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【前日譚】
一度も考えたことないですよ!?
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「ほんっとーに、ほんっとーにすみません、ごめんなさい。水竜様を諦めさせるためとはいえ、お義兄様を利用するなんて。今まで全然そんなこと一度も考えたこともないですし、目の前にいたから魔が差した!! って感じなんですけど、ごめんなさい。お義兄様も迷惑ですよね、妹と何かあったなんて周りから思われたら。姫様、あれは本当に『嘘』ですからね、『嘘』。私とお義兄様の間には何もありませんから!!」
湖からの帰り道。
森は飛翔魔法で抜けると言うアルスに、プリシラとともに左右からしがみつきながら、ミシュレはひたすら苦しい弁明を繰り返していた。
水竜は、ミシュレの一世一代の嘘に対し、「あ、それなら……、お幸せに」と、妙に納得して湖の中にずぶずぶと沈んでいってしまい、その場は事なきを得たのであるが。
「ミシュレ……、お前、俺のこと?」
困惑しきりのアルスを見て死にたくなり。
「そうだったんだ、ミシュレ。禁断の恋ね」
妙に盛り上がっているプリシラを見ては(姫様が誘導したんじゃないですか!!)と八つ当たりめいた思いで頭がクラクラしつつ、死にたくなった。
死にたくて、死にたい。
「嘘ですってば!!」
もちろんはっきりそう言ったのだが、微妙な空気はいかんともしがたく。
森の上を飛んでいる間中、ミシュレはぐずぐずと「いかに自分がアルスを異性としてなんとも思っていないか」を言い続ける羽目になった。
ずーっと。
(あ~~、ただでさえこんなに迷惑かけているのに、あんなことどうして言っちゃったんだろう。お義兄様もびっくりですよね。どうしよう~~~~)
いたたまれなさ過ぎて、死にたい。
「本当に、私はお義兄様のことを男性として見たことないですから。一度も。ありえないですよ。血がつながっていないとはいえ『兄妹』です。それ以上でもそれ以下でもないですし。あの、お義兄様からしても、妹『以下』ではないと思ってくださっていると信じているんですが。とにかく、私はお義兄様がこの先結婚なさることがあったら心の底から祝福します!! 奥様とお義兄様の間にお子が生まれた暁には叔母として目に入れても痛くないってくらい可愛がりますから!! 実際、お義兄様の子どもでしたら絶対かわいいと思います。私、お義兄様ほど素敵な男性これまで会ったことないですから。あ、これ、その、男として見てるって意味ではなく本当に見た目の話です! 見た目だけではなくお義兄様は中身もパーフェクトなわけで、ほんと妹でもなければ近づけなかったと思うので、いまの関係で良かった~~、ですよ。私、前世でどれだけ善行積んだのかなって」
話せば話すほど、二人が静まり返っていく。
引っ込みがつかなくなり、ミシュレはひとりで喋り続けていた。
「それにしてもお義兄様、まだ全然結婚なさる気配もありませんよね。私とはよくお休みを合わせて会ってくださいますけど。私が実家に帰っているタイミングで、お義兄様もよく帰ってらっしゃいますし。たまのお休みなんですよね……? その、私から踏み込んだこと聞いてはいけないと今まで自重してきましたけど、恋人ですとか、お付き合いなさっている方は……」
静まり返った夜空には星がまたたいていて、アルスから明確な返事はなかった。
プリシラもその件に関しては無言を貫いていた。やがてミシュレも無言になった。
森を抜けても、電車の時間はとうに過ぎて駅に向かうわけにもいかない。さすがに王都まで戻ることもできず、近くの街で宿を求めることになった。
なお、ミシュレの怪我はアルスが治してくれていたが、服はぼろぼろである。
宿の手続き、部屋に食事を運び込む手配を済ませて、アルスは着替えまで調達してくれた。
二部屋を取り、ミシュレとプリシラ、アルスと部屋を分けて一泊。
その間、件のミシュレの問題発言に関しては、もはや誰も触れなかった。
――わ、私は、その、処女ではありませんので、
――相手はこのひとです! 義兄のアルスです! 兄とはいえ、血も繋がっていませんので、思いを遂げさせてもらったんです!!
――だから私、生娘ではありません!
(どうしてあんなことを言ってしまったのか)
木桶の風呂に膝を折って浸かりながら、ミシュレは額をごんごんと叩き続けた。
コメントらしいコメントをくれないアルスが、空恐ろしい。
プリシラも、嘘だと了解してくれているはずだとミシュレは信じているが、やはり何も言ってくれないのでどうしてよいかわからない。
絶大なる後悔に襲われて、ミシュレは何度もため息をついた。
湖からの帰り道。
森は飛翔魔法で抜けると言うアルスに、プリシラとともに左右からしがみつきながら、ミシュレはひたすら苦しい弁明を繰り返していた。
水竜は、ミシュレの一世一代の嘘に対し、「あ、それなら……、お幸せに」と、妙に納得して湖の中にずぶずぶと沈んでいってしまい、その場は事なきを得たのであるが。
「ミシュレ……、お前、俺のこと?」
困惑しきりのアルスを見て死にたくなり。
「そうだったんだ、ミシュレ。禁断の恋ね」
妙に盛り上がっているプリシラを見ては(姫様が誘導したんじゃないですか!!)と八つ当たりめいた思いで頭がクラクラしつつ、死にたくなった。
死にたくて、死にたい。
「嘘ですってば!!」
もちろんはっきりそう言ったのだが、微妙な空気はいかんともしがたく。
森の上を飛んでいる間中、ミシュレはぐずぐずと「いかに自分がアルスを異性としてなんとも思っていないか」を言い続ける羽目になった。
ずーっと。
(あ~~、ただでさえこんなに迷惑かけているのに、あんなことどうして言っちゃったんだろう。お義兄様もびっくりですよね。どうしよう~~~~)
いたたまれなさ過ぎて、死にたい。
「本当に、私はお義兄様のことを男性として見たことないですから。一度も。ありえないですよ。血がつながっていないとはいえ『兄妹』です。それ以上でもそれ以下でもないですし。あの、お義兄様からしても、妹『以下』ではないと思ってくださっていると信じているんですが。とにかく、私はお義兄様がこの先結婚なさることがあったら心の底から祝福します!! 奥様とお義兄様の間にお子が生まれた暁には叔母として目に入れても痛くないってくらい可愛がりますから!! 実際、お義兄様の子どもでしたら絶対かわいいと思います。私、お義兄様ほど素敵な男性これまで会ったことないですから。あ、これ、その、男として見てるって意味ではなく本当に見た目の話です! 見た目だけではなくお義兄様は中身もパーフェクトなわけで、ほんと妹でもなければ近づけなかったと思うので、いまの関係で良かった~~、ですよ。私、前世でどれだけ善行積んだのかなって」
話せば話すほど、二人が静まり返っていく。
引っ込みがつかなくなり、ミシュレはひとりで喋り続けていた。
「それにしてもお義兄様、まだ全然結婚なさる気配もありませんよね。私とはよくお休みを合わせて会ってくださいますけど。私が実家に帰っているタイミングで、お義兄様もよく帰ってらっしゃいますし。たまのお休みなんですよね……? その、私から踏み込んだこと聞いてはいけないと今まで自重してきましたけど、恋人ですとか、お付き合いなさっている方は……」
静まり返った夜空には星がまたたいていて、アルスから明確な返事はなかった。
プリシラもその件に関しては無言を貫いていた。やがてミシュレも無言になった。
森を抜けても、電車の時間はとうに過ぎて駅に向かうわけにもいかない。さすがに王都まで戻ることもできず、近くの街で宿を求めることになった。
なお、ミシュレの怪我はアルスが治してくれていたが、服はぼろぼろである。
宿の手続き、部屋に食事を運び込む手配を済ませて、アルスは着替えまで調達してくれた。
二部屋を取り、ミシュレとプリシラ、アルスと部屋を分けて一泊。
その間、件のミシュレの問題発言に関しては、もはや誰も触れなかった。
――わ、私は、その、処女ではありませんので、
――相手はこのひとです! 義兄のアルスです! 兄とはいえ、血も繋がっていませんので、思いを遂げさせてもらったんです!!
――だから私、生娘ではありません!
(どうしてあんなことを言ってしまったのか)
木桶の風呂に膝を折って浸かりながら、ミシュレは額をごんごんと叩き続けた。
コメントらしいコメントをくれないアルスが、空恐ろしい。
プリシラも、嘘だと了解してくれているはずだとミシュレは信じているが、やはり何も言ってくれないのでどうしてよいかわからない。
絶大なる後悔に襲われて、ミシュレは何度もため息をついた。
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