短編集

有沢真尋

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「騎士団長なんて無理です!筋肉に興味はありません!」

【5】

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「どうしてそこまで反筋肉なの?」

 王妃付きの先輩侍女にして、落ち着いた大人の女であるララに優しく問いただされて、クレアはさめざめと泣き真似をした。

「べつに反筋肉というほど反筋肉ではないです。ただ、知的な男性がいいんですよ……。こう、おとなしーくて、やさしーくて、そばでいつも笑っているような」

(それこそララさんの御夫君、宰相閣下のような……!!)

 さすがに横恋慕を疑われてはたまらないのでそこまでは言えなかったが、言った部分はすべて嘘偽りのない本音である。
 ララは、にこりと慈愛に溢れた笑みを浮かべて言った。

「そんな男この世にいるわけないでしょう? 夢見るのもいい加減になさい」

 声は優しいのに、セリフはあまりにもきつい。
 クレアはもともと嘘泣きということもあり、別段濡れてもいない顔を上げて確認のために尋ねた。

「でも、ララさまの宰相閣下は」

 にこっ。
 
(え、笑った……? なんですかその意味深な笑み……!!)

 場違いなまでの微笑。脅されたわけでもないのに心臓がドキドキして身動きすらできない。

「もちろん私は夫に不満はないけれど。あなたは優しいだけの男なんて幻想追いかけていないで、現実を見なさい。団長は良い筋肉よ」
「筋肉って言った!! やっぱりララさんだってそう思ってるんじゃないですか!! 団長は筋肉だけの男だって、そういう意味ですよね!?」
「ごめんなさい。間違えたわ。団長は優しい筋肉よ」
「混ぜただけじゃないですか!!」
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