 実際に、選挙のあり方は現時点でも公正とは言い難く、その意味ではこの国の多くを占める労働者階級の声が反映されているものではない。それをもって『権利すら奪われている』と考える者がいるのは当然。そこは、絶対に正されるべきところだ」
思った以上に、ガウェインの発想は柔軟なようだ。現状の問題点も見えている。だが、彼が言っている通り「いきなり」は変われないのだ。それは利権絡みの私利私欲による執着だけではなく、実際問題として「できない者に、やらせてはいけない」のである。
(正しさを訴えて王権を打倒した革命も、過去にはあった。けれど革命政府はやがて反対する者を粛清する独裁者となり果てて、民衆に倒され王権は復活した……。歪みは長い時間をかけて少しずつ整えながら移行すべきであり、気に入らないものを力で倒して終わりではないはず。世界は続いていくのだから)
ジュディは拳が白くなるほどに握りしめ、身を乗り出した。
「この国は、立憲君主国として歩んでいます。王権は絶対ではありません。正すためには議会で手順を踏むべきです。いきなり国王陛下に身分の廃止を叫ばさせれば良いというものではありません」
私もそう思う、とガウェインはジュディの言い分を認めた上で、言った。
「おそらく、殿下のご友人はそこまで考えが至っていない。ただ、殿下を取り込み、『悪しきものを廃止させこの世に光を』とその耳に吹き込んでいるようだ。私は何度か殿下と議論を戦わせてきましたが、まったくの平行線でしたよ。このままでは殿下は、この国のすべての貴族を敵に回してでも、いや敵が多くなればなるほど、『真理に目覚めている自分は正しく、抗う相手は卑しい功利主義者だ』との思いを深めるでしょう」
ぽふ、とジュディは思わず背もたれに深く背を預けた。冷静であろうとし、平淡な口調で呟いた。
「議会制を重んじる立憲君主国である以上、そもそも君主にはそこまでの権力は無いのに。たとえ王となれど、王家と貴族をご自身の一言で潰すなど不可能です。殿下はいったい、何を勘違いされているのでしょう?」
国王が独裁に走らぬように、様々な仕組みが数百年がかりで整えられてきているのだ。たとえ王位を継承をしても、周囲の人間を自分の言いなりにできるような権力は、得られるはずもない。それが民のための施策であるというのなら、議会にかけて承認を得るところからだ。そして、議会に信頼を得られていない王の施策は通らない。つまり、王の意思は国政に反映できない。それを押し通そうとするのを「独裁」と言う。多数の賛成しない少数の考えが尊く正しいと民に強いるやり方、それこそが、大いなる危険をはらんでいるというのに。
(殿下のブレーンとなっているご友人に、相当の問題がありそうね。それを鵜呑みにし、宰相閣下と溝を広げる殿下も殿下なのだけど)
段々と、「教育係」として自分が期待されていることがわかってきた。どういうわけかジュディを見込んで抜擢した宰相閣下は、おそらくこのレベルの話ができる相手にフィリップスの再教育を託したいということなのだろう。
「諸悪の根源は王権と貴族だと決めつけてしまっている頑迷さと、ご自身には権力があるとなぜか信じてしまっているあの尊大さ。すべて誤解だ、と私とともに殿下に対して強く言ってくれる先生を探していまして」
ガウェインの苦笑いすら浮かばぬ口元を見て、ジュディは己がなすべきことを承知した。
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